「今の生き方、いつまで続けますか?」
のっけから自分の話で恐縮だが、私には夢がある。それは、世界のあちこちに「住むこと」。旅とは少し違う。根を下ろして、その土地を感じ、人を知りながら、生きていきたい。だからいつまでも会社員を続けるわけには、いかない。生き方を変えたい。変えなければ。
そう焦りが募るなかでの、冒頭の問いかけ。本書の表紙を開くと目に飛び込んでくるメッセージだ。
でも書名は『ニューエリート』…。エリートって「官僚」とか「銀行の頭取」とか。偏見だろうが、そんなイメージ。「ニュー」だとしても、私には学歴すらないし。きっと別次元の生き方だろう。けれど、この問いかけが気になる…。
逡巡しつつも、えいやと読み始めた。読みながら、考えがガラリと変わった。著者ピョートル氏が言う「ニューエリート」は、私がイメージしていたエリートとは全く違う。学歴でも企業名でもない。良い意味で、別次元の生き方。
そしてその生き方は、夢実現への光を見せてくれるものだった。では、ニューエリートとは具体的にどんな人なのか? 加えて、彼らを彼らたらしめている重要な要素、「学び」についても紹介したい。
ニューエリートとはどんな人なのか?
著者はこれまでの時代の成功者を「オールドエリート」、これからの時代の成功者を「ニューエリート」と呼んでいる。
オールドエリートとは、固定化された「地位」のようなものだという。例えば有名大学卒を肩書きに学歴エリートとして生きたり、大手企業に就職してエリート社員として居続けたり。私が抱いていたイメージそのもの。その人の能力というよりは、学歴や役職のことのようだ。
では、「ニューエリート」とはどんな人なのだろうか。
まず、これからの時代をリードしていくのは、「こういう世界を描きたい」「こういう世界を見たい」というビジョンを持っている人、そして、その実現のためにやるべきミッションを探し、果たしていくというパッションがある、そういう人だという。
彼らはビジョンを実現させることで、またはその過程で、自分自身を成長させ続ける。その持続的な成長を、著者は成功と定義している。
つまりニューエリートとは、自らが設定したビジョンに向かって成長し続けている人、といえるだろう。
ニューエリートの特徴とは?
著者はニューエリートの特徴を、オールドエリートと対比させながら、以下のように挙げている。
オールドエリート | ニューエリート | |
---|---|---|
性質 | 強欲 | 利他主義 |
要望 | ステータス | インパクト・社会貢献 |
行動 | 計画主義 | 学習主義 |
人間関係 | クローズド(差別) | オープン(コミュニティ作り) |
考え方 | ルールを守る | 新しい原則を作る |
消費行動 | 誇示的消費 | ミニマリズム |
ここでは特に「学習主義」に焦点をあてて紹介したい。
著者曰く、「学び続ける人しかチャンスをつかめない」そうだ。学び続けない人に、ビジョンを達成することなどできないということだろう。
では、どのようにして学んでいけばよいのだろうか。
①仕事に学びを絡める
日常的に学ぶために、著者は仕事に学びの要素を取り込むことを勧めている。
まず仕事内容を、「インパクト(同じ時間で生み出す価値)」の高低と、「学び」の多い少ないでマトリクスにしてみる。
「インパクト高、学び多」に分類される仕事を最優先で行い、「インパクト低、学び多」は将来の投資として取り組む。インパクトの高低にかかわらず、学びが少ないものは、他の人の手を借りたり、アウトソーシングなどを活用できないか検討する。
このようにして、日常的な仕事の中で「学び」を意識することが重要なのだ。
②人から学ぶ
著者によると、日ごろ接する人で成長できるかどうかが大きく左右されるそうだ。だから、成功者に会うチャンスがあれば逃さないこと。
そして成功理由や価値観などについて多くの質問を投げかけ、とにかく聞く。インタビュアーになった気持ちで会話をする。これが人から学ぶ基本なのだそうだ。
また自分にとって未知の分野の人と話す際には、「サイクル」「トレンド」「パターン」を意識して勉強しておくことも重要だという。といわれても「?」ではないだろうか。正直、私は言葉だけではぴんとこなかった。
著者はこの3つについて、ファッションを例に詳しく説明してくれている。まず、ファッションには流行の「サイクル」がある。今は90年代テイスト、その前は80年代といったように、過去のある時期に光が当たる。そのような過去の繰り返しがが「サイクル」。
「トレンド」は、サイクルの中でその時に流行っているもの。
「パターン」はビジネスモデル。アパレル業界と一口に言っても、着物のように、職人がつくり、問屋を通じて呉服店で販売されるというモデルもあれば、ファストファッションのようにアジアの工場で大量生産され、廉価で販売されるという製造小売業のモデルもある。
今はどの過去がフィーチャーされ、その中でなにが流行っているのか。そしてどんなビジネスモデルが採用されているのか。素人でもこれを押さえて会話をすることで、プロから一目置かれ、ハイレベルな会話へ入れてもらえるのだそうだ。
もう一つ、「事前に学びたい情報を決めておく」ことも勧めている。そのためには、自分の課題を具体的な質問にしておくと効果的だという。
ここでポイントなのは「具体的」という点。「どうしたら成功できますか?」なんて質問をしても抽象的すぎて、聞かれたほうはなんと答えたものやら、困ってしまう。
なので、自分は何が分かっていて、何が分かっていないのかを把握するところから始めてみる。そうして、どんな情報が必要なのかを明確にして質問する。
「私は○○の分野で△△を実現しようとしています。今、○○に取り組んでいるのですが、どう思いますか?」ーーこのような形で聞くことができれば、相手から的確なアドバイスをもらえる可能性は高くなる。
こうして、ニューエリートたちは日常的に自分を学ぶ仕組みを作りながら、ブラッシュアップし続けているのだ。
ビジョンを掲げ、学び続けよう
ピョートル氏の唱える「成功」は従来の定義とはかけ離れている。年齢も住む場所も関係ない。ビジョンを掲げ、学びを怠らず成長し続ける限り、それは「成功」と呼べるのだ。
自分に翻って、私のビジョンは一体なんだろう。世界のあちこちに住み、土地を感じ人を知りながら生きて、その先に、どんな世界を求めるのだろう。
考え込んでしまった。
答えを見つけるにはもう少し時間がかかりそうだ。しかし悩みながらも前進できれば、それはピョートル氏の言う「成功」の端くれぐらいにはなるのではないか。そう自分を励ましている。
ニューエリートとして生きることは、きっと簡単ではない。学び、考え続けなければならないからだ。
でもこの本は、やりたいことと真剣に向き合うきっかけをくれた。それに、ピョートル氏のポジティブで心遣いあふれる言葉が、勇気をくれ、背中を押してくれる。
夢や目標、やりたいことがある全ての人に、ぜひこの本を読んでもらいたい。