いまビジネスの世界では、コミュニティの重要性が叫ばれ、市場の拡大が続いています。
- キングコング西野亮廣さんが日本最大規模で8,000人
- 幻冬舎の箕輪厚介さんは、会社員の副業として1,116人 × 5,940円/月額 = 月収6,629,040円
- 投資家KAZMAXこと吉澤和真さんは、立上げ4日で約4,300人を集め、会費だけで月収1億3千万円を達成
- ジャニーズ事務所に所属するアイドルグループ「嵐」は、ファンクラブ会員数200万人以上。グループ売上121億8300万円(2016年)
どのコミュニティも凄まじい売上を出しており、いかにコミュニティに価値を感じる人が増えているかがわかります。
私は教育コンテンツの業界を中心に、マーケティングの仕事をしていますが、昨年後半〜現在までに4つも月額会員制コミュニティの立上げに関わっています。
そこで今、一番大きなテーマとなっているのが次のことです。
- なぜ今、これほどまでにコミュニティの需要が増え、さらに影響力を強めているのか?
- どうしたら離脱率が低くエンゲージメントの高いコミュニティを運営できるのか?
- これからビジネスで成果を出し続けるにはどうしたらよいのか?
この難題に対し、現時点で一つの回答を提示してくれるのが、元講談社の敏腕編集者であり、現在はクリエイター・エージェント会社「コルク」の代表取締役を務める佐渡島庸平さんです。
佐渡島さんは、累計発行部数4,130万部の『バガボンド』や、ドラマ化もされた『ドラゴン桜』、アニメ化も実写映画化もされた『宇宙兄弟』など、数々の人気作品の編集を手掛け、最近ではコルクから生まれた『漫画 君たちはどう生きるか』が200万部を超える大ヒットを記録しています。
時代の空気を読み解き、ヒットを連発し続けている佐渡島さんが可能性を見出したのが「コミュニティ」であり、ご自身でも「コルクラボ」という大人気オンラインサロンを運営しています。
そんな佐渡島さんの新刊『WE ARE LONELY,BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』では、コミュニティの今とこれからの可能性について様々な面から論じています。
当書評では、ビジネス面からコミュニティを論じている「第2章 持続可能な経済圏としてのコミュニティ」についてご紹介していきます。
楽天がamazonより圧倒的にスゴイこと
佐渡島さんはamazonを「ショッピングモール」、楽天を「商店街」に置き換えてその違いを説明します。
ショッピングモールでは、買い物から食事、レクリエーションまで一箇所に揃っており、欲しいものや必要なものを自分で選んで購入することができます。あらゆるモノが揃っており、必要なものを比較検討して、クリック一つで購入することができるamazonはまさしくショッピングモール。最高に便利でついつい使ってしまいますよね。
一方、日本には楽天市場という出店数が4万店を超え、国内EC流通総額で約3.4兆円、毎年10%以上の高い成長率を維持し続ける国内最大規模のECサイトがあります。amazonの一人勝ちという訳ではありません。
ではこの2社の違いはどこにあるのでしょうか? ちょっと乱暴にまとめますが、amazonは「モノ」を売り、楽天は「体験やつながり」を売っていると佐渡島さんは考察しています。
(詳しくは本書を読んでもらいたいのですが)日本酒を例に挙げると、amazonは日本酒そのものを売り、楽天(に出店している酒屋さん)は、日本酒を売ることを通じて「日本酒ホームパーティー」などの体験を提供しています。これは、楽天が「お客さまとコミュニケーションができる店舗づくり」を重視しているからできることです。
同じことが日本の商店街でも行われています。店頭での店主と常連さんのやり取りが、ここでいう「お客様とのコミュニケーション」であり、楽天を商店街と表現する理由です。
そしてこのコミュニティを通じて「モノより体験」を提供できるかどうかが、持続可能な経済圏を手に入れるために重要なテーマとなります。
本書評では、いくつか挙げられている具体例の中から、『宇宙兄弟』の登場人物である絵名の「惑星ヘアピン」の事例を見ていきます。
- 「絵名の惑星ヘアピン」販売ページ
※現在は在庫がなく販売停止中です。
5,400円のヘアピンが即完売する理由
コルク初のヒット商品である「惑星ヘアピン」は、ファンのアンケート結果を見て商品化したそうです。だから売れた理由はファンが欲しい「モノ」をつくったからだと佐渡島さんは考えていたそうです。しかし購入者の声を見ていくと、それは違うということに気づきました。
購入者たちはヘアピンという「モノ」を買ったのではなく、「気持ち」を買っていたのです。
お姉ちゃんこれ着けるとね 気持ちがちょっと 「ピシッ」ってなるんだ
これは作中で絵名がヘアピンをつけるシーンの一言です。購入者たちは口をそろえて「このヘアピンをつけるとき、自分も『ピシッ』と気合をいれる」と言ったそうです。男性はネクタイピンとして利用し、同じような体験を共有します。つまりヘアピンという「モノ」ではなく、大好きな作品の登場人物と同じ体験ができることに価値を感じているのです。
このことに気づいてから、佐渡島さんは『宇宙兄弟』をはじめとする作品の「世界観を体験できる」商品を企画するようになったそうです。その結果、商品はすぐに完売し、ファンは使っている様子やその時の気持ちをSNSで拡散するようになりました。
こうして購入者たちがより作品を好きになってくれるだけでなく、広告宣伝費なしで新たなファンが増えるという理想的なシステムが自然にできあがったのです。
誰もが作り手の時代の生き残り戦略
インターネットが普及した現在、すべての人に作り手になるチャンスが開かれています。
クックパッドがみんなを料理人に、Pixivがみんなを絵描きに、Instagramがみんなをカメラマンにしたように、誰もが作り手になる時代に僕らは生きていると佐渡島さんはいいます。
これは競争の激化を意味するものであり、選択肢は増え続け、価格は下がり続けます。ビジネスを継続するには厳しさは増す一方。佐渡島さんが所属していた出版業界もまさにそうだったはずです。
だからこそ、2012年に大手出版社である講談社の編集者という地位を手放してまで独立し、自らの信念をもって会社を立ち上げたのだと思います。
それから6年、各界から注目され、新しい価値を生み続けている佐渡島さんの一つの回答がこちらです。
今はファンコミュニティを作り、そこでECを行う。それがクリエイターの生きる道だ。(p.139)
しかしこれが絶対の答えではありません。佐渡島さんは続けて言います。
どのように経済圏を作り出すのか。今は、ECしか思いついていない。(中略)こうやって考え続けながら、僕らは、時代に合わせて、変化し続けていかなければいけないのだと思う。(p.140)
この姿勢こそが「持続可能な経済圏」を作り出す秘訣なのだと思いました。
ぜひあなたにも本書を手に取り、コミュニティについて学び、実際にコミュニティに参加して「体験」したことをシェアしてみてください。そしていつの日かコミュニティを運営する側になって、一緒に変化し続けていく仲間になってもらえたら最高です。