【要約】『FACTFULNESS』世界を正しく見るために排除すべき10の思い込み

【要約】『FACTFULNESS』世界を正しく見るために排除すべき10の思い込み




 『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』を読んでみたいと思ったきっかけは、ある新聞記事でした。ビル・ゲイツが、2018年にアメリカの大学を卒業した希望者全員に、この本を無料でプレゼントしたというのです。そこまでして推薦するのだから、きっとものすごく良い本に違いない!そう期待が膨らんで読んでみることにしました。

 ページをめくると、突然クイズが始まります。世界で起きていることについての簡単な問題が、全部で13問。

 例えばこんな問題です。

 世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子どもはどのくらいいるでしょう?

A. 20%
B. 50%
C. 80%

 日本は100%に近い接種率だろうけれど、先進国でも公的な保険制度が整っていないアメリカや、僻地に暮らす南米や東南アジア、中東の1歳児はどうだろうか。アフリカは……?

 わたしは、Bを選びました。あなたはどうでしょうか?

 クイズの正解はCです。著者が世界14ヵ国、1万2,000人にこのクイズを実施したところ、正解率21%のスウェーデンを除き、すべての国で正解率は2割に届かなかったそうです。日本人で正解したのは、なんとわずか6%です。

 わたしたちは、なぜこんなにも世界を勘違いして捉えているのでしょうか。著者によれば、わたしたちの多くが10の思い込みをしているからだといいます。

 本書は、医師であり、グローバルヘルスの教授でもあり、TEDトークの人気スピーカーとしても有名なハンス・ロスリングと、彼の息子であるオーラ・ロスリング、そしてオーラの妻のアンナ・ロスリング・ロンランドによる共著です。

 この本をお勧めする最大の理由は、読めば世界を正しく理解できるようになるからです。

 正確なGPSが道案内に役立つように、正しく世界を見ることができるようになると、迷子になることなく人生を歩めるようになります。また事実に基づいて世界が見えるようになると、心が穏やかになります。不思議なことに、読了後、本当に気分が清々しくなりました。

 そしてもう1つ、世界をより良くするために、わたしたちに何ができるのか、何をするべきなのかが見えてきます。

 さっそく、わたしたちが世界についてどのような思い込みをしているのかを見ていきましょう。全部で10項目ありますので、気になるものだけでもチェックしてみてください。



【分断本能】「世界は分断されている」という思い込み

 わたしたちは、様々な物事や人々を2つのグループに分けたがります。これが「分断本能」です。よく「勝ち組」という言葉を耳にしますが、「勝ち組」ではないと必然的に「負け組」のような気がしてしまいます。「金持ち」と「貧乏」、「先進国」と「発展途上国」など、身の回りには分断本能による思い込みが溢れています。

 しかし実際は、ほとんどの物、人が2つのグループの中間に位置しています。

 例えば、世界は「先進国」か「発展途上国」ではなく、以下のように4つのグループに分かれていると著者はいいます。分類基準は、1日あたりの米ドル換算の所得です。

  • レベル1:1日2ドル未満【およそ10億人】
  • レベル2:1日2~8ドル【およそ30億人】
  • レベル3:1日8~32ドル【およそ20億人】
  • レベル4:1日32ドル以上【およそ10億人】

 世界の人口をおよそ70億人とした場合、上記のようにほとんどの人が中間層にいることがわかります。物事や人々を2つのグループに分断して理解しようとすると、大多数を見落とすことになりかねないということです。それはとても危険なことです。ビジネスや教育場面でも、こうした思い込みは日常的に起きています。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • 「分断」を示す言葉に気づくこと
  • 大半の人(物)がどこにいるか探すこと

【ネガティブ本能】「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み

 わたしたちは、物事のポジティブな面より、ネガティブな面に注目しがちです。それは「ネガティブ本能」が働くからです。

 大昔、我々の先祖は、ネガティブ本能のおかげで飢えや敵から身を守ることができました。しかし現代人のわたしたちは、ネガティブ本能が働き過ぎると世の中の良い出来事に目が向かなくなります。

 ニュースを見ていると、自然災害や殺人事件など、世の中では悪いことばかり起きているという気がしませんか? それもそのはず。悪い出来事の方がニュースになるからです。

 最近話題になった「Black Lives Matter」という抗議デモは、アメリカで白人警官が黒人男性の首を圧迫して死亡させた事件をきっかけに、世界中に広まりました。しかし、どうでしょう、白人警官が川で溺れる黒人の子どもの命を救っても同じようにニュースになるでしょうか。

 ネガティブ本能がこんなにも敏感に働く理由の1つは、わたしたちの生活が豊かになっているからです。暮らしが良くなるにつれ、より高度な教育を受けるようになり、心に余裕も生まれます。すると、世の中の悪事や災いに関心が向き、監視の目が厳しくなるのです。

 もちろん人種差別は看過できるものではないですし、極度の貧困生活を送る人たちを無視するわけにはいきません。けれども、物事の一部だけを見てネガティブに捉えてしまうのは残念なことです。

 「悪い」と「良くなっている」は両立するのです。数十年前まで、アメリカの路線バスには白人用とそれ以外の人の席がありました。アメリカに住む高齢者の方は今でもその事を覚えています。現在、そんな路線バスは1台も走っていません。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • ネガティブなニュースの方が話題になりやすいと覚えておくこと
  • 「悪い」と「良くなっている」は両立することに気づくこと

【直線本能】「世界の人口はひたすら増え続けている」という思い込み

 日本は少子高齢化による人口減少が問題になっていますが、国連は、2100年には世界の人口が今より40億人増えると予測しています。世界人口を表した折れ線グラフ(または棒グラフ)を見ると、ものすごい右肩上がりになっています。ここで気を付けるべきなのが「直線本能」です。

 わたしたちは、右肩上がりに伸び続けるグラフを見ると、線の続きを想像します。このままひたすら伸び続けるに違いないと……。しかし右肩上がりにひたすら伸び続けるグラフは、世の中にどれくらいあるでしょうか。毎年増え続けるわたしの体重にも、限度はあります。世界の人口も同じです。国連は、2100年頃には世界の人口は横ばいになり、安定すると見ています。

 右肩上がりのグラフだけでなく、世の中には様々な形のグラフがあります。S字カーブのものもあれば、すべり台のような形もあるし、デコボコのグラフだってあります。何かの現象を正しく見極めるには、直線本能による思い込みを振り払う必要があるのです。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • 「グラフはまっすぐ伸るだろう」という思い込みに気づくこと
  • グラフには様々な形があることを忘れないようにすること

【恐怖本能】危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み

 身の危険を感じると「恐怖本能」が反応します。人間が進化する過程で、これはとても重要なことでした。ただ、所得レベル4の生活をする現代人が、日常の中で身の危険を感じることはほとんどありません。それなのに、わたしたちは未だに恐怖本能からリスクを過大評価し、事実を見落とすというミスをしがちです。

 日本は、地震や台風などの自然災害が多い国です。しかし世界全体に目を向けると、自然災害による死亡率は100年前と比べて半分以下どころか、6%まで減少しています。自然災害が起こると、大きなニュースになります。現地の悲惨な映像を目にすれば、誰しも恐怖心が掻き立てられます。

 一方で、年間33万人もの子どもが、汚染された飲み水による下痢が原因で命を落としています。しかしこの事実はトップニュースになりません。多くの子どもにとって汚染水は危険なのに、わたしたちの恐怖本能が反応することもありません。

 飛行機事故も、恐怖本能による思い込みをしやすいニュースの一つです。飛行機事故は大きく報道されます。しかし、世界中の空港に無事に着陸した99.9999%の旅客機が報道されることはありません。

 本当に危険なものは何か、その判断をジャマするのが恐怖本能です。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • 「恐ろしいものには自然と目がいく」ことに気づくこと
  • 「恐ろしい」と思う前に、現実を見るようにしよう

【過大視本能】「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み

 ユニセフによれば、2016年、世界全体でおよそ420万人の0歳児が亡くなったそうです。原因の多くは、簡単に予防できる病気です。幼い子どもを持つ身として、とてもやるせない気持ちになります。420万という数字は、決して少なくありません。正直、それがわたしの印象です。

 しかし、それは思い込みだと著者はいいます。前年の2015年には440万人の赤ちゃんが命を落としたのです。さらにその前の年は450万人です。2年間で命を落とす0歳児は30万人減りました。奇跡が起きたわけでも、偶然でもありません。世界の国々は、より良くなっているのです。

 目の前の数字に悲観していると、世界中にいる多くの人々の生活が少しずつ豊かになっているという事実に気づくことができません。

 最近よく話題になる各国の二酸化炭素の排出量ですが、この問題も過大視本能が働きがちです。中国やインドといった、新興国による二酸化炭素排出量の増加がニュースになることがあります。あたかも中国やインドが、地球温暖化を加速させているようにメディアが伝えているのを見聞きしたことはないでしょうか。確かに、2019年時点でインドは世界第3位の二酸化炭素排出国です。しかし、インドには13億人以上の人が暮らしています。1人当たりの二酸化炭素排出量を比較すれば、責められるべきはレベル4の生活をしているわたしたちであることがわかります。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • 一つの数字がとても重要であるかのように勘違いしてしまうことに気づくこと
  • 数字は必ず比較してみること

【パターン化本能】「一つの例がすべてに当てはまる」という思い込み

 人間は、物事をパターンに当てはめて考える生き物です。無意識のうちに、それをやっています。なぜなら、生きていく上でパターン化することは欠かせないからです。

 ここで大切なのは、わたしたちは物事をパターン化する本能を持っていると自覚することです。

 日本を訪れたアメリカ人観光客が、納豆をおいしいと言って食べているのを見て、「アメリカ人は納豆が好きなんだ」と考えることは危険なことです。帰国子女であるわたしの経験上ですが、納豆が好きなアメリカ人はあまり多くありません。

 同じように、薪でお湯を沸かす生活をしている途上国の人たちは、わたしたちが使うような生活用品は求めていないだろうなどと上から目線でパターン化して物事を考えていると、大きなビジネスチャンスを逃すと著者は指摘します。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • 1つの集団のパターンを根拠に物事が説明されていないか疑うこと
  • 「過半数」や「例外」に注意すること

【宿命本能】「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み

 物事が上手くいかないとき、「どうせ自分なんて」「こういう運命なんだ」と考えたことがある人は多いと思います。それは、わたしたちには宿命によって物事は決まると思い込む本能があるからです。

 自分自身に限らず、他の人や物事を考えるときも、この宿命本能は働きます。例えばレベル4の生活を送るわたしたちの多くは、アフリカの国々はいつまでたっても後進国だと考えがちです。

 けれど、それは思い込みです。以前ご紹介した、落合陽一さんの『2030年の世界地図』にも書かれていましたが、ケニアでは電子マネー「Mペサ」が最もポピュラーな決済手段です。日本では政府が四苦八苦しながら電子決済を普及させようとしているのに、ケニアではあっという間に広がりました。アフリカ諸国の多くは30歳未満を中心とした若者社会です。若者たちの柔軟なマインドによって、最新のテクノロジーはものすごいスピードで生活に取り込まれているのです。

 「どうせこういう運命なんだ」という思い込みで世界を見ていると、時代の流れに取り残されてしまうかもしれません。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • いろいろなもの(人、国、宗教、文化など)が変わらないように見えるのは、変化がゆっくりと少しずつ起きているからだと気づくこと
  • 知識をアップデートしよう

【単純化本能】「世界は一つの切り口で理解できる」という思い込み

 わたしたちは、様々な問題に一つの原因と一つの解答を当てはめてしまう傾向があります。これが「単純化本能」です。先述した二酸化炭素排出量の問題について、中国とインドが排出量を減らせば一件落着と考えてしまうのは、まさに「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込みです。

 ユニセフに寄付すれば、世界中の貧しい子どもたちを救えるような気がするのも単純化本能の仕業です。そのことに気づかず、寄付することで満足して別の支援方法を考えることをやめてしまうと、そこから先に進むことはできません。

 思い込みに気づかずにいると、問題を見誤り、解決策を見落としてしまいます。目の前の数字、専門家の言い分、自分の考え方、あらゆるソースをじっくりと検証しみてることが大切です。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • 一つの視点だけでは世界を理解できないと知ること
  • 単純なものの見方と、単純な答えには警戒しよう

【犯人捜し本能】「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み

 何か悪い事が起きたとき、単純明快な理由を見つけたくなるのが、犯人捜し本能です。コロナウイルスが世界各国に拡散したことを、中国とアメリカがお互いに相手のせいにしようとしているのも、まさに犯人捜し本能が影響していると言えます。

 著者は、「誰かを責めれば物事は解決する」と思い込むのは非常に危険なことだと指摘します。なぜなら、誰かを責めることに意識が向くと、そこで学びが止まってしまうからです。加えて、わたしたちには自分の思い込みに合う悪者を犯人に仕立てようとする傾向があり、とんでもない方向に解決策を見出そうとしてしまう可能性もあります。

 新たな一歩を踏み出すのに、犯人捜しは役に立ちません。

ファクトフルネスを取り入れるには…?

  • 誰かが見せしめとばかりに責められていたら、それに気づくこと
  • 犯人ではなく、その状況を生み出した原因やシステムを理解することに力を注ごう

【焦り本能】「今すぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

 テレビショッピングなどで「特別価格は今だけ!すぐにお電話を」というセールストークをよく耳にします。これは今やらないと手遅れになると思い込ませることが、焦り本能を引き出すコツだからです。

 焦り本能が働くと、正しい分析ができなくなり、隅々まで考え抜く前に過激な手を打ちたくなります。急かされるとそれがストレスとなり、大きく判断を誤るのです。

 一方で、遠い未来のリスクとなると、誰も焦らず、すぐに手を打たなければとは感じません。いつ起こるか不確かな関東大震災への備えや、老後のための貯金が人任せだったり、いい加減だったりするのは、焦り本能が刺激されないからです。

 ここで注意したいのが、焦り本能に従って行動していると、本当のリスクを見落とす危険性があることです。

 本書では、心配すべき5つのグローバルリスクが挙げられています。

  • 感染症の世界的な流行
  • 金融危機
  • 世界大戦
  • 地球温暖化
  • 極度の貧困

 本書が執筆されたのは2018年です。リスクの1つ目は、まさに的中してしまいました。過去にも、スペイン風邪などの感染症が世界中に流行したことがあるにもかかわらず、多くの国が危機感を持っていなかったため、万全な対応策が整っていませんでした。

ファクトフルネスを取り入れるには…

  • 「今すぐに決めなければならない」と感じたら、自分の焦りに気づくこと
  • データにこだわろう

ファクトフルネスを実践しよう

 ファクトフルネスの視点を身に付けるために大切なのは、謙虚さと好奇心だといいます。そうすれば、自分の知識は限られていることを認め、新しい事実を快く受け入れることができるからです。そして好奇心があれば、いつも新しい情報を発見し続けることができます。

 FACTは「事実」、FULLNESSは「充満、十分」という意味です。ファクトフルネスとは、著者が指摘する10の思い込みに気づき、十分な事実に基づいて世界を見ることです。ファクトフルネスを実践しながら、今日のニュースをチェックしてみてください。昨日までと世界の見え方が変わるはずです。

 本書は、脚注や付録も含めると397ページもあるので読むのを躊躇してしまうかもしれません。しかしTEDの人気スピーカーである著者による文章は、愉快なトークショーを聞いているかのようにページを読み進めることができます。興味深い写真やグラフも多く掲載されていますので、興味を持たれた方はぜひ手に取ってみてください。




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