東大医学部卒の医師がスタートアップ代表となり日本の医療問題解決を目指す!

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 代表取締役「社長」なら分かるけど、代表取締役「医師」ってどういうこと…?

 これがこの本を読んでみようかなと思ったきっかけでした。

 代表取締役「医師」とは、株式会社メドレーの共同代表であり、医師でもあるということです。この役職は非常にユニークですし、印象に残りますよね。これだけで、著者の豊田剛一郎さんはかなりの切れ者なんだろうとわかります。

 ワクワクしながら一気に読んでしまった本書は、一言でいうと豊田さんの自叙伝です。しかし単なる自叙伝ではありません。

 日本の医療業界の問題について数多く紹介されているため、医療業界の未来を「私たち自身の問題」として考えるきっかけとなる本でもあるのです。

 豊田さんは東大医学部から、脳外科医となりました。その後マッキンゼーでコンサルタントを経験されたのち、小学校の同級生である瀧口さんが起業した医療系ITスタートアップ企業メドレーに参画されています。

 誰もが羨む超エリートコースから外れ、スタートアップに参画することを決めるまでの経緯も非常に興味深いのですが、ここでは、より熱量をもって執筆されていると感じた、医療業界の問題とそれを解決のための取組みについてご紹介します。

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医師が執筆するWikipediaをつくる

 病気や怪我をしたとき時ってネットで症状を調べますよね。私はスノーボードのハーフパイプで転倒、後頭部を強打し、瞬間的な記憶をなくしたことがあります。そのときはやっぱり焦ってネットで色々と調べました。(検査の結果、幸いにも問題ありませんでした)

 しかしネットで調べても、例えばWikipediaは10個の疾患のうち9個が誤っていたという研究結果があったり、専門機関の情報も数年更新されておらず、最新の情報が記載されていない場合があったりと、ネットの情報は玉石混合です。私の場合も単に不安になっただけでした。

 加えて、ネットで調べるデメリットとして、著者は以下のように警鐘を鳴らしています。

 さらに危ないのは、質の低い医療情報の多くが、病気の事で弱ったり不安になったりしている人に対して、聞こえの良いものである事が多く、調べている人が質の低い情報を信じたくなりやすいということです。

 結果としてネットの情報が阻害要因となり、医師とのコミュニケーションがうまくいかず、良い治療が行えないケースが多々あるのが現状だそうです。

 そこで豊田さんはメドレーに参画した際、「正しい医療情報を伝えたい。患者が本当の意味で納得できる医療の実現を目指すために、安心して患者自身が調べる事ができる環境を提供したい」という秘めた想いをどうしても実現させたかったのだと言います。

 そんな想いからできたのが、医者が執筆するWikipedia、オンライン医療辞典の「MEDLEY」です。

 特筆すべきなのは、中立性と更新性と網羅性を持って正確な情報を提供していることです。登録した医師のみ編集ができ、かつ例外なく匿名で行います。そうすることで著名な医師が編集した後でも、別の意欲ある医師が内容を更新しやすい仕組みとなっているのです。

 2017年12月時点では500名以上の医師が参加しており、1500疾患、3万の医薬品、16万の医療機関情報が記載されているサービスに成長しました。

 私も実際にスマホで検索してみましたが、非常に使いやすくて驚きました。素人の印象でしかありませんが、登録されている1500疾患は、一般の方が思いつくメジャーな病気であればほとんどがカバーされているのではないでしょうか。

 今後もさらなる更新・改善がなされ、体調が悪くなったときは、まずMEDLEYで調べて正確な情報を手に入れる、そんな世の中になって欲しいと思います。



オンライン診療アプリ「CLINICS」で通院の手間とコストを減らす

  • なかなか休めない仕事を調整して平日に病院行ったのに、数時間待たされ、5分くらいの診察とちょっとの薬をもらっただけだった。
  • 子供のうち1人が病気になってしまったが、元気なもう1人と一緒に病院に行った結果、元気だった子も院内感染により風邪をひいてしまった。

 そんな経験ありませんか?

 現在の通院外来の問題は、億劫さ、待ち時間、院内感染リスクなどです。これらに対する解決方法の一つとして、メドレーでは「CLINICS」というオンラン診断アプリを提供しています。

 当初はスロースタートだったCLINICSですが、福島県南相馬市にある小高病院への導入が、オンライン診断を用いた遠隔医療の優れた事例となりました。

 小高病院は、福島第一原子力発電所から20km圏内にあり、震災後に避難指示が出ていた地域です。避難指示が解除されたとき、小高病院の常勤は藤井医師しかおらず、病院の外来と在宅医療(訪問医療)の両方の対応が求められました。

 効率的な医療サービスの提供がどうしても必要となり、「CLINICS」を使って遠隔医療を行うことになったのです。

 ただし、患者さんがPCやタブレットを持っていない場合もあるため、病院側がアプリを導入するだけでは解決になりません。そこで試行錯誤の末、「看護師さんがタブレットもって患者さんのご自宅を巡回する」という新しい遠隔医療のスタイルが確立されました。

 画期的な取組みは徐々に注目を浴びることになり、被災地復興を行っていた経産省の方の耳にも留まります。その結果、復興の優れた事例として、安倍総理に対し説明する機会まで得られることになったのです。

 首相官邸と福島の小高病院をつなぎ、実際に安倍総理の診断をオンラインで藤井医師が行うというデモが行われ、非常に高い評価が得られました。

 この遠隔医療のモデルは、被災地や医療過疎地域だけでなく、在宅医療全体に広がる可能性を持っています。たとえば年に数回だけ見てもらえばいい慢性的な疾患なども億劫な通院をしなくてよくなりますし、そうした効率化によって医者不足問題を解決する有効策となる可能性も秘めています。

 ぜひ、メドレー社には「CLINICS」を日本全体に定着させてほしいです。

日本の医療問題を知り、未来をつくるために働く

 この本では、他にも医療にまつわる問題がたくさんの事例とともに記載されています。たとえば以下のようなものです。

医者が少ないのに、世界で一番病院が多い。

 病院数が2位のアメリカは5000ちょっとなのに対し、日本は9000もの病院があります。

医師の人数や診療科をエリアに応じて分配する仕組みがない。

 医者の卵は自分が希望する場所と診療科で働くため、医師がいなくなるエリアや、医師不足となる診療科が出てきます。

 これだけでも衝撃的でしたが、以下の医療費問題はそれ以上に重いと感じました。

日本の医療費は年間42兆円、その莫大な金額は保険ですべて賄えないため、約4割にあたる16兆円は税金で支払われている。

 これは理論的には働いている人口すべての人が、年間70万円を負担することで維持される仕組みで、それが現在の国民皆保険であり日本の医療なのです。

 皆さんの給料から毎月5万円天引きされているとしたらどうでしょうか。凄いことですよね。

 もちろん、実際には様々な税金が支払いに割り当てられているのでしょうが、莫大な医療費の財源を考えていかなければならないと、より強く感じるようになりました。

 このように、私たちの身近な問題として知っておいた方がよい内容が分かりやすく書かれている本ですので、読者の方が少しでも医療の問題に気づくきっかけになればよいと思います。

 また、社会問題を解決すべく熱量をもって働く、つまり「未来をつくるために働く」、そんなカッコイイ生き方をされている豊田さんからパワーをもらいたい人もぜひ一読をお勧めします。

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