2017年は「AIが仕事を奪うのでは」という悲壮感あふれるニュースやら記事やらが大量に出ましたよね。「AIって本当に仕事を奪うの?」という疑問や不安は、誰もが抱いていることでしょう。
僕はAIの本質さえ理解していれば、いたずらに未来を不安に思うことなく、変わっていく世の中を楽しめるだろうなという安直な理由で、最近はAI関連本を何冊も読んでます。
参考までに、最近読んだ AI関連本もご紹介しておきます。
↑言語処理に係るAIのことを理解するためには、この本がかなりお勧めです。
また、今の不安な世の中について、経産省の若手メンバーがまとめたこちらの本も良書です。
AI・BIとは?
さて、今回ご紹介する『AIとBIはいかに人間を変えるのか 』は、文字通り人工知能(AI)とベーシックインカム(BI)について書かれています。
まずはWikipediaを参考に、それぞれ簡単に意味を確認しておきましょう。
- AI(人工知能):ディープラーニング等の技術を用いて自然言語処理・画像認識などに応用されている。
- BI(ベーシックインカム):国が国民に対して最低限の生活ができる額を無条件で支給する制度。
AIとBIは、一見すると全く異なる性質のテーマに思えますよね。誤解を恐れずに書くと、「語呂がいいから2つ一緒に書いてしまえ」というノリで本書のタイトルが決まったのでは、と疑ってしまったくらいです。
しかし読んでみて分かったのは、この2つを一緒に考えることによって、AIによって仕事が奪われてしまうディストピア的な未来ではなく、「食うため・生きるための労働」から解放され、誰もが今以上に自分らしい働き方を目指せるようになるということでした。
なぜAIとBIを一緒に考えるべきなのかについては、こちらの記事に詳しくまとまっていますので、良かったらご一読ください。
本稿では、AIと比べて語られる機会が少ないBIについて、以下3つのポイントをご紹介したいと思います。
- BIの仕組みとメリット
- BIの社会実験事例
- BIの導入障壁
BIの仕組みとメリット
BIとは「国が国民全員に対して生活を賄えるだけの一定額の金銭を無条件に給付する」ものであることは、前述したとおりです。
もう少しかみ砕くと、次の4つの特徴があります。
- 無条件給付である。(需給のための条件、年齢・性別・就業状況等の制約がない)
- 全国民に一律で給付される。
- 最低限度の生活を営むに足る額の現金給付である。
- 受給期間に制限がなく永続的である。
そのため、現状の社会保障制度とは全く異なるものです。年金のように受給年齢は決まっていませんし、生活保護のように自ら申請し、適合していた場合のみ受領できるものでもありません。また失業保険のように受給期間が決まっているわけでもありません。
そしてBIには、以下のようなメリットがあると考えられています。
- 制度がシンプルであり分かりやすい。
- 運用コストが小さい。
- 恣意性・裁量が入らない。
- 働くインセンティブが失われない。
- 個人の尊厳を傷つけない。
現在の生活保護は、不正受給を防ぐために、審査を行う側が性悪説に則って様々なチェックをし、結果的もらえない事例も多くあるそうです。(受給資格者1000万人に対し、200万人しか給付を受けていない)
また、生活保護を抜けて働こうとすると、給付金の減額・打ち切り、医療扶助などのサービスの停止が待っているため、働くことのインセンティブが見出しづらい状況になっています。
それに対しBIでは、無条件で一定額の給付があるため、恣意性がないことはもちろん、働きたい人は働いた分だけ収入が増えるわけですから、働くインセンティブが失われるわけではありません。
BIの社会実験事例
このように多くのメリットが挙げられているBIですが、実は考え方自体は200年も前からあるそうです。ただ、当時はユートピア的で非現実的な制度とみなされていたんだとか。しかし近年になって、社会実験や政治的活動が行われたことで、再び社会の関心を集めるようになっています。
本書には、多数の事例が紹介されていますが、なかでも代表的な事例として、40年前にカナダのマニトバ州で行われた、BIの「パイロットプログラム」についての記載が興味深かったです。
ミンカム(Mincome: Minimum Income)と呼ばれたこのプログラムは、収入が一定以下の参加希望者全員に年間最大約131万円を給付するプログラムでした。
実験の結果、「無条件に支給される所得によって人々の労働意欲が削がれてしまうのではないか」という懸念は、全くの杞憂に終わりました。むしろ育児や勉学に力を入れたり、入院期間が8.5%削減されるなど、社会的コストは減少し、世界的にも非常に高くされたのです。
このミンカムプログラムを契機に、フィンランドやオランダ、アメリカやケニアでも、パイロットプログラムが現在進行形で行われており、おおむね良好な結果をもたらしているといいます。
BI導入の障壁
では、多くのメリットがあって、世界的に社会実験も行われているのに、なぜ日本では導入が進まないのでしょうか。
著者は、導入の障壁として「経済学的イシュー」「政治学的イシュー」「文化的イシュー」があると述べています。
- 経済的イシュー:フリーライダー問題(働かないものが増えるのでは)、財政問題(巨額の財政負担は非現実的なのでは)
- 政治学的イシュー:官僚の抵抗(シンプルな制度によって職がなくなるのでは)
- 文化的イシュー:働かざる者食うべからずの社会通念(合理性は分かるけど納得できないのでは)
個人的に、「働かざる者食うべからず」の社会通念は、大きな障壁になると思いました。BI制度は、「汗水たらして働いた人」が支払った税金によって、「働けるのに働かずにぶらぶらしている人」の生活費を賄うという捉え方もできるため、合理性や有効性は分かるものの、納得はできないと感じる人が出てくるのは致し方ないと思います。
こればかりは、現在の制度からの大きな変化を伴うため、長年しみついた「働かなければお金は得られない」「働かざる者食うべからず」といった価値観から脱却するのは、なかなか難しいかもしれません。
まとめ
BIが実現すれば、人は「食うため・生きるための労働」から解放され、自分が本当にやりたいことや、人間にしかできないことによって、社会に価値を生み出していく働き方が可能となるかもしれません。
本書では、格差と貧困問題を解決するための最も有効な手段がBIであるとも述べられています。「働かざる者食うべからず」という社会通念を壊すBIの導入によって、拡大する格差や貧困問題の解決につながれば良いなと思います。
AIだけではなく、改めてBIを検討することの重要性に気づかせてくれる良書でした。
興味がある方は是非ご一読ください。