「ルサンチマン」ってどういう意味?「哲学」を実用的な知識として学べる一冊

「ルサンチマン」ってどういう意味?「哲学」を実用的な知識として学べる一冊




 こんにちは。ノイエです。今回は山口周さんの『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』という本を読んでみました。

 山口周さんは著作家であり、世界最高峰のコンサルティングファーム、コーン・フェリーのシニアパートナーでもあります。

 前著の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』では、社会で大きな権力・影響力を持つことになるエリートの教育において、哲学を中心としたリベラルアーツ教育がますます重視されるようになってきているという世界の風潮を紹介。2018年度ビジネス書大賞準大賞を受賞しています。

 非常に画期的な視点や鋭い洞察にあふれた内容となっており、わたしはこの一冊を読んで山口さんの大ファンになってしまいました。その影響で、他の新書も読み漁り、おすすめをnoteにまとめましたのでぜひチェックしてみてください。

 そんな山口周さんが出した哲学の本ですから、これは読まずにはいられない、というわけで『武器になる哲学』も読んでみました。

 本書はプロローグで、ビジネスパーソンが「哲学」を学ぶべき理由や、本書といわゆる「哲学入門」との違い、なぜ哲学に挫折するのか、について説明しています。

 わたしは以前「哲学入門」の本に何冊かチャレンジして挫折したことがあります。こうした本は、歴史的に古い順で、ギリシャのソクラテスや、プラトン、アリストテレスから始まるものが多く、事実が古い順番に羅列して紹介されているだけなので、つまらなくて途中でやめてしまいました。

 しかし本書は、コンサルティング現場での山口さん自身の経験に基づいて、実用的な面から、哲学・思想を学ぶメリットが述べられており、どんどん読み進めることができました。

 時間軸(歴史順)ではなく、ビジネスパーソンが学ぶべき「哲学・思想のキーコンセプト50」として下記のように章分けされているので、気になるテーマから読み進めることができます。

  • 第1章 「人」に関するキーコンセプト—「なぜ、この人はこんなことをするのか」を考えるために
  • 第2章 「組織」に関するキーコンセプト—「なぜ、この組織は変われないのか」を考えるために
  • 第3章 「社会」に関するキーコンセプト— 「いま、何がおきているのか」を理解するために
  • 第4章 「思考」に関するキーコンセプト—よくある「思考の落とし穴」に落ちないために

 今回は、第1章の「人」に関するキーコンセプトから、フリードリッヒ・ニーチェ(1844-1900)の提示した「ルサンチマン」という概念を紹介したいと思います。

「ルサンチマン」とは何か?

 山口さんは、社会で生きて行く上で、「ルサンチマンという複雑な感情とそれが管理する行動のパターンについての理解が必要である」と述べています。では、そもそも、ルサンチマンとはどういう意味なのでしょうか。

 哲学の入門書風に解説すると、「弱い立場にあるものが、強者に対して抱く嫉妬、怨恨、憎悪、劣等感などのおり混ざった感情」ということになるのですが、山口さんは、わかりやすく言えば「やっかみ」だといいます。

 以下、簡潔に解説していきます。

 ルサンチマンを抱えた個人は、その状況を改善するために次の2つの反応をするといいます。

  1. ルサンチマンの原因となる価値基準に隷属、服従する。
  2. ルサンチマンの原因となる価値判断を転倒させる。

 これらはいずれも、わたしたちが自分らしい豊かな人生を送る上で、大きな阻害要因になり得ます。

①ルサンチマンの原因となる価値基準に隷属、服従する。

 たとえば、周囲のみんなが高級ブランドのバックを持っているのに自分だけ持っていないという状況を想像してみてください。

 この時、「自分が本当に欲しいものではない」「自分のライフスタイルや価値観に合わない」として、そのブランドバックを拒絶することもできるわけですが、少なくない割合の人々は、同格のブランドバックを購入することで、抱えたルサンチマンを解消しようとします。

 つまりルサンチマンを抱えた個人は、ルサンチマンを解消するための、いわば「記号」としてこれらのブランド品を購入することになるのです。

 このことから、いわゆる高級品・ブランド品が市場に提供している便益は「ルサンチマンの解消」と考えることができ、ルサンチマンを生み出せば生み出すほど、市場規模は拡大することになる、と山口さんは解説しています。

 高級ブランドから毎年のように新作が発売されるのは、「最新のモノ」を市場に送り出すことによって、「古いモノ」を持っている人にルサンチマンを抱えさせるためだと考えることもでき、これだけモノで溢れかえり、飽和状態になっている日本で、ラグジュアリーブランドは好調な業績をあげているのは、ブランドメーカー側が極めて巧妙にルサンチマンを生み出し続けているからだと捉えることもできるのです。

 しかし当然のことながら、このような形でルサンチマンを解消し続けても「自分らしい人生」を生きることは困難です。

 ルサンチマンは、社会的に共有された価値判断に、自らの価値判断を隷属・従属させることで生み出されます。

 自分が何かを欲しているとき、その欲求が「素の自分」による素直な欲求に根差したものなのか、あるいは他者によって喚起されたルサンチマンによって駆動されているものなのかを見極めることが重要なのです。

②ルサンチマンの原因となる価値判断を転倒させる。

 ニーチェがルサンチマンを取り上げて問題視したのは、こちらの②の方だそうです。

 ニーチェによると、ルサンチマンを抱えた人は、多くの場合、勇気や行動によって事態を好転させることを諦めているため、ルサンチマンを発生させる元となっている価値基準を転倒させたり、逆転した価値判断を主張したりして溜飲を下げようとします。

 ルサンチマンの原因となっている劣等感を、努力や挑戦によって解消しようとせずに、劣等感を感じる源となっている「強い他者」を否定する価値観を持ちだすことで自己肯定しようとするのです。

 たとえば、ニーチェはキリスト教を例にあげて説明しています。

 古代ローマ時代、ローマ帝国の支配下にあったユダヤ人は貧しさにあえぎつつ、富と権力をもつローマ人などの支配者を羨みながら、憎んでいました。しかし現実を変えることは難しく、ローマ人より優位に立つことは難しい。そこで彼らは復讐のために神を創り出したのです。

 つまり、「ローマ人は豊かで、私たちは貧しく、苦しんでいる。しかし天国に行けるのは私たちの方だ。富者や権力者は神から嫌われおり、天国に行けないのだから」のように考えたということです。

 神という、ローマ人より上位にある架空の概念を創造することによって「現実世界の強弱」を反転させ、心理的な復讐を果たしたというのがニーチェの考察です。

 さらにニーチェの指摘を加えると、ルサンチマンを抱えた人は「ルサンチマンに根差した価値判断の逆転」を提案する言論や主張にすがりついてしまう傾向があると言います。

 そのようなコンテンツの典型例として、ニーチェ自身は「貧しい人は幸いである」と説いた聖書や、「労働者は資本家よりも優れている」と説いた『共産党宣言』を挙げています。

 両書がともに、全世界的に爆発的に普及したことを考えれば、「ルサンチマンを抱えた人に価値の逆転を提案するというのは、一種のキラーコンセプト」なのだと言えるかもしれないと山口さんは述べています。

 しかし一方で、このような「価値判断の逆転」が単なるルサンチマンに根ざしたものなのか、より崇高な問題意識に根差したものなのかを私たちは見極めなければならないと警告します。

 だからこそ、ルサンチマンという複雑な感情とそれが管理する行動のパターンについての理解が必要なのです。

まとめ

 今回は「ルサンチマン」という哲学のコンセプトについて紹介させていただきました。

 普段の無意識の感情や行動について、「ルサンチマン」という視点に当てはめて考えてみると、色々と気づくことがあるのではないでしょうか。

 この本は、いつもならスルーしてしまいそうな自分の感情や思考、もしくは組織や世の中での出来事、社会のありようなどについて、改めて深く洞察したり、考えたりするきっかけを与えてくれます。

 従来の哲学入門の本と違い、哲学の実用的な「使い方」が学べる稀有な一冊なので、哲学の視点をもって日々を見つめ直してみたい人は、ぜひ手に取ってみてください。

執筆者プロフィール

ノイエ
北海道をこよなく愛する
旭川市在住の2児の母。
翻訳を勉強しています。
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