こんにちは、ヒイラギです。
コロナ禍になってからというもの、自宅で映画や海外ドラマを観る機会が増えました。
わたしは2017年からNetflixを利用しているのですが、アプリを開くとホーム画面には映画や海外ドラマ、アニメなどがずらりと並びます。どれも面白そうでそそられます。それもそのはず、Netflixの超優秀なアルゴリズムがわたしのためだけに、お薦めのコンテンツを紹介してくれるのです。実は、多くの人がNetflixにハマってしまう秘密はここにあります。
わたしと同じようにNetflixの虜になっている人は、世界190ヵ国以上に2億人いると言われています(2020年時点)。
1997年、オンラインでDVDレンタルを行う小さなスタートアップとして誕生したNetflixが、瞬く間にGAFAと並ぶ巨大グローバル企業に成長できたのはなぜなのでしょうか。
『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』には、Netflixが成功を収めるまでの驚くべき裏舞台がドラマチックに綴られています。
本書がアメリカで刊行されたのは2012年。そのため、ストーリーはNetflixが郵便DVDレンタルを主なサービスとして提供していた頃が中心です。しかしNetflixのビジネスモデルのキモは、当時も今も大きく変わりません。むしろそこがブレずにいたからこそ、現在のような誰もが知る企業へと成長できたのだと言えます。
著者のジーナ・キーティング氏は、米UPI通信、英ロイター通信を経たのち、フリーランスとしてビジネス誌フォーブスなどに寄稿している経済ジャーナリスト。本書を執筆するにあたり、著者は全米各地を飛び回り、100人以上にインタビューを実施したそうです。その結果わかったのは、Netflixが世界征服を果たすことができたのには、やはり秘密があったということです。
この記事では、Netflixの成功に大きな影響を与えた3つの要素をご紹介します。
Netflix3つの成功要因
①天才経営者ヘイスティングスの存在
まず何と言っても、CEOを務めるリード・ヘイスティングスの存在が大きいでしょう。
もともとNetflixは、ヘイスティングスとマーク・ランドルフという2人の人物が立ち上げた、郵送DVDレンタルの会社です。当初主流だったVHSではなく、一般向けに販売スタートされたばかりのDVDにランドルフが目を付け、いち早く時代の波に乗りました。
しかし創業してわずか7年、そんなランドルフはNetflixを追い出され、ヘイスティングスがNetflixの「顔」に納まります。ヘイスティングスが普通ではないポイントは、ここにあります。利益を出すためなら、血も涙もない決断をいとも簡単にやってのけるのです。
たとえばNetflixの人事責任者を、ヘイスティングスは同僚たちの前で平然と解雇し、自らスカウトしてきたパティ・マッコードを抜擢しました。誰もが驚き、あっけに取られましたが、ヘイスティングスは気にも留めません。
冷酷にも見えるヘイスティングス。学生時代から数学に熱中し、スタンフォード大学大学院でコンピューターサイエンスの修士号を取得しています。周囲からは、「冷静で分析好き、自分の意見を決して曲げない性格」と言われていたようです。
しかし決して意地が悪かったわけではありません。どうやら人間関係も含めて、物事をすべてデータに落とし込んでしまう性格だったようです。そんなヘイスティングスについて著者は、「共感というDNAを持ち合わせていなかった」と説明しています。
しかし、だからこそNetflixには常に優秀な人材がそろっていました。そしてその最強チームで、データが導くビジネス戦略に則って着実に利益を伸ばしていったのです。
②常に最強のチームで戦う
最強のチームで戦うという姿勢、これまもたNetflixが大きく成長した要素の1つです。
創業者ですら追い出されるNetflix。投資家たちを味方につけたヘイスティングスが経営権を掌握すると、創業時からの経営陣を一掃します。アットホームな雰囲気のスタートアップは、あっという間に、結果がすべてのプロスポーツチームへと変貌を遂げたのです。
このあたりの詳細は、以前に『Netflixの最強人事戦略』の記事で紹介していますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。著者は先ほど登場した人事責任者のマッコード氏で、人事目線のとても読み応えのある一冊になっています。
さて、ここでぜひ紹介したいのが、エリート集団の1人であるレスリー・キルゴア。幹部人材としてヘイスティングスが採用した人物で、2000年にNetflixに入るまでは、Amazonなどでマーケティング部門を率いてきたやり手です。
ヘイスティングス同様、他人の気持ちを理解するのが苦手で、やや社会性に欠けるものの、頭の鋭さでは、ヘイスティングスを上回るとも言われ、一目置かれていたそうです。
そんな彼女のセンスを感じるエピソードがあります。大々的な広告キャンペーンを打つのに合わせて、Netflixのロゴとイメージの刷新を図る中、キルゴアは絶好の広告媒体に気づきました。ずばりそれは、NetflixがDVDレンタル用に使う専用封筒です。これを目立たせることができれば、人々はNetflixに興味を持つと考えたのです。
想像してみてください。友人の家に遊びに行くと、テーブルの上にひときわ目を引く封筒が置かれていたら……。思うはずです、「これは何だろう?」と。キルゴアの策略は大成功しました。大金を投入せずに、知名度を上げることができたのです。
現在、Netflixのロゴといえば、黒地の背景に赤字で「N」と描かれたものがぱっと思い浮かぶと思います。しかし以前は、白黒で描いた社名をアーチ状にし、劇場の赤いカーテンを思わせる背景を使ったロゴが採用されていたそうです。このデザインはキルゴアのアイデアではありません。ユーザーへのインタビューを重ね、地道に実地調査を行った結果から導き出されたものです。
実はこうしたデータ重視の姿勢は、Netflixを成功に導いたビジネスモデルのキモとも言えます。
③データ分析から導き出された超優秀なアルゴリズム
長年、Netflixのアルゴリズムは、Amazonのものに匹敵するほどの素晴らしい出来だと言われてきました。このNetflixのアルゴリズム、どのように誕生したのでしょうか。
創業して間もない頃、NetflixはDVDの在庫不足という問題を抱えていました。そこでエンジニアチームがエネルギーを注いだのが、レコメンドエンジン「シネマッチ」の開発です。Netflixのホームページ上に、ユーザーの好みの映画を選んでお薦めする機能があれば、在庫が少ない人気作品からユーザーを遠ざけ、過去の名作へと誘導することができると考えたのです。
見込みどおり、「シネマッチ」の活躍で、Netflixは大量のDVDを仕入れることなく、在庫不足問題を解決することができました。
とは言え、ユーザーの好みを予測するアルゴリズムを開発するのは容易ではありません。人々は監督や俳優で映画を選ぶのに、似たようなキャストで制作された同じような内容の映画を嫌うことが多々あったのです。
エンジニアチームは、こうした現象をうまく解明することができませんでした。そのため外部から数学者たちをを招き入れて、レコメンドエンジンを完成させたそうです。
ヘイスティングスはその後もシネマッチの精度を高めるために、アルゴリズムの開発を続けました。なぜなら、次々と面白い映画やドラマを教えてくれるシネマッチの虜になったユーザーは、何度でもNetflixのサイトを訪れたくなると考えたからです。
アルゴリズムを一段と飛躍させるために、ヘイスティングスはなんと、賞金100万ドルのアルゴリズムコンテストを開催しました。驚くべきことに、このコンテストには世界186ヵ国から、4万チーム以上が参加登録したそうです。
そしてついに、最強のレコメンドエンジンが誕生しました。コンテストの優勝チームは、シネマッチの精度を10%以上向上させることに成功したのです。10%の向上は、どれほどすごいことなのか。当時、Netflixはユーザーに好みの映画を星5つで評価してもらっていました。新しく出来上がったシネマッチは、ユーザーの好みとの誤差が0.5から0.75星の範囲に収まるという驚異的な完成度だったのです。
しかも、ユーザーにわざわざ映画を星5つで評価してもらわなくても、サイトに組み込まれたプログラムが勝手にユーザーの行動(何曜日の何時に何を観たかなど)を観察し、好みの映画を薦めることができるようになったのです。今でこそ当たり前の仕組みですが、当時これは超最先端の技術でした。
世界中の技術者たちを奮起させてまで精度を高めたレコメンドエンジンによって、Netflixは多くのユーザーを獲得し、利益をぐんぐんと伸ばしていったのです。
ぜひ今度、Netflixのアルゴリズムがお薦めする映画を観てみてください。きっと気に入るはずです。
おわりに
この記事では、Netflixの成功の秘密をご紹介しましたが、実は本書の読みどころはもう一つあります。米国で実店舗を構えるDVDレンタル最大手、ブロックバスターとの熾烈な戦いです。
値上げ競争やコンテンツの奪い合い、スパイ行為などの様子は非常にドラマチックで、まるで小説を読んでいるかのようなドキドキ感が味わえます。
本書は、Netflixファンの方や、起業に興味のある方に特におすすめです。ぜひ手に取ってワクワク、ドキドキしてみてください。