こんにちは。Yabechonです。今回は、佐川隼人さん著『サブスクリプション実践ガイド』を読みましたので、ご紹介します。
みなさん、サブスクリプション(Subscription)という言葉をご存知でしょうか? 端的に言うと、「定期購入」や「定額制」「会費制」のことです。たとえば、携帯電話の契約は、昔のような従量課金制ではなく、ほとんどの方は使い放題の定額パックを利用していると思います。これはサブスクリプションビジネスの形態の1つです。
佐川さんは、2008年にテモナ株式会社を設立、これまで1000社近くの企業のサブスクリプションビジネスを支援してきました。そして2018年12月、一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会を立ち上げ、代表理事に就任。日本におけるサブスクビジネスの第一人者と言っていい方だと思います。
本書は、そんな佐川さんの経験を背景に、日本での「サブスクビジネス成功の鍵」が書かれているハウツー本です。
日本で実際にサブスクビジネスを成功させている企業5社(富士山マガジンサービス、MEJ、エアークローゼット、大嶌屋、ネオキャリア)へのインタビューを基にした実例も紹介されています。
この記事では、以下の4つのポイントについてご紹介します。
- なぜ、“今” サブスクなのか?
- サブスクの4つのビジネスモデルとは?
- 顧客価値を最大化する3つの必須要素とは?
- どのようにサブスクを実践すればいいのか?
1.なぜ、“今”サブスクなのか?
サブスクビジネスは、これまでにない全く新しいビジネスモデルではありません。携帯電話の定額パックや新聞購読、古くは富山の薬売りが始めた置き薬も、定期的に商品やサービスを提供しているという意味ではサブスクです。
では、なぜ今サブスクビジネスが注目されているのでしょうか。その要因は2つあります。
- 消費者の価値基準が変化したこと
- これまでのビジネスモデルが限界にきていること
①消費者の価値基準の変化
一昔前は、「無いモノが有る」という時代であり、消費者の価値は「モノ」にありました。しかし今は、「無いモノが無い」時代となり、「モノ」は満ち足りています。
それによって、消費者の価値基準が「モノ」から「コト」へ変化しています。
「コト」とは、つまり「サービス」です。具体例を挙げると、「パソコン(という“モノ”)を持っている」こと自体が価値だという時代から、パソコンは持っている前提で「ビデオ会議ができる“コト”」が価値だと考える時代になったわけです。
つまり、「モノ」はあって当たり前。その上で、どのくらい「サービス」という付加価値を得られるのかということが重視されるようになっているのです。
②企業のビジネスモデルの限界
これは、①と連動しています。企業はこれまで「モノ」を売って収益を得てきましたが、「モノ」を買うという消費行動は低下してきています。
したがって、企業は「売って終わり」のビジネスモデルから、「継続的に買ってもらう」ビジネスモデルへの変換を迫られています。専門的な言葉を使うと、「フロー型ビジネス」から「ストック型ビジネス」への変換です。
以上、消費者側視点と企業側視点双方から、なぜ “今” サブスクなのか、お分かりいただけたと思います。
一方で、日本における「サブスク」の認知度は4割程度とまだまだ低く、市場は未成熟だというのが現実のようです。
2.サブスクとはどういうビジネスモデルなのか?
本書では4つのビジネスモデルが挙げられています。以下、具体例を示しながら紹介します。
①定期購入型モデル
これは、毎月一定額の料金を支払っている会員に対して、特定の商材を販売するビジネスモデルです。
僕も使っていますが、「Amazon定期おトク便」は、洗剤や飲料、健康食品などの商材を定期購入できるサービスです。
「定期購入型モデル」で扱う商材は、「買いに行くのは面倒だけど日常的に使うもの」で、「あまり消費者嗜好が変わらないもの」が適しています。
②頒布会モデル
「頒布会」とはあまり聞き慣れない言葉かもしれません。頒布には、「広く配って行き渡らせること」という意味があります。
頒布会モデルは、事業者側があらかじめコース設定を行い、毎月一定額の料金を支払っている会員に対して、毎回異なる商材を販売するビジネスモデルです。
たとえば、郵便局が提供している「ふるさと会」は、郵便局側が毎月各地方の旬の食材をカタログとして用意し、購入者はそのカタログから好きなものを選んで宅配してもらうという頒布会モデルです。地方の食材を、その地方以外の人にも広く配っているわけです。
頒布会モデルで扱う商材は、日常的に使うもので、さまざまな種類があって選ぶのが大変なものが適しています。
③会員制モデル
毎月一定額の料金を支払っている会員に対して、サービスやコンテンツを利用する権利を貸与するビジネスモデルです。
たとえば、スポーツクラブや、dマガジンなどの雑誌読み放題サービスです。
会員制モデルで扱う商材は、実店舗でのサービスやデジタルコンテンツ、レンタルなどが適しています。
④レコメンドモデル
これは顧客一人ひとりの嗜好や状況に合わせて、専門家が商品やサービスを提案(レコメンド)したり、提供したりするビジネスモデルです。
たとえば、「ミールタイム・栄養士おまかせ定期便(ファンデリー)」というサービスがあります。このサービスは、生活習慣病や持病などで食事制限が必要な人向けに、食事療法に対応した「ヘルシー食」「タンパク質調整食」や、介護の必要な人向けに咀嚼しやすい「ケア食」などを定期配送しています。
専門知識をもつ管理栄養士がメニューを考案し、また顧客にとってどの食事が適切なのか相談にのるなど、細かなフォロー体制を整えています。
近年、テクノロジーの発達によって顧客の嗜好を分析して最適なものを提案できるようになってきていることも、レコメンドモデルの普及を後押ししています。
以上、4つのモデルをご紹介しましたが、これらいずれも、商品売り切りではなく、顧客とのリレーションシップを継続することで収入を得るビジネスモデルであることが分かると思います。
3.顧客価値を最大化する3つの必須要素とは?
顧客にとっての価値を最大化するうえで、商品やサービスに不可欠な要素を3つ紹介します。ONB(オンブ)です。
- O:「お得感」を出す
- N:「お悩み」(顧客の面倒くさい)を解決する
- B:期待以上の「便利さ」を提供する
O:お得感を出す
お得感は消費者にとっての普遍的な魅力です。ある調査では、動画配信・音楽配信・電子書籍を利用する理由は「安価だから」が第1位です。安価=「お得感」がサービスの魅力として成立しているわけです。
しかし、「安ければ良い」というものばかりではありません。たとえば、アメリカの例で「Book by Cadillac(ブックバイキャデラック)」というサービスがあります。これは、月額$1,800で高級車Cadillacに乗り放題、乗り換え放題というサービスです。月額$1,800は決して安くない値段ですが、Cadillacという高級車に乗りたい、という顧客心理をうまく掴み、お得感を出したサービスだと思います。
このように、どんな要素に価値を感じるかは、人によっても商材によっても異なりますので、「どんなお客様に利用してもらいたいか」というコンセプトを明確にすることが大切です。
N:お悩み(顧客の面倒くさい)を解決する
技術が発達し、いくら世の中が豊かで便利になろうとも、人は生きている限り、大小さまざまな悩みを抱えています。それが当人にとって深ければ深いほど、解決して欲しいという願望も強くなります。
したがって、その願望を実現する商材を生み出せば、きっとその人はその商材を購入し、末永く利用し続けてくれるはずです。
対象顧客の悩みの大小によらず、顧客のそれを解決する商材を提供することは、顧客への大きな訴求点となります。
B:期待以上の便利さを提供する
世の中が便利になればなるほど、ちょっとした不便に敏感になってしまいます。今まで何も思わなかったことを不便に感じるようになったことは、身の回りにもあるのではないでしょうか。
たとえば僕は、ペットボトル入りの飲料はこれまでスーパーマーケットで買っていました。しかし、今はAmazon等のインターネットショップで欲しい商品をポチッとすれば、自宅玄関まで配送してくれます。となると今まで当たり前だったスーパーで買って自宅に持って帰るという行為が不便に感じるようになります。
このように、便利さの提供も、顧客への大きな訴求点となります。
では、実際にサブスクビジネスをスタートするには、何から始めればいいのでしょうか。次からご説明します。
4.どのようにサブスクを実践すればいいのか?
実践では、大きく5つのステップで企画する方法が紹介されています。
- プラニング
- 基本設計
- 販売促進(マーケティング)設計
- 会員管理設計、リピート施策設計
- 定点観測と改善
①プランニング
まず、自分の会社にとって大切なお客様がどんなお客様かを考えることです。
サブスクビジネスの特性上、お客様は継続的に自社の商材を購入してくれます。このようなお客様は、いわば、「VIP顧客」です。VIP顧客は追加でオプションを購入してくれるかもしれないし、知人を紹介してくれるかもしれません。
そのようなVIP顧客が感じている自社の魅力はどんな点でしょうか。なぜ自社の商品を継続購入してくれているのでしょうか。
これを知るには、アンケートやモニター調査が定番の手法でしょう。
- 自社の商材を購入した理由はなんですか?
- 自社の商材で気に入っているところはどこですか?
- 自社の商材で不満に思っているところはどこですか?
これらを知ることで、さらに魅力ある商品設計ができるようになるでしょう。
②基本設計
続いて「商材」「ビジネスモデル」「価格」など、基本となる要素を設計します。
まずは商材の選定です。①で述べた、「VIP顧客が自社のどんな点に魅力を感じ、どんな点に不満を感じているのか」、アンケートの結果を踏まえながら考えることが、商材設計のヒントになります。
次に、ビジネスモデルの選定です。設計した商材を顧客に提供するには、先述した4つのビジネスモデルのうち、どれが一番相応しいかを考えます。
モデル選定の際は、ONBも合わせて考えることが大切です。たとえば、会員制モデルである動画配信を商材とした場合、「O(お得感)」は十分満たしていても、動画を受信するには、xxとyyという宅内機械の設置が必要です、なんて言われたら、Oの魅力よりも「B(便利さ)」の不便さが勝ってしまい、この商材は売れないでしょう。
最後に価格設定です。「原価+販促費+人件費 < 売上高」であれば、収益は出ますので、そのように価格設定します。
③販売促進(マーケティング設計)
ターゲット顧客、商材、ビジネスモデル、価格が決まったら、いよいよ販売促進の設計です。
みなさんが何かを買う際、「どんなものか分からないから初回の1か月くらいはお試しで使ってみたい」とか、「商品だけみてもどんな魅力があるかや他社商品との差異はどこなのかが分からない」と思ったことはあると思います。
このような顧客心理に対応し、購入に結び付ける手法として、以下の2つが挙げられています。
(1)2ステップマーケティング手法を採る
(2)魅力的な宣伝や告知をする
(1)は、お試し期間の要望に応える施策です。
- 初回は無料もしくは安価で提供し、
- 次回から正式な価格を払ってもらう
という2ステップを踏んで顧客を囲い込みます。
次に(2)です。これは、他社と比較した場合の魅力など、自社の商品をアピールすることです。チラシやメルマガに加え、最近ではSNSによる告知なども主流となってきています。
佐川さんによると、初回利用後に正式な顧客になってもらえる率は、実店舗なら10%程度、ネット販売なら3%程度だそうです。これからサブスクビジネスを始めようとする方にとっては、覚えておくと良い数字でしょう。
④会員管理設計、リピート施策設計
これは、商品購入後の顧客離れを防ぐための施策です。
「会員管理設計」とは、たとえば「お誕生日月の購入は10%オフ」といった告知をすることで、顧客に特別感を感じてもらい、継続的なVIP顧客になってもらうための設計を行います。
ただし、顧客の個人情報を取り扱うため、セキュリティには十分気をつける必要があります。また、顧客が増えてくるにつれ、管理量も膨大になってきますので、顧客情報管理システムの導入も視野に入れないとなりません。(当然ながら、システム導入、運用のコストがかかりますので、価格設定にも影響します)
「リピート施策設計」では、どのようなきめ細かな顧客サポートを行うかを考えます。
たとえば、
- 顧客とのコミュニケーションやアフターサービス
- 購入後のサポートや特典付与
などの施策が挙げられています。
⑤定点観測と改善
これは、定期的に顧客数や収益性を観測し、ビジネス計画と照らし合わせ、必要に応じて進化・改善していくことです。
以上、5つの視点でビジネスを設計していくことが、サブスクビジネス成功の鉄則だと、佐川さんは述べています。
最後に
サブスクビジネスは、企業しか実践できないものではなく、個人起業家やこれから副業としてビジネスを始めようと思っている方でも実践可能です。
その際、消費者視点を持ち、自分がどのような価値を提供してもらったら嬉しいかを考えることが有効です。
本書が残念なところは、B to Cに偏った内容であったという点です。たとえば僕が携わっている開発エンジニアの業務では、B to Bの商材を扱っていますが、本書で挙げられている4つのビジネスモデルのどれにも当てはめることが困難です。
なぜなら、顧客毎にハードウェアやソフトウェアが異なり、その組み合わせも異なっているからです。また、定期的に受注があるわけではなく、お客様が必要な時に不定期に受注が入ります。定期購入や頒布会モデルは当てはまらない、また不定期受注のため会員制もとれない、レコメンドで対価をもらうビジネスモデルでもない。
サブスクは、「商材が明確」であり、「顧客嗜好もある程度把握可能」で、「価格帯もせいぜい松竹梅の3つ程である」であるというビジネスには向いているものの、B to Bの場合は、本書で紹介されているモデルをそのまま当てはめて扱えないケースも多いように感じました。
もちろん、サブスクビジネスを展開しているB to B企業もあるでしょう。しかし少なくとも、僕が携わっている業界においては、サブスクを聞いたことがありません。
ですので、次は、B to Bビジネスを対象としたサブスク実践本の出版を著者に期待します。
現在は、個人でも比較的容易にビジネスを立ち上げることが可能な環境になってきており、僕の知人にも、個人起業家として独立してサブスクビジネスで収益を上げている方がいます。
AIやIoTの台頭による第四次産業革命で、世の中のビジネスモデルが大きく転換すると言われています。その中の一つに「サブスクリプションビジネス」というものがあるんだということを個人レベルで知っておくことはとても有益ですので、ぜひ本書を広く多くの人に読んでいただきたいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。