ここ最近メディアでの露出が多く、世間からの注目度も高いメディアアーティスト・落合陽一さん。最新作の『日本再興戦略』は、日本に対する傑出した指南書でした。
何が凄かったかというと、外国のモノマネではなく「日本人が受け入れやすい策とは何か」について、多角的かつ深く考察されていること、そして「再興のためには “意識改革” が必要である」という主張が説得力のあるロジックで語られていることです。
落合さんの唱える「日本再興戦略」とは「改革」や「革命」ではなく、「アップデート」であるといいます。改革や革命では抵抗勢力を生み出し、勝者と敗者を生むゼロサムゲームに陥ってしまいます。日本再興を成すためには、今の世の中と違う考え方を出しながらも、今の世の中との折り合いをつけていく視点が重要なのです。
そのためには、今パイを持っている人たちをさらに儲けさせてあげられるような枠組みを考える必要があります。
本書では、日本をアップデートするための具体的な施策が述べられているのはもちろん、日本が目指すべき将来像についても明確に描かれています。読み終えて感じたのは、読者自身も日本をアップデートさせるための戦略を具体的に考えること、そして実行していくことが大切なのだということです。
それでは、30歳の若き著者がぼくたちに教えてくれる英知を、以下の3つのトピックに分けてご紹介したいと思います。
- 西洋思考から東洋思考への回帰
- ワークアズライフで百姓的に働く
- トークンエコノミーを広げる
①西洋思考から東洋思考への回帰
今の世の中との折り合いをつけながら、新しい考えを浸透させていくためには、「日本人が受け入れやすい策」を練る必要があります。
本書では、まず日本人の心の深い部分に刻まれている価値観を理解するために、歴史を紐解きながら「欧米とは何か」「日本とは何か」について明らかにしています。
ヨーロッパ各国とアメリカは全く異なるはずなのに、勝手に「欧米」というユートピアを描き、いいとこ取りを始めたのが明治維新以降。そのため江戸時代までと明治維新以後とでは、下記のように価値観が大きく異なると言います。
江戸時代まで | 明治維新以後 | |
---|---|---|
思考 | 東洋思考の醸成 自然体である事 |
西洋思考を輸入 近代的な個人主義 |
思考のベース | 八百万の神 コミュニティ・寛容 わびさび |
一神教 幸せを見出す(幸せ依存) |
夫婦家族の形 | 絆を大事にし、静かに佇む | 愛する事を頻繁に伝える |
政治 | 地方自治 | 中央集権化 |
働き方 | 百姓(いくつかの仕事を持つ) | 1社に勤め上げる、1つの生業で生きていく |
結論としては、明治維新以降に推進された欧米化から、東洋思考への回帰が提案されています。
②ワークアズライフで百姓的に働く
東洋思考への回帰にあたって、働き方の面でキーワードとなるのが「百姓」と「ワークアズライフ」です。
百姓になれ
江戸時代にあった士農工商は、拝金主義に陥らない仕組みとしてよくできていると落合さんは言います。
政策執行者の「士」、ものを作る「農」と「工」は、世に価値を生み出すクリエイティブクラスであり、その下にお金を扱う「商」を置いています。
「商」は別の誰かが生産した何かを流通させてお金を稼ぐ職業です。そんな「商」を一番下のクラスに置くことで、「士、農、工」はお金以外のこと、つまり価値の創出に対して意義を見いだすことができるのです。
この序列を現代に置き換えると、以下のようになると落合さんは述べています。
- 「士」…政策決定者、産業創造者、官僚
- 「農」…一般生産者、一般業務従事者
- 「工」…アーティストや専門家
- 「商」…金融商品や会計を扱うホワイトカラー
では百姓になれとはどういうことでしょうか。百姓は「農」の中心的な役割であり、農業を営んでいることが大半のように思えます。しかし実は単なる農民ではなく、言葉の通り「100の生業がある人たち」のことを指しています。いわば自営業者、マルチクリエーターです。
農業をする人もいれば、木工をする人もいる。文章を書く人もいれば、祭りを取り仕切る人もいる。そして百姓はコミュニティにおいて必要とされる生業を複数かけもつことで、職のバリエーションをポートフォリオマネジメントしてきた役職なのです。
今後は、人工知能やロボットなどが「商」であるホワイトカラーの効率化を進めていきます。専門性がなくエクセルを叩いているだけのような人たちは、次々と機械に置き換えられていくでしょう。
一方、百姓のようにいろんなことができるマルチクリエーターは、時代の流れに合わせて仕事をポートフォリオマネジメントしていけばよいので、食いっぱぐれることがありません。
百姓的に働くことこそ、これからの世の中を生き抜くための具体策となるのです。
ワークライフバランスからワークアズライフへ
昨今ワークライフバランスという言葉をよく耳にします。しかしこれは西洋的発想であり、「ワーク」と「ライフ」を分けるという発想自体が、日本の文化には合わないと落合さんは言います。なぜなら日本人は昔から、生活の一部として仕事をしていたからです。
東洋的には、百姓のように仕事と生活が一体化した「ワークアズライフ」の方が向いており、「ずっと仕事の中にいながら生きている、そしてそれがストレスなく生活と一致してる」のが美しい状態なのです。
無理なくできることを組み合わせて生きていけるようにポートフォリオ設計することが肝であり、落合さんの考えでは、常に仕事も「日常」になった方が、アップダウンの波がない分、むしろ心身への負荷が低いと言います。
われわれが西洋的な「ワークライフバランス」の発想にとらわれる必要はないのです。
③トークンエコノミーを広げる
2017年はビットコインが盛り上がり、最近ではコインチェックのNEM流出事件など、仮想通貨のニュースを目にする機会が多くなりました。
その仮想通貨の元となるブロックチェーンの技術や、仮想通貨の上場の仕組みであるICOをうまく利用することが、日本再興の切り札となると落合さんは言います。
たとえば県や市が独自のトークン(=仮想通貨のようなもの)を発行し、魅力的なビジョンを打ち出せば、それに共感してくれる人たちからお金を集めることができます。将来への期待に対し、トークンの価値が株価のように上がっていくのです。
そうして得た資金を5Gや自動運転といったテクノロジーに投資することで、街の魅力が増し、人や企業が集まるサイクルが生まれます。トークンエコノミーによって中央集権から地方分権を図ることが、日本再興につながっていくのです。
この仕組みを活用すれば、江戸時代に各藩が独自の文化や名産を持ち、うまく発展していたように、現代でも同様のことが再現できるはずです。
日本の未来はやっぱり明るい
明治時代のときにもいきなり西洋化したのですから、我々は今、いきなり東洋化してもいいのです。個人と集団、自然化と人間中心の間で物を考える中で、今は自然で集団の時代に突入しているのです。
この文章にはドキッとさせられました。本書を読んで「総論としてはそうだよね」と納得できても、どこか自分事として捉えられていなかったんだと思います。「今、いきなり東洋化してもいい」というのは、私やあなたが、まさに今、既存の価値観から脱却して新しい生き方や働き方にチェンジしてもいいということです。
腹落ちしますか? 明日から行動が変わりますか?
そんな問いを突きつけられたように感じました。
ぜひ皆さんも一読し、考えてみて下さい。
最後に、著者のメッセージを紹介します。
ポジションを取れ。批評家になるな。フェアに向き合え。手を動かせ。金を稼げ。画一的な基準を持つな。複雑なものや時間をかけないと成し得ないことに自分なりの価値を見出して愛でろ。あらゆることにトキメキながら、あらゆるものに絶望して期待せずに生きろ。明日と明後日で考える基準を変え続けろ。
意識を変えて、行動すれば未来は明るい!