こんにちは。Yukaです。今回私は、南和気さんの『人事こそ最強の経営戦略』を読みました。このタイトルを見て、「なぜ人事が最強の経営戦略と言えるんだろう」と疑問に思いませんか?
人事の仕事の本質は「人材の価値を最大化」することであり、それは国内海外を問いません。日本国内のマーケットが縮小し、「グローバル化」が企業の成長戦略上、大きな経営課題となっている今、日本人だけではなく、海外の人材も含めて「全世界の人材を活用する」ことが求められています。それはつまり、人事が経営戦略上、極めて重要性な役割を担っているということです。
著者の南さんは、SAPジャパン株式会社に所属する傍ら、人事・人材戦略のスペシャリストとして活躍されています。また、グローバル経営の様々な課題に対して、日本企業の強みを生かしたグローバル人事によって解決する手法を15年にわたり提唱し、これまで200社を超える企業の人事コンサルティングを行った実績を持っています。
事業のグローバル化とともに、人事はどう変わるべきなのか。本書では、日本企業がグローバル化を進めるにあたって、重要な差別化要素として価値を高めている「人」に焦点を当て、世界で勝てる組織に変わっていくための具体的な方法について詳しく解説されています。
この記事では、「グローバル人事」とは何なのか、なぜ今注目すべきなのかについてご紹介します。
なぜ今グローバル人事が求められるのか?
人事のグローバル化というと、「積極的に海外進出している一部の大企業だけが取り組むべきこと」のように思われるかもしれません。しかし、日本国内だけでビジネスを行っている企業にとっても、これからはグローバル人事の考え方が必要になってくると南さんは言います。
一つは、グローバルビジネスの展開スピードが加速し、ビジネスニーズが多様化する昨今では、日本企業もこれまでのような日本人中心のやり方では対応できなくなっているからです。
ソニーのウォークマンが海外市場を席巻した時代のように、一つの「製品力」で長く成長を支えることが困難となった今、グローバル市場で勝つための競争力の源泉は「人」であり、人事戦略をグローバル化しなければ、日本企業は生き残ることができなくなっているのです。
もう一つ、少子高齢化による人口減少により、労働者の高齢化、若手の人材不足が深刻化し、外国人労働者の積極的な雇用について重要度が増していることも、グローバル人事が求められる理由として挙げられています。
海外のグローバル企業は、優秀な人材を国や地域を越えて世界中に派遣する「グローバル人事」を始めたことで、ビジネススピードを加速させ、国際競争力を高めてきました。一方、日本企業はこれまで、海外進出の際はできる限り日本人社員を現地に送り込む形で対応し、資金の調達も日本の銀行の海外支店を頼るなど、海外展開は日本人中心で行われてきました。
だからこそ今、「グローバル人事」の重要性が高まっているのです。
日本人だから、外国人だからという壁を破り、全社員が信頼関係を持って力を発揮できる組織をつくる、その成否がそのまま企業の競争力となる、そうした「人事こそが最強の経営戦略」となる時代になっていると南さんは言います。
グローバル人事とはなにか?
グローバル人事とは、端的に言うと、「世界中に散らばる社員のなかから、それぞれの事業を進めるうえで最適な人材をいち早く見つけ出し、育成し、配置する」という人事施策をグローバルに展開することです。
そのためには、事業のグローバル化に伴う「人材の変化」に対応して、これまで日本企業で行われてきた人事施策を「バージョンアップ」していく必要があります。
事業がグローバル化していくと、以下の3つのような変化が伴います。
- 「人材の多様化」
- 「人材需給のグローバル化」
- 「人材の流動化」
これらの変化にどのように対応していけば良いのか、以下、一つずつ紹介します。
①「人材の多様化」
事業がグローバル化して、現地の人材を採用するケースが増えると、人事管理の対象が日本人だけではなくなってきます。
そうした人材に長く活躍してもらうためには、性別や年齢だけでなく、国籍、民族、言語、文化、バックグラウンドなどが異なる多様な人材を扱えるよう、柔軟性のある施策や受け入れ態勢が必要となります。
たとえば「最近、現地で中途採用されたシンガポール支店の営業部長」といった情報だけでは、どんなキャリアの持ち主なのか、どんなバックグラウンドを持った、どんな人物なのかが全くわかりませんよね。
グローバルに人事施策を展開するためには、本社人事と海外現地の人事が連携し、一人ひとりの人材情報を意識的に集めて把握する努力が求められるのです。
②「人材需給のグローバル化」
事業のグローバル展開が進んでいくと、現地で採用を行うだけでなく、別の国で採用した社員を、国を越えて異動させた方がよいケースも出てきます。このように人材需要がグローバル化していくと、人事制度をグローバルで整える必要が出てきます。
具体的には、評価や処遇制度など、人事の基本的な制度をグローバル化していかなくてはなりません。たとえば、アメリカの現地法人で営業部長をしている人に、ブラジルの現地法人の社長就任を打診したところ、人事評価や報酬の制度がアメリカの会社とブラジルの会社で異なっていたため、「ブラジルの会社へ行くと報酬が下がってしまう」という理由で退職されてしまった、といったことが起こり得ます。
日本と世界の人事慣習や雇用に対する考え方の違いを理解し、グローバルで合わせるところ・合わせないところを具体化して、最適な人事の仕組みに落とし込む必要があるのです。
③「人材の流動化」
海外、特にアメリカや東南アジアでは、日本のように新卒入社から定年退職まで同じ会社で働き続ける、といったことはほぼありません。海外では、重要ポストにいる人材が突然退職したり、部下を引き連れて集団で退職したりすることもしばしば起こりえるのです。
そのため、海外の流動的な人材マーケットに合わせて採用方法を工夫したり、退職リスクに備える必要があります。たとえば優秀な人材にその企業で働くメリットを感じてもらい、ロイヤリティを高めるための施策や、組織の価値観、理念に世界中の社員が共感してくれるような取り組みを行うなどです。
このように3つの変化に対応した人事施策を取っていくことが、人事をグローバル化する上で押さえておくべきポイントとなります。
ただし、これらの変化すべてがグローバル進出した企業に必ず起きるということではないと南さんは言います。
企業の方針や事業の特性、海外展開の段階などによって、直面する課題やゴールは異なるため、まずは自社がどのようなやり方で事業のグローバル展開を進めていこうとしているのかを把握し、その方向性や事業戦略に合った人事のやり方を選択して進めていくことが大切なのです。
イノベーションを起こす組織の条件
グローバル人事を進めることの意義の一つに、「イノベーションを起こしやすい組織」がつくれるという点が挙げられます。
なぜならイノベーションを起こすための条件の一つに、「多様性とオープン・マインド」があるからです。
南さんは、現代のイノベーションは、何かを発明するのではなく、既存の仕組みや常識を覆し、新たなビジネスモデルを生み出すこと、つまり「アイデアの勝負」であるといいます。
だからこそ多様な人材からの意見が重要であり、組織全体でアイデアを出し合えるような組織文化を作ることがイノベーションへとつながりやすくなるのです。
実際、南さんの勤めるSAPの変革を支えたのは、SAPが買収した多くの企業の社員の力だったといいます。同じチームの中に、様々な出身企業のメンバーや国籍のメンバーが集まったことで、新たな事業に挑戦する組織文化が生まれたのです。
組織を多様化するだけでは、新たな発想は現実のものにななりません。多様化したうえで、他人の意見に対してオープン・マインドで接することを徹底して浸透させる。これによって、小さな思いつきを、大きな成功へと結びつけていくことができるのです。(p.260)
まとめ
本書では、日本企業が人事をグローバル化していくことの重要性や、その具体的な方法、注意点についてとても細かくまとめられています。
またグローバル人事に取り組む企業事例として、パナソニックやジョンソン・エンド・ジョンソン、オムロンなど、現役人事担当者のインタビューも収録されており、経営者や人事担当者は必読の一冊となっています。