「歌ってみた」動画って著作権OKなの?『18歳の著作権入門』まとめ

「歌ってみた」動画って著作権OKなの?『18歳の著作権入門』まとめ




 世の中は多くの著作物で溢れており、それに付随する「著作権」は身近な権利として日常でもよく耳にします。しかしその内容はよく知らない・説明できないという人が多いのではないでしょうか。私もその一人でした。

 そこで手に取ったのが『18歳の著作権入門』です。本書を読んで著作権について学んだことで、世の中の疑問が少しだけ紐解けました。ぜひあなたにも同じ体験をしてもらえたらと思います。

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著作物とは?

 著作物とは、「思想や感情を創作的に表現したもの」です。しかし「創作的」と言われてもなんぞや? と思う方も多いと思うので、例えばこんなもののことを言うよ、という定義を著作権法で提示してくれています。

①小説・脚本・講演などの文章

 文章は立派な著作物になります。書物をまるまる他のサイトに転載することはいけない、という想像はつくかと思いますが、反対に小説の中のありきたりな一節などは著作物にはあたりらないことが多いようです。ただ、とても特徴的で創作的な文章は著作物と認められることがあります。

②音楽

 ここでの著作物は「楽曲」であり、歌詞とメロディのことを指しています。そのため、たとえばシンガーソングライターで作詞作曲を自分でしている方は、楽曲の著作権を持っていることになります。しかしアイドルのように楽曲を提供してもらっている方は、残念ながら著作権の所有者とは認められません。

③舞踏・無言劇

 舞踊というのはダンスのことで、振り付けが著作物となります。AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」など、振り付けが有名なものはたくさんありますよね。この場合、振り付けしたパパイヤ鈴木さんが著作権を持つことになります。いくら指原莉乃さんのセンター楽曲だとしても、もし無断もしくは契約に反した形でステージなどで踊ってしまうと、著作権侵害になることがあります。

④美術

 絵画やイラストなど、ビジュアル作品は全て含まれます。美術品だけではありません。

⑤建築

 建売住宅のように機能を重視した設計ではなく、安藤忠雄さんの「光の教会」や黒川紀章さんの「国立新美術」のように、独自の感性を持って造られた美術的な側面を持っている建物は、創作的なものだと言えるため著作物にあたります。

⑥図形

 図形には「設計図」と「地図」の2つの意味があります。設計図は作る人によって様々な書き方が見られるため、著作物となることは想像がつくでしょう。パソコンで鮮やかな色をつける人もいれば、手書きで細かいところまで書き込む人もいます。また設計されたものは、その人の創造物となることが多いため、これも著作物にあたります。

 一方、地図は一見ありのままを写しているようにも見えますが、単なる航空写真では地図とは言えませんよね。わかりやすいように省略したり強調したりする中にビジュアル的な工夫があれば、著作物になることもあります。ただし、地図の全てが著作物になるわけではありません。

⑦映画

 映画に限らず動画全般を含み、TVドラマ、TVCM、アニメなど全てが対象となります。

⑧写真

 写真は著作物の中でも判断が非常に難しい項目です。例えば、同じ建物や同じ風景の写真を撮った場合、どんなに酷似していたとしても「同じものを撮ったのだから似るのは仕方がない」となるのは理解ができます。余程創作的でない限り、著作物と認められることは難しいと覚えておきましょう。

 また近年、人間ではないものが撮った写真はどうなのかという論争があります。本来、「機械に創作はできない」という観点から自動作曲や自動作画は著作物にならないとされてきましたが、では動物なら? 人工知能をもったロボットなら? といった問題が生まれ、今後著作物と認められるケースが出てくる可能性があります。

⑨プログラム

 これはゲームなどがそうですね。ソフトウェア開発に使われるソースコードは、開発チームで書くコードのルールが決まっていたり、機能性を追求したら誰でもこのコードになるよね、というケースが多かったりするため、著作物にはあたることはほとんどありません。

 以上の9つはあくまで一例ですので、「創作的」であれば上記にあてはまらないものでも著作物と認められる場合があります。逆に、ありふれた表現や機能性を追求しているモノ、例えばボールペンのように誰が作っても同じようになるモノは著作物にはあたりません。



著作権とは?

 著作権は「私の作品を無断で使用するな!」と主張するための権利であり、創作者が作品を作った瞬間から自動的に発生します。通常、権利は特許権や商標権のように申請して初めて認められるものですので、このような権利はとても珍しいです。

 もし無断で使用してしまうと、「民事」と「刑事」両方の責任を負うことになってしまいます。民事の責任では、個人が個人を訴え、行為をやめさせられたり、損害賠償を請求されたりします。

 刑事の責任とは刑罰や罰金を受ける責任のことです。最高で懲役10年または1000万以下の罰金、あるいはその両方となります。また法人の場合は3億円でこれは大麻の輸出などより重い刑なんですね。つまり日本では、路上でマリファナを売り捌くよりも著作権侵害のほうが重いことになるのです。

著作権を持つのは誰か?

 著作権は基本的に創作者に帰属しますが、音楽バンドなど複数名で創作した場合は、「著作者全員」が著作権を所有することになります。そのためその作品は、「著作権を持っている全員の同意」がないと使えません。バンドが解散してしまったとき、楽曲の著作権がバンド名義になっていたら、もう演奏も録音もできず、場合によってはCDも増刷できず廃盤になってしまうことがあります。

 では万事休すなのか、というとそうではありません。なんと著作権は、誰にでも譲渡することができるのです。しかも理論上は口頭でも暗黙の了解でもいいのです。(※理想はもちろん契約書を取り交わすことです)

 バンド内の話し合いで、「お前にやるよ」と言えば、簡単に著作権を譲渡できてしまうのですね。要は、譲渡した側とされた側で問題が起きなければOKということです。

 また、会社で創作を行う場合やデザインを一般に公募する場合は、個人ではなく団体・企業に著作権が所有されることがほとんどです。規約を確認してから応募するようにしましょう。



「歌ってみた」「弾いてみた」の権利関係は?

 YouTubeやニコニコ動画にアップされている「歌ってみた」「弾いてみた」動画。「これって著作権侵害にならないの?」と疑問に思うかもしれません。実は音楽分野においては、これが許される仕組みがあるのです。

 その秘密は「JASRAC(ジャスラック)=日本音楽著作権協力会」という国内外アーティストの楽曲を管理して、侵害も取り締まっている団体の存在です。YouTubeやニコニコ動画は、JASRACと契約することで動画への楽曲の使用許可をもらっているのです。

 ただし、対象となるのは基本的に歌詞とメロディだけのため、「歌ってみた」はOKですが、CDをそのまま流してしまうとレコード会社の著作隣接権という別の権利が働く場合があるため注意が必要です。

 さて、JASRACについてもう少し詳しくお話ししましょう。海外アーティストの楽曲も含め、日本国内で聴くことができるプロの楽曲の95%以上はJASRACが管理していると言われています。曲ができると、作詞家・作曲家は音楽出版社などの団体を通じて著作権をJASRACに委託します。このとき著作権を譲渡するわけですから、著作権者はJASRACとなり、作詞作曲者はもう自分の曲を自由に使うことはできません。

 その代わり、世界で自分の楽曲が使用された場合、JASRACが代わりに使用料を徴収してくれて、その一部が還元される仕組みになっています。例えば、アメリカのコンサート会場で自分の曲が使用されたとして、アメリカまで駆けつけて使用料を徴収するのは大変ですよね。これをJASRACが代わりに行ってくれるわけですから、結果として作詞・作曲者は、自分で著作権を保有しているよりも多くの収益を得ることができるわけです。

 ちなみにJASRACの使用料は、用途や規模によって異なります。たとえばCDが製造された場合は、定価の約6%が音楽著作権の使用料として支払われます。コンサートでチケットが80%売れた場合は、総売上の5%が音楽使用料分です。

 ただ、ラジオ局やYouTubeなど、取り扱う曲数が膨大になるところは、いちいちカウントするのは大変なので、「年間包括契約」をJASRACと交わしています。年間の放送事業収入全体のおよそ1.5%がJASRACに払われる仕組みで、いわゆる使い放題でいいから収入の一部を収めてねという契約です。

著作権の寿命

 著作権には寿命があり、それを過ぎると誰でも使用できるようになります。この原則は「著作者が生きている間+死後50年間」です。つまり創作者が20歳で創作し、100歳まで生きたとすると80+50=130年もの間となります。これは同じ知的財産権である「特許権」と比べても4倍もの期間となり、非常に長いものとなります。ただし、匿名での作品は人物が特定できないため「公表の翌日から50年間」となっています。

 また映画においては特例があります。映画は著作権者が監督だけとは限らず、カメラマンやプロデューサーなど複数にわたる場合があるため、「公表から70年」となっています。

 では、著作権の寿命が切れてしまうと作品はどうなるのでしょうか? こうなると誰でもその作品を使用できるようになり、パブリックドメイン(PD)となります。

 人気小説のPDが切れると、新訳ブームが起こります。これは日本における『星の王子さま』の著作権が切れたときに起こりました。今まで、岩波書店しか出版できなかったものが、誰でも使用できるPDになったので、各社がこぞって『星の王子さま』を出版したのですね。思えば私も小学生の頃に『星の王子さま』を読みましたが、内容が違うものが数冊あり、「どれが本物なの?」と感じたことを覚えています。

 『星の王子さま』は挿絵も著者のサン=テグジュペリが描いていたので、小説と一緒に挿絵の保護期間も切れ、本全てがPDとなりました。しかし挿絵を別の人が描いている場合は、挿絵と小説の著作権保護期間は異なることには注意が必要です。

著作者に残される最後の権利

 著作権は譲渡できるというお話をしましたが、譲渡したら著作者には何も残らないのかというと、そうではありません。著作者に残る「著作者人格権」という3つの権利をご紹介します。

①公表権

 未公表の作品をいつ、どんな形で公表するかを決められる権利です。例えば「手紙」で考えてみましょう。手紙はもちろん書いた本人の著作物になります。貰った側は「所有権」は持っていますが、著作権までは持っていません。よって勝手にネットなどに公表してしまうと、公表権の侵害だけでなく、著作権侵害にもつながります。ただ、故人の歴史的遺物などは、公表しても問題は小さいでしょう。

②氏名表示権

 「著作権を譲渡したのでどこでどう使うかは自由ですが、あなたの作品ではなく、私の作品だとわかるようにしてください」と言える権利です。使用時にクレジットの表記を求めるものですね。

 この氏名表示権、「私の名前を出しください」とも「出さないでください」とも言えます。さらには、「藤子不二雄にしてください」のようにペンネーム指定もできますし、今後は「藤子・F・不二雄にしてください」と途中で変更することも可能です。

 この「著作者人格権」は放棄も譲渡もできないと考えられています。いわゆる「クリエイターの誇り」を守る最後の砦となる権利なのです。

まとめ

 著作権に関する基本情報がわかりやすく、コンパクトにまとめられた『18歳の著作権入門』。新書サイズでページ数も少ないので、著作権について基礎的なことを学びたい方におすすめの一冊です。ぜひ読んでみてください。

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