「何時間寝ても疲れがとれない」「朝起きた時から体がダルい」…何かと忙しい毎日をおくる現代人にとって、多くの人がこのような悩みを抱えているのではないでしょうか。
厚生労働省の調べによると、今や5人に1人が睡眠の不満や悩みを抱え、睡眠による休息がきちんととれていないと感じているといいます。
このような睡眠不足がしばらく続くと、日中の仕事や勉強の効率が上がらないだけでなく、うつ病やがんなど重篤な病気のリスクが高まる危険性もあります。
そこで、睡眠に関する正しい知識と、毎日をいきいきと過ごすための睡眠方法を一冊にまとめたのが、新刊『かつてないほど頭が冴える! 睡眠と覚醒 最強の習慣』です。
著者の三島和夫氏は、スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授等を経て、現在は秋田大学医学部教授。睡眠薬のガイドライン(臨床試験、適性使用、休薬)や、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任している、日本における睡眠医学の第一人者です。
本書では、起きている時間に、より活動的で快適な時間をすごすための「覚醒力」にも注目。疲れをしっかりとる「質の高い睡眠習慣」と頭が冴える「覚醒スキル」で、仕事や勉強、趣味、家事等が効率良くこなせるコンディションを目指します。
“しつこい疲れ”は睡眠不足が9割!
「睡眠負債」という言葉をご存知でしょうか?日々の睡眠不足がまるで借金のように積み上がり、心身を蝕むほどにふくれ上がってしまっている状態のことです。今働き盛りの日本のビジネスパーソンで「睡眠負債ゼロ」という人はまずほとんどいない、と著者はいいます。たしかに、通勤電車で座っている人を見ても寝ている人が目立つように、多くの人が気づかないうちに「疲れ」を抱え込んでいるように思います。
そもそも、世界的にみてもなぜ日本人は睡眠不足になりがちなのでしょうか? その背景には、睡眠時間が不足しやすい生活パターンがあります。
以下は、働く男女に共通する「睡眠不足生活」の特徴です。
- 働きすぎている
- 通勤時間が長すぎる
- スマホ時間が長すぎる
3つ目のスマホ時間は、IT機器の使用時間が格段に増えた近年にみられる傾向です。
寝る前のスマホ時間は、よくいわれるブルーライトの影響はもちろんですが、SNSやメールでのコミュニケーションにより覚醒度が高まってしまい、眠りの質が低下してしまいます。そこに個々の仕事や家庭の事情が加わると、ますます睡眠時間が圧迫される状況に…。このような生活パターンが定着してしまい、「睡眠負債」がたまりやすくなるのです。
また、「週末に寝だめをするから大丈夫」という人も、かえって体に負担をかけてしまっています。たしかに、休日にたっぷり寝だめをすると疲労も回復したように感じるかもしれませんが、平日と休日の睡眠時間に大きな差があると、まるで時差ボケのような現象が起きてしまいます。
週末の寝だめによって体内時計が大きく後ろにズレてしまう一方、週明けにはまた早く起きなければなりません。そうなると、毎週末にパキスタンとかネパールなどのアジア旅行に出かけているようなものです。これが習慣になると、「睡眠負債」が悪化するリスクがあります。
また、「睡眠負債」の厄介なところは、心身に支障をきたすギリギリまで気づきにくいとところです。朝起きた時に倦怠感があるぐらいでは、特に気にせず日常生活を送れるでしょう。しかし最初は単なる睡眠不足でも、「睡眠負債」となって度重なると日中の生活でも様々な影響が出始めます。
たとえば、「作業に身が入らず、すぐに飽きてしまう」「会議中にふとうわの空になり、話が頭に入ってこない」など動作、意欲、集中力にいつもと違う異変を感じたら要注意。その他、イラだちやムカつきなど感情にムラが出るのも疲れがたまっている証拠です。相手のささいな言動にムカッときたり、すぐに落ち込んだりするのは、睡眠不足の影響で脳の情動コントロール機能が低下しているからなのです。さらに、その状態が悪化するとうつ病になる恐れもあります。
「睡眠負債」をためないためには、このようなちょっとした体の異変も無視せず、生活リズムを見直してみることが最も重要です。
睡眠中の脳は大忙し!? 睡眠をとるべき理由
忙しい現代人にとって、なかなか満足できる睡眠時間をとる余裕がないかもしれません。しかし、睡眠の質は日中の質に必ず反映されると著者はいいます。つまり、質の高い睡眠をとれば、翌日の仕事や家事でより高いパフォーマンスを達成することができるのです。
睡眠には主に次のような役割があります。
- 脳と体を休める
- 成長ホルモンを分泌して骨や筋肉の成長を促す
- 免疫力を高める
- ストレスを解消する
- 記憶を脳に刻み整理する
睡眠中の脳は眠りの深さを変えながら、これらの役割を順番に行います。これらが円滑に行われるには、体内時計のリズムに合わせて眠り、質の高い睡眠をとることが条件です。
一方で、睡眠時間が短かったり眠る環境が不十分だと、睡眠のリズムが崩れてメンテナンスが行き届かなくなってしまいます。
では、質の高い睡眠とはどのようなものなのでしょうか。まず、睡眠の正しいリズムは、
- 眠り始めの深いノンレム睡眠(脳の休息)
- およそ90分後にレム睡眠(体の休息)
- 「ノンレム睡眠からレム睡眠」のくり返し(4~5回)
- 浅いノンレム睡眠がだんだん増えて目覚めに向かう
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という流れです。これをきちんとセットで確保することを「メジャースリープ」といいます。
この「メジャースリープ」を維持するには、必要な睡眠時間に個人差はあるにしても、多くの人にとっては6~7時間は必要です。睡眠時間が短いと、寝ている間に体が行っているメンテナンスが途中で強制終了させられることになります。これによって、目覚めが悪く、寝起きに頭がぼんやりする「睡眠慣性」が起こりやすくなってしまうのです。
毎日忙しくてそんなに睡眠時間をとれないという人も、探せばどこかに隙間時間はあるはずです。たとえば、最近では仕事が終わってから寝る直前までスマホを手放さない人が多いといいます。そのスマホ時間を睡眠に回せば、いくらか睡眠時間を確保することができるでしょう。
まずは、毎日30分ずつでも睡眠時間を増やす工夫をしてみてはいかがでしょうか。
今日からできる! 疲れをとる「睡眠習慣」
では、普段の睡眠の質を上げる「快眠スキル」としっかり目覚める「覚醒スキル」をいくつかご紹介します。
快眠スキル
入浴は、就寝の2時間~1時間半前に
睡眠の最大の目的は、脳の温度を下げて休ませることです。その脳の温度は、就寝時刻の約5時間~2時間前に最も高くなったあと、眠る前の約2時間をかけて急降下するというリズムがあります。(この温度の下降が急であるほどよく眠れます)
入浴することで脳の温度を引き上げ、そこから就寝時に向けて脳の温度が急激に下がっていく状態になるよう逆算できれば、快眠につなげることができます。つまり、夜0時にベッドに入るなら、10時~10時半が入浴のベストタイムになります。
快眠するなら靴下は履かない方がよい
これから寒い時期になるにつれ、靴下を履いて寝る人も増えてくるかもしれません。しかし、実は靴下を履くと快眠の妨げになってしまいます。
入浴の部分でも触れましたが、快眠するなら脳の温度を下げる必要があります。靴下を履くと放熱を妨げてしまうため、脳のクールダウンがうまく進まなくなってしまうのです。もちろん冷え性の人など無理は禁物ですが、なるべく「素足で寝る」方が快眠することができるでしょう。
覚醒スキル
「朝型」にシフトするなら、午前10時~11時に光を浴びる工夫を!
目覚めてすぐの朝日よりも、お昼近くの太陽光の方が「朝型」にシフトしやすくなります。たとえば、一日の多くをオフィスで過ごす人なら、「外出の用事を午前10時~11時前後にする」「お昼に外のコンビニに行きがてら光を浴びる」など時間帯を工夫することで、日中の覚醒スキルを高めることができます。
昼寝前のカフェインが効果的
とても疲れている時は、昼寝をしても目覚めが悪く、なかなか作業に戻れないこともあるでしょう。そういう時に効果的なのが、昼寝をする直前にカフェインをとることです。カフェインは覚醒作用を発揮するまでに30分ほどかかるため、20~30分程度の昼寝の前に飲んでおくと、ちょうど目覚めた頃に覚醒効果を発揮し、すっきり目覚めることができます。
本書では、ここで紹介したスキルの他にも、「質の高い睡眠」をとるコツとヒントがつまった一冊です。働き方改革、ワークライフバランスが注目されてきている今の時代だからこそ、最大の休息である「睡眠」をもう一度見直してみてはいかがでしょうか?
(Written by 青春出版社)