マーケティング担当者必読!無意識に人を惹きつけるアイデア

マーケティング担当者必読!無意識に人を惹きつけるアイデア




 はじめまして。事業会社でマーケティングの仕事をしている、TK(ティーケイ)と申します。これまで転職や出向を通して、複数の業界・企業でマーケティングに携わってきました。

 今回、美女読書の「本好きライター向けライティングサロン」のコンセプトに惹かれて、メンバーになりました。関心のある書籍の分野は、マーケティングや組織、現代社会です。

 ここ数ヶ月、あるマーケターの一言が気になっています。彼曰く「数十年以上かけて蓄積してきたマーケティングの知識や知見が、ここ10数年の脳科学や心理学の発見によってくつがえされている」と言うのです。

 わたしも仕事柄、消費者心理に関する記事や、業界に関連する調査データに目を通すようにしています。しかし脳科学や心理学がマーケティングにどう関わるのか、あまりイメージができていませんでした。

 そんなとき出会った本書『#HOOKED(フックト)』は、まさに脳科学や心理学から見たマーケティングについて書かれた一冊です。

 著者のパトリック・ファーガン氏は、消費者心理学者で、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの准教授です。価格戦略からフェイスブックの心理学まで、多岐にわたるテーマで論文を発表しています。また元電通総研の研究主席で、消費者心理分析で知られる四元正弘氏が、巻末に解説コメントを書かれています。

 「もしかしたら、この本にはわたしの疑問への答えがあるのでは?」そう期待をこめて、読み始めました。



『#HOOKED』を読む上での3つの目的

 この本を読むに当たって、次の3つの目的を設けました。

  1. マーケティングと心理学や脳科学を結びつけるヒントがあるか。
  2. マーケティングの実務に使えるノウハウやデータがあるか。
  3. (翻訳本にありがちですが)日本の事情に配慮されているか。

 目的を設定して読むというのは、美女読書が提案する読書法「本で重要なのは「4~11%」程度!「目的志向型」読書で狙い読みせよ!」を参考にしています。

HOOKEDとは、消費者を惹きつけるしかけ

 広告の用語として「フック」という言葉があります。広告を見た人を惹きつける、何らかの「引っかかり」という意味です。

 つまり本書『#HOOKED』は、「消費者を惹きつけるためのしかけ」について、心理学や脳科学の実験や調査結果、法則とともにまとめた一冊なのです。

 ちなみに、帯に「脳のしくみにもとづく、あなたの広告が無視されないための10のHOOK(しかけ)」とあるように、マーケティングのなかでも、広告のメッセージに特化した内容となっています。

「#HOOKED」の構成

 本書では、消費者の購買までの行動を「気づかせる」「考えさせる」「行動させる」という3つのステップに分類し、それぞれに関連する3~4つの「#HOOK」について具体例とともに紹介しています。

STEP01「気づかせる」

 #HOOK01 プリミティブにする
 #HOOK02 感情をわしづかみにする
 #HOOK03 わたしのこと?と思わせる
 #HOOK04 サプライズを駆使する

STEP02「考えさせる」

 #HOOK05 ミステリー要素を加える
 #HOOK06 ハードルをとことん下げる
 #HOOK07 物語のなかを歩かせる

STEP03「行動させる」

 #HOOK08 記憶にこびりつかせる
 #HOOK09 思考回路をショートカットさせる
 #HOOK10 プライミング効果を駆使する

 では、わたしが読書の目的に挙げた3つのポイントについて、順番に確認していきたいと思います。

①マーケティングと心理学や脳科学を結びつけるヒントがあるか?

 本書では、多くの脳科学や心理学に関する実験や調査の結果、理論などが紹介されています。

 いかにもアカデミックな

  • 脳の3つの領域(P35)
  • 人間の6つの基本感情とは(P79)
  • 記憶の活性化拡散理論(P124)

 などもあれば、営業スキルや消費者心理として、よく知られている

  • カクテルパーティー効果(P38、P88)
  • 返報性の法則(P203)
  • フット・イン・ザ・ドア(P211)

 といったものもあります。

 こうしたさまざまな理論や法則が、広告メッセージが消費者に伝わるプロセスのなかでどのように発揮できるのかについて解説されています。

 もしかしたら大手企業や広告会社は、これらの調査結果よりもさらに詳細な知見や考察を得ているかもしれません。しかし基本となる考え方を網羅的に学ぶ上で、本書はとても役に立つと感じました。

 マーケティングと心理学や脳科学を結びつけるヒントを求めて読んでみましたが、十分どころか十二分の発見がありました。もっと消費者心理を学びたいと思います。



②マーケティングの実務に使えるノウハウやデータがあるか?

 個々の「#HOOK」のなかには、マーケティングの経験則として知っているものもありました。

 しかし、実験や調査による具体的な数値データが証拠(エビデンス)として記されているので、より科学的な裏付けのある情報として、企画を立てる際や、より有効な施策はどちらかを判断する際の参考にできると感じました。

 たとえば「STEP02」で出てくる、「広告の単語を思い出すテストでの顔のタイプ別の正答率」(P.122)では、バナー広告にモデルの顔を使った場合の結果が紹介されています。バナーの左側にキャッチコピー、右側にモデルの顔を掲載したデザインです。

 経験則的には、右にモデルの顔をレイアウトするなら、モデルの目線は、読んでほしい文章が書かれている左側を向かせるというのは常識です。なのでこの事実だけが紹介されていても、「そんなことわかってるよ」と感じてしまうでしょう。

 しかし本書では、「モデルの女性が左側の広告のコピーに視線を向けていると、正面を見ているものより、コピーを思い出せる確率が約20%高い」という、具体的な数値的なデータまで記されているのです。

 また「#HOOK5 ミステリー要素を加える」には、「広告の好奇心を生み出す6つのテンプレート」(P140)というイスラエルの研究が紹介されています。これは広告の成功例200件を分析し、そのうち89%が基本的な6つのテンプレートに当てはまることをまとめた論文です。

 この分析結果は、そのまま広告表現を考えるヒントとして使えます。

広告の好奇心を生み出す6つのテンプレート

  1. イメージの比喩を使う
  2. 極端なシチュレーションを示す
  3. 結果を示す
  4. 競争を示す
  5. 次元の超越を示す
  6. インタラクティブな体験を示す

 たとえば「①イメージの比喩を使う」というのは、ミント系のキャンディーを口に入れた瞬間、北極にすっ飛んでいくようなCM手法です。

 また「説得力を発揮する6つの武器」(P.193)もいいヒントになりました。「希少性」「社会的証明」「権威」「返報性」「好意」「コミットメントと一貫性」という要素は、知っておくといろいろな広告で使われていることに気づくでしょう。

 最新の事例としては、「バズフィードの見出しによるフェイスブックの共有回数」(P.237)が興味深かったです。

 本書には、マス広告かデジタル広告かを問わず、広告メッセージの効果を上げるための実務的なノウハウやデータがたくさん詰まっていました。

③日本の事情に配慮されているか?

 これまで記載したものは、海外での実験データが中心のようです。そのため「日本人には固有の文化的背景があるので役に立たないのでは?」と懸念される方がいるかもしれません。

 しかし本書には、国や文化に左右されない、人間という生き物としての特性に関するデータも記されており、日本でも実務に活かせる有効な情報や知見がたくさん詰まっています。

 たとえば「脳の3つの領域」(P.35)では、「人の判断は無意識で行われているものが圧倒的である」という事実を教えてくれます。

 人間は1秒間に1100万ビットの感覚情報を処理している。そのうち意識的に処理しているのは40ビットだ。

 巻末では、四元氏が日本での事例を織り交ぜながら解説してくれているので、海外の書籍でありながら日本で応用できるよう、うまくバランスがとられています。

「ヒューリスティック」を知ることの価値

 「#HOOK8 記憶にこびりつかせる」では、「ヒューリスティック」という言葉が出てきます。ヒューリスティックとは、無意識な判断のひとつで、「経験や勘を根拠として、短絡的に思考すること」を指します。

 わたしは10年ほど前、あるサービスの改善プロジェクトで、協力してもらったコンサルタントから「まずヒューリスティック分析をしてみましょう」と提案されました。コンサルタントが一般のユーザーの視点に立って、どんな利用シーンで、どんな行動をするか、仮説を立てるというのです。

 通常、商品やサービスに何らかの改善を加える際は、実際のユーザーにインタビューやアンケートを行って、改善点を探っていくものです。しかし前述の通り、人の判断は無意識で行われているものが圧倒的なので、こうした一般的なマーケティング調査で「無意識」を可視化することはまずできません。

 そこで、ヒューリスティック分析で仮説を立てた上で、実際のユーザーに試してもらうことにしたのです。その甲斐あって良質なリサーチ結果を得ることができ、このときの改善プロジェクトはとてもよい成果があがりました。

 マーケターは「ヒューリスティック」を理解することで、より消費者の心を惹きつける広告メッセージを設計できるようになるのです。

 そのために重要なのは、喜怒哀楽の中でも、特に「喜」と「楽」に、今まで以上に敏感になることだと、四元さんはいいます。

 「この商品は、誰の、どんなときの笑顔を作れるのか、増やせるのか」をつねに想像しながら、笑顔に至るまでの消費者のストーリーを紡いでいくことを提唱したい。

 この言葉には強く共感しました。人の心と向き合い、笑顔の正体を自分なりに探ってみることが、ヒューリスティックを理解するためには大切なのです。

 本書を書店で見たとき、カラフルの黄色いカバーに可愛らしい子猫が載っているので、マーケティングの本らしからぬビジュアルに惹きつけられました。このデザイン自体が、本書のテーマである「つい、買ってしまった。」の裏にあるマーケティングの技術を応用しているわけです。

 見た目のかわいらしさを裏切る、骨太な一冊をおすすめします。






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