「シリコンバレーには、最新の技術がある。そして、最新の働きかたや組織のあり方がある」ーー日本とシリコンバレーを往復する、あるコンサルタントの言葉です。
今回ご紹介するのは、シリコンバレーで活躍する2名の著者が「チーム力」について論じた本です。
本書を読む前は、シリコンバレーで人材を集めるための雇用形態や報酬、チームのフォーメーション等について書かれているのかと思っていました。しかし前回ご紹介した『#HOOKED』同様、本書は文化人類学や脳科学などの科学的な知見から、最適なチームの規模やコアとなる「ペア」の組み合わせ・設計・発展のさせ方、そして終わらせ方までをまとめた一冊となっています。
今回は、わたしがこの本を読んで得られた3つのポイントを紹介します。
- チームの正しいサイズ(規模)とは?
- チームのコアとなる「ペア」のタイプ
- 最高の「ペア」を見つける方法
1.チームの適正なサイズを知る方法
「はじめに」では、「勝てるチームを作るための20の質問」が紹介されており、本書を読めば、どの質問への答えも得られるとあります。もっとも象徴的なのがこの質問です。
「あなたのチームは、割り当てられた仕事に対して正しいサイズか?」
チームが失敗に終わるときは、サイズが大きすぎる場合がほとんどだという著者。最近は多様性が重視され、様々なタイプの人材が揃ったチームの方がクリエイティビティを発揮しやすいと考えられていますが、単に規模を大きくするだけでは、多様性の促進にはつながらないんですね。
だからこそ、チームのサイズに関する正しい認識や、多様性の正しい在り方やマネジメントについて学ぶことが重要なのです。
イギリスの人類学者ロビン・ダンバーは、人類の歴史から、チームサイズには上限があるということを発見しました。その数は、正確には147.8人、一般的には、端数を切り上げた「150人」という数字が、彼の名前にちなんで「ダンバー数」と呼ばれています。
この数字は、簡単に言うと「相手がどんな人間で、自分とどのような関係なのかを把握できる人間の最大数」です。
ダンバーは、典型的なチームの規模として、150以外にも以下の数字を提唱しています。
- 3〜5 最も親密な友人関係を築ける人数。
- 12〜15 誰かが死んだときに、深く嘆き悲しむ友人や家族の数。
- 50 オーストラリアのアボリジニやアフリカ南部のサン人が移動するときの平均的な規模に相当。
- 150 最も有名なダンバー数。
- 1500 最大のダンバー数であるが、異常値のようなもので、ダンバー自身もその謎を十分に解明できていない。
「1500」という数がチームの上限であるという説は、「ヒューレット・パッカード(HP)」の例を見ると説得力があります。
同社には、「従業員が1500人に達した時点で部門を分割する」という伝統があり、これは、会社の従業員数が1500人に近づくと、二人の創業者はスタッフと自分たちの関係に変化を感じはじめたからだと言われています。この方針が功を奏し、1960年代と70年代のヒューレット・パッカードは、史上最も動きの速い会社として高い評価を受け、その後ほかの多くの企業でも真似されることになりました。
わたしがかつて所属していた新規事業でも、「人数が3桁を超えたときから、顔と名前が一致しなくなり関係性が希薄になった」と話したことを覚えています。「150」のダンバー数に近づいていたのでしょう。
②チームのコアとなる「ペア」のタイプ
チームの適正な人数は、割り当てられた仕事によって変わってきますが、コアとなるのは最初の二人組の「ペア」です。
ペアは人間のチームにおける最も基礎的な形態であり、大きなチームを作り上げるための基礎の役割を担っています。
興味深いのは、二人組のチームの成功に必要なのは相性のよさではなく、むしろ最も好業績のペアが、実は共通点ゼロの犬猿の仲ということもある、という点です。
では、具体的にどのような「ペア」がチームを成功に導くのでしょうか。
本書では、仕事上発生するさまざまなペアについて、四つのカテゴリー(場面、類似性、差、不平等)に分けた12のタイプ別に紹介しています。
そこでは「魔法の瞬間ペア」「1+1=2以上ペア」「探検者とナビゲーター」など、ユニークなネーミングがなされたペアがたくさん登場します。ここでは、その中の2つ「陰と陽ペア」「フォースは君とともにあるペア」についてご紹介します。
1.「陰と陽ペア」
これは二人の異なるスキルが組み合わさることで、一つの大きな競争性が生み出されるという関係です。
典型的なのは、「一人が芸術的で、もう一人が現実的」「一人が言語的能力に、他方が非言語的能力に長けている」といった組み合わせです。
ビジネスシーンにおける具体的な組み合わせでいうと、
- 実業家 ←→ 科学者/エンジニア
- マーケティング担当者 ←→ 製造担当者
- 起業家 ←→ 技術屋
などがあります。なかでも、あらゆる企業で活躍する「陰陽」ペアは、
- イノベータ ←→ コミュニケーター
の組み合わせだと言われています。
大きな成功を収めるためには、「高度な専門知識」と「果断な行動力」を結びつける必要がありますが、両方の素養を持ち合わせた人間などめったにいません。そのため、この2タイプの個人を組み合わせれば、高業績チームができあがる可能性は高くなるのです。
日本企業で「陰陽」ペアが思い浮かぶのは、ソニーの盛田氏と井深氏ではないでしょうか。盛田氏はビジネスマン、井深氏は技術者としてお互いのよさを引き出したと言われていますよね。
2.「フォースは君とともにあるペア」
指導・相談役となる先輩社員と若手社員の二人組のパターンです。
名前の由来は、ご存知「スター・ウォーズ」シリーズに登場する年配の師匠オビ=ワン・ケノービと、師匠の教えを実践しようとする若い分身、ルーク・スカイウォーカーの関係です。
両者の性格、エネルギー量、目標はまったく違うため、異なるバックボーンの二人が組むことにより、
- 成熟しつつも野心的
- 用心深くも大胆
- 忍耐強くも精力的
といったバランスが生まれ、そのペアは最強チームとなり得ます。
日本企業で「フォース」ペアが思い浮かぶのは、ライフネット生命の創業者である出口治明元会長と、岩瀬大輔現社長のペアでしょう。
③最高の「ペア」を見つける方法
さて、「ペアリスト」の一部をご紹介しましたが、ペアのタイプを識別・分類するだけではなんの意味もありません。重要なのは、その識別と分類を、実際の現場で活用できるようになることです。
マネジャーとして最高のペアを見つけるために、次のステップが紹介されています。
1.組織内での切れ者のなかで、辞めそうな気配のある人に注目する。
まずは組織内で最も評判の高い切れ者やクリエイティブな人間を探し、そのなかで周囲が期待するほどの貢献ができていない人、組織から追い出されそうな人、あるいは辞めそうな気配のある人に注目します。
2.彼らの弱点に目を向け、その欠点を補える二人組がいないか探る。
次に、彼らの強みではなく「弱点」に目を向けます。各々の弱点を比べ、その欠点を互いに補い合える二人組がいないか探るのです。
このプロセスで大切なのは、先入観を捨てること。最高のペアは似た者同士かもしれないし、正反対の性格の持ち主かもしれないし、どちらでもないかもしれません。
友人としてではなく仕事上のパートナーとしての欠点を補完できるかどうかという視点で探るようにしましょう。
3.候補者二人が密接に協力し合える環境を作る。
なるべく外部からの影響が及ばないように配慮した環境を作ります。もっとも、仕事上のペアを組む二人は無駄に親しくなる必要はありません。
二人のスキルに見合った、一人では成し遂げることはできないタスクを割り当てて、あとは一歩離れた場所から、二人の動向を絶えず観察します。
このような「ペア」の組み方や、「ペア」から人数を拡大して「チーム」を作っていくノウハウは、マネジャー職の方はもちろん、これからビジネスを立ち上げようとしている起業家の方にとっても参考になるでしょう。
本書には、成功するチームを作るための、科学的根拠に基づいた有用なヒントが大量に詰まっています。ぜひ読んでみてください。