外山滋比古『知的文章術』〜読まれる文章のコツとは?

外山滋比古『知的文章術』〜読まれる文章のコツとは?




 こんにちはHIKARUです。あなたは「どんな仕事でも必要とされるスキル」とは何かご存知でしょうか?

 実は英語やプログラミングよりも重要なスキルがあります。それは「文章力」です。私たちは日々、書類づくりや取引先との連絡、社内連絡などで文章を使います。文章力ほどビジネスと切っても切り離せないスキルはありません。

 今回紹介するのは、外山滋比古氏の著書『知的文章術』です。200万部越えのベストセラー『思考の整理学』を生み出した外山氏は、まさに文章のプロ。雑誌の編集長、大学教授を経て執筆活動を続ける外山氏の文章は、常に読みやすさを重点において書かれています。

 私たちも外山氏秘伝の文章術を学び、一段上の読みやすい文章を書けるようにしましょう!



読まれる文章のコツ

書くスピードを意識する

 さてここでクイズを1つ。よい文章を書くためには、時間をかけてゆっくり書くべきか、思い切って速く書くべきか、どちらだと思いますか?

 正解は後者です。文章を書くのが苦手な人に限って、ゆっくり慎重に書きます。間違えないように丁寧に書こうとする。しかしこれが仇となってしまいます。

 そもそも、文章を読む側の人間と書く側の人間には、決定的な違いがあります。それは「スピード」です。恐らく読者のみなさんは、この記事を5分程で読み終わるでしょう。それに対して、私が5時間もかけて文章を書いていては、あまりにスピードが違いすぎます。読み手の読むスピードと、書き手の書くスピード。両者の差が大きくなると、読み手がノれなくなってしまいます。

 外山氏は、次のように述べています。

 速く書かれたものが、遅筆の人が考えたがるように、必ずしも雑ぱくな文章ときまったものでもない。速く書いたために、筆勢があって、読んでいると、その流れに乗せられて独特な快感を覚える。そういう巧速ともいうべき文章があることを見落としてはならない。(p.68)

 文章を書くことが苦手な方は、1度肩の力を抜いてみるといいかもしれません。

接続詞を削る

 次に、こちらの例文を読んでみて下さい。

 なぜ”東京”がダメで、”京都”なのであろうか。これは観光のことではない。なぜノーベル賞は”京都”なのか、という問題である。というのは、今度ノーベル化学賞を受けた福井謙一京大教授もそうだし、湯川秀樹、朝永振一郎、江崎玲於奈氏など科学関係の受賞者は、いずれも三高ないし京大で、学問をはぐくんでいる。しかし経済大国の首都トーキョーは、そういう人材を生み出していない。これには世界に誇る独創的研究を育てにくい理由でもあるのだろうか。(p.82)

 この文章には大きな問題点があります。接続詞が多すぎるのです。余計な接続詞の「つなぎ」が多くなると、文章のスピード感が失われてしまいます。こちらが外山氏による修正版です。

 なぜ”東京”がダメで、”京都”なのか。観光ではない。ノーベル賞のことである。こんどノーベル賞を受けた福井謙一京大教授をはじめ、湯川秀樹、朝永振一郎、江崎玲於奈の四氏が、いずれも京都の三高、京大で学問をはぐくんでいる。経済大国の首都トーキョーには、世界に誇る独創的研究を育てにくい何かがあるのだろうか(p.84)

 非常にスッキリしましたよね。文章と文章のつながりを意識しすぎると、かえって読みずらくなってしまうのです。文と文の間に多少の余白がある方が、さわやかな印象を与えられるでしょう。

形容詞・副詞を削る

 多用すると危険なのは、接続詞だけではありません。形容詞や副詞も使いすぎに注意しなければなりません。次の文章を見てみましょう。

 豊かな人間性とすぐれた個性をそなえたりっぱな職員になろうと新たな希望をもって、新しい職場へ移りました。

 形容詞が多すぎて読みづらいですよね。

 外山氏による修正版がこちらです。

 個性を持った職員になろうという希望をもって新しい職場へ移りました。

 贅肉がそぎ落ち、文章の筋道がハッキリしました。形容詞と副詞もなるべく削るように心がけましょう。

文章の構成

 文章は一文一文のつながりで構成されています。1つの文がどれだけ優れていても、構成がめちゃくちゃでは元も子もありません。

 次は文章を構成の観点から見ていきましょう。

書き出しで興味を引く

 読者が一番初めに読むのは、文章の書き出しです。ここを読んで、その先を読み進めるか他に移るかが決められます。そのため「先を読まずにはいられない」と思わせるような書き出しが必要となります。

 ここで異なる文章の書き出しを2つ読んでみましょう。

 どうも日本人は、猿まねのうまい人種のようだ。他人のまねばかりしたがるような気がしてならない。(p.130)

 国鉄の赤字ローカル線の廃止が発表されるや、沿線住民や県市町村議会等が、一斉に反対、存続の運動を起こしている。(p.130)

 これらの文章は、新聞の投書欄に載った文章の冒頭部分です。いかがでしょうか?

 1つ目が何を言いたいのかハッキリしないのに対し、2つ目は要領よく感じられます。ローカル線の廃止になぜ反対の声が挙がったのか? 読者の興味をそそります。

 外山氏によると、書き出しさえできれば、文の半分が完成したと言えるそうです。文章の書き出しには細心の注意を払いましょう。

終わりで余韻を残す

 初めが肝心と書きましたが、同じぐらい終わりも重要です。終わりは読者の余韻を決定づけます。過去に読んだ本を思い出してみて下さい。途中の文章より結末を思い出しませんか?

 私事ですが、三島由紀夫の『金閣寺』で主人公が金閣を燃やすシーンは、今でも脳裏に焼き付いています。終わりは記憶の中の文章を大きく色づけるのです。初めと終わりに注意し、中盤は勢いよく書く。これが文章を書く秘訣です。

推敲は音読で

 文章を書き上げたら、必ず推敲をしましょう。素晴らしい文章を書いたつもりでも、何度か読み通すとミスが見つかることがあります。誤字脱字があっては、よい文章になりません。推敲の際は、意地悪な読者になったつもりで読み返してみることが大切です。

 外山氏のおススメは「風を入れる」ことと「声に出す」こと。執筆後、書き手は熱が冷めていないため、うまく推敲が出来ません。何日か置いて(風を入れて文章を冷まし)音読をすることで、冷静に推敲ができ、読者が読みやすい文章が完成するのだそうです。

 職場での書類づくりやメール、SNSへの投稿など、私たちの生活には文章が溢れかえっています。「知的文章術」は今日からでも私たちの日常に取り入れられるでしょう。

 今回紹介したポイント以外にも、本書にはたくさんの文章術が盛り込まれています。是非この機会に「文章のプロ」から文章の書き方を学んでみてはいかがでしょうか?




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HIKARU
ロック大好き大学生。『美女読書スキルアップサロン』『箕輪編集室』に参加しています。
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