【要約】『ズラシ戦略』成功する新規事業の立ち上げ方とは?

【要約】『ズラシ戦略』成功する新規事業の立ち上げ方とは?




 美女読書ではこれまでさまざまなビジネスアイデアを考え、実践してきました。

 資金も人脈も乏しい個人事業主の私にとって、重要なのは「いかにコストをかけず、今のリソースを活用して新規事業を展開するか」です。

 そんなとき目に止まったのが『ズラシ戦略』という本。著者は元マッキンゼーの戦略コンサルタントで、株式会社フィールドマネジメント代表取締役の並木裕太さんです。

 本書は、「今の強み」を別のマーケットに生かすように新規事業をつくれば、成功確率を上がられるという考えのもと、実例豊富に成功しやすい(失敗しづらい)新規事業の考え方について教えてくれます。

 2〜3時間でサクッと読める内容ながら、著者の実体験をもとにしたケーススタディが多く、参考になる点が多かったのでご紹介します。



「ズラシ戦略」とは?

 「ズラシ戦略」のポイントは以下の3つ。

  1. 自社の強みとなる経営資源=スキルなどを含めた「アセット(資産)」を見つめ直し、
  2. 「事業領域」や「活用するスキル・アセット」を “ずらす” ことで、
  3. 「新しい顧客」をつかまえることです。

 新規事業というと、大きなリスクや失敗を覚悟して投資するものと思われがちですが、「ズラシ戦略」は自分たちの「強み」を見つけて、それを他の場所で使うだけなので、スモールスタートでチャレンジしやすく、新規事業の成功確率を高めることができます。



自社の強みは何なのか?

 「ズラシ戦略」を実践するにあたり、まず重要なのは、事業主体となる「自社の強みが何なのか」をきちんと把握しておくことです。

 強みになるものの例として、以下の5つが挙げられています。

  • 「技術」
  • 「顧客基盤」
  • 「販路/営業力」
  • 「事業領域での見識」
  • 「ビジネスモデル」

 たとえば富士フイルムは、活用すべき経営資源(強み)を「技術」に定め、フィルムなどの事業領域から化粧品という新たな事業領域へずらして新規事業を展開することで成功を収めました。

 またネスレ日本は、活用すべき経営資源を「事業領域での見識」(コーヒーのことを誰よりも知り尽くしていること)に定め、同じコーヒー業界という事業領域の中で、事業の様態を変化させる道を選びました。コーヒーメーカー「ネスカフェゴールドブレンド バリスタ」の開発や、それをオフィスなどに無料で設置し、専用のコーヒーカートリッジ(有料)を販売する事業などがそれです。

 「強み」として活用できる経営資源を見つめ直し、振り向ける先をちょっとずらして、新たなビジネスを展開する。これが著者の言う「ズラシ戦略」です。



「ズラシ戦略」の描き方

 自社の「強み」を理解したら、次に「どのように”ずらす”か」を考えます。

 以下の図(本書p.35)のように「事業領域」を縦軸に、「スキル・アセット」を横軸にして、それぞれを「既存」と「新規」に分割した4象限のマトリスクを描きます。

 既存の「スキル・アセット」を用いて、既存の「事業領域」で行われている事業が「現在地」であり、そこから縦または横にずらして展開していくことをイメージします。

 つまり今の「スキル・アセット」を他の「事業領域」に”ずらす”のか、同じ「事業領域」で「活用するスキル・アセット」を”ずらす”のかを考えるということです。

 成功確率を高めるポイントは、「事業領域」と「活用するスキル・アセット」の両方が異なる領域に一気にジャンプするのではなく、現在足場としているところからの”ずらし”を意識することだといいます。

 たとえばライザップは、ボディメイクというジャンルで確実に結果を出すノウハウ(「少なく食べて、より多く運動する」)を見つけて、それをゴルフやTOEICなど、他の事業領域に”ずらす”ことで新規事業を展開しています。

 「人に自慢できる体を手に入れる」という望みは、運動をしっかり継続的に行い、食べるものをコントロールすれば、誰でも実現できます。それを継続することが難しいだけで、ライザップはその効果的なやり方を見つけて、継続させるノウハウを持っているのです。

 つまり、ライザップのアセット(資産)は「目標の達成に対して、再現性の高いノウハウを見つけて、それを徹底させられること」であり、変えたいと望むスキルがゴルフであれ、英語であれ、料理であれ、目的がダイエットから入れ替わるだけ。それを異なるジャンルに”ずらす”ことで、新たな顧客を獲得しているということです。

 これがもし、アセットをずらした上でゴルフや英語など他の事業領域にジャンプしていたら、成功確率は大きく下がってしまうでしょう。

 以下、同社がアセットをそのままに、事業領域をずらすことで展開しているサービスです。

「ズラシ戦略」4つのステップ

 自社で「ズラシ戦略」を実践する際には、以下の4つのステップに沿って検討します。

  1. 自社が同業他社と比べて優れているスキルやアセットのリストアップ。
  2. リストアップした自社の誇れる強みを活用できる業界を見つける。
  3. ずらし先の業界で、そのスキルやアセットに優位性があるかのチェック。
  4. 実行できる社内の体制を整える。

①自社が同業他社と比べて優れているスキルやアセットのリストアップ。

 これはどこの会社も日頃から考えてくることだと思います。考える際のポイントとして、以下の2点が挙げられています。

  • できるだけ属人的なスキルでなく、組織として持っているスキルやノウハウが望ましい。
  • 再現性の高いスキルであることが望ましい。

 属人的なスキルに頼った新規事業だと、その人が辞めてしまった場合に成長が止まる恐れがあるため、「組織として優れているスキル」をリストアップすることが大切です。また偶然やまぐれの成功であっても、それを引き起こす要因となった要素を紐解くことで、「再現性のあるスキル」として把握しておくことも重要です。

②リストアップした自社の誇れる強みを活用できる業界を見つける。

 次に、どこの業界であれば自社の強みを活かせるかを考えます。その際は「自社のスキルやアセットをそのまま使える業界を選ぶことが望ましい」といいます。

 議論を重ねるうちに、だんだんと「自社のスキルを進化させないと成立しないような事業」へ拡大していってしまうことが多いそうですが、そのまま使えるアセットやスキルを用いるほうが成功の確率は高くなるのだそうです。

③ずらし先の業界で、そのスキルやアセットに優位性があるかのチェック。

 ずらし先の業界で優位性がなければ、当然成功できません。多くはやってみないとわからないものなので、スモールスタートを切ってみることが何よりも大事だと並木さんはいいます。

 ライザップの英語やゴルフはまさにそれで、「ライザップイングリッシュ」は都内のみでの展開ですし、「ライザップゴルフ」は全国展開されているものの、関東・関西の主要都市圏以外の店舗数は抑えられています。いきなり全国展開をするのではなく、データがとれて、管理もしやすい環境で、スモールスタートしている段階であることがわかります。

④実行できる社内の体制を整える。

 意外にもこれがとても大事なステップだと並木さんはいいます。立派なずらしが実現しそうな事業計画が立案されても実現しないケースというのは、実は社内に一番大きな要因があることが多いのだそうです。

 それは責任者が不在で途中で頓挫してしまったり、会社として意味のある規模の事業ではなかったため重視されなかったりといった要因です。

 そのため、これまでのステップ①〜③を踏まえたうえで、次の4つの要素を担保することが勧められています。

  • 責任者がいて
  • サイザブル(会社として意味のある規模感)で
  • 本業への影響が少なく
  • お尻に火がついている

 この4つが満たされない場合は、プロセスを中断してでも、それを担保するようにすべきだといいます。幸いこれらは自社内の課題なので、きちんと向き合えば改善できるはずです。

「ズラシ戦略」が失敗するケースは?

 ちなみに並木さんのコンサル会社・フィールドマネジメントでは、「法人の意思決定者を説得する力、それによってまだ目に見えないものやアイディアを信じてもらう力」(簡単にいうと「法人のトップに対する営業力」)をアセットと定義しています。

 このアセットによって、同社では以下のような成果を上げています。

  • 価格比較アプリ『ショッピッ』をIMjモバイル(当時)に売却。
  • 『スマポ(スマートフォンポイント)』を楽天へ数十億円で売却。
  • 『チケットスター』の立ち上げ、楽天チケットとのサービス統合と事業再生。
  • 投資事業フィールドマネジメント・キャピタル(FMC)の電通への売却。

 これらはどれも、「法人トップに対する営業力」と「見えないものを売る力」というアセットによって生まれた成功事例といえます。

 一方、アセットがうまく機能せずに失敗に終わってしまったケースも紹介されています。当初は「企業の経営者との人脈」をアセットと見て、そこに紐づく秘書のニーズを取り込めるのではないかという考えから「青山花壇」というサービスを立ち上げたそうです。これは企業秘書をターゲットに、取引先のお祝いに送る花の手配を代行するサービスでしたが、「経営者との人脈や接点=秘書との接点」という前提に飛躍があり、また経営者からすると自分が決定して指示するほどの事項でもないため、すでに利用している同種のサービスから乗り換えさせるほどのアクションは生まれませんでした。

 つまり経営者の判断の範疇から外れたところにある事柄だったため、強みであるはずの「法人営業の意思決定者(特に経営者)を説得するスキル」を使えず、失敗してしまったということです。

 また「法人への営業力」としてアバウトに認識していたことで、総務担当者などのコスト意識の高い部門への営業ではアセットが生きないことを見落としており、「法人トップに対する営業力」を発揮できずに失敗したエピソードも書かれています。

 このように「成功したパターン」と「失敗したパターン」のどちらも具体例とともにその要因について考察されているので、自分が「ズラシ戦略」を考える際にとても参考になります。

 どのようなズラシが成功しやすく、どのようなズラシだと失敗しやすいのか、ぜひ本書の事例をチェックしてケーススタディとして学んでみてください。




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