テレビ朝日の新春3夜連続ドラマとして、勝地涼さん主演で実写化されて話題沸騰中の『破天荒フェニックス』。以下の日程で放映されます。
- 2020年1月3日(金)よる11:15~「第1夜」
- 2020年1月4日(土)よる11:15~「第2夜」
- 2020年1月5日(日)よる11:10~「第3夜」
「破天荒」とは、「今までだれもしなかったことをすること」。
「フェニックス」とは、「死んでも蘇ることで永遠の時を生きると言われる伝説上の鳥」。
本のタイトルにもなっている「破天荒フェニックス」とは、著者の田中修治さんが周りからつけられたあだ名だそうです。
本書は、誰もが倒産すると言い切ったメガネチェーン店「オンデーズ」の買収を題材にしたビジネス小説です。あとがきには、「起こった事実をもとにしながらも、一つのフィクション、パラレルワールドの物語」と書かれています。
全492ページで、厚さをみると物怖じしそうですが、話し言葉が多く、物語に入りやすかったので、スイスイと読み進められました。
「オンデーズ」の再生は資金難から始まるので、資金繰りに奔走するシーンや銀行とのやり取りが多くでてきます。私は経理を20年間担当してきましたが、今まで銀行との交渉を担当したこともなく、身近に見る機会もありませんでした。そのため銀行とのリアルなやりとりの実態を知ることができて参考になりましたし、小説としても大いに楽しむことができました。
それでは、田中さんが起こす破天荒エピソードと、オンデーズの財務会計責任者である奥野良孝さんの言葉とともに、本書を紹介します。
「自殺行為」だと言われたオンデーズ買収
著者の田中修二さんは小さなデザイン企画の会社を経営し、その傍らで、全国に60店舗を展開する低価格メガネのチェーン「オンデーズ」の売却の仲介に関わっていました。しかし、売却先がなかなか見つからず、田中さん自らが買収しようと考え始めます。
オンデーズは年間の売上が20億円しかないのに、銀行からの借入金が14億、返済額は月に8千万円から1億円にものぼりました。毎月、営業赤字が2千万円近く出ており、2期連続で赤字を計上。銀行からの融資も受けられず、そのうち給与の支払いもままならなくなり、民事再生か売却かどちらかを選択せざるを得ない状況に陥ります。
オンデーズのデューデリジェンス(投資対象となる企業の資産評価をすること)を手伝っていた奥野良孝さんは、「20億の売上しかないのに14億の負債を抱えている」という状況を、「2tトラックの荷台に1.4tの砂利が乗っかているようなもの」と例え、「そんなトラック、重くてスピードは出ないし、運転も難しい。カーブだって曲がり切れない。いつひっくり返って大事故になったっておかしくない」と説明します。
奥野さんは、沢山の企業再生案件に関わってきた財務会計のプロ。物語の中で、その時々の財務状況を色々な事柄に例えて説明されているのですが、これがとてもわかりやすく、経理や財務の知識が少ない人でも理解しやすくなっています。
その奥野さんに自殺行為だと言われながらも、田中さんは「オンデーズ」を買収を決意します。
「目立ったもん勝ち」
田中さんが社長に就任した後も、資金繰りの厳しい状態は続きます。しかし、社長自らが全国の店舗の視察を行い、時には店舗に立つことで、スタッフのモチベーションが上がり、売上も少しずつ上がり始めるようになりました。
しかしまだ「決定的な知名度不足」を認識していた田中さんは、半額セールで話題性を作れば、知名度がなくてもお客様を呼べるのではないかと考え、「目立ったもん勝ち!」という改革スローガンとともに、「オープンセールは店内商品全品半額」を打ち出します。
奥野さんは、この時の財務状況を「以前は集中治療室で死にかけていたけど、ようやく最近は一般病棟に移り、普通の病院食を食べられる程度までには回復した。これからは、ただ安静にしているだけでなく、退院に向けてリハビリを始めて、体力回復につとめらければならない段階に入った」と説明しています。
反対意見が多かった会議でしたが、この奥野さんの説明で、幹部は一枚岩となります。
私もそうですが、経理や財務担当者はつい専門用語を出して説明してしまうもの。このように分かりやすい例えができれば、周りを説得しやすくなりますね。
この企画が見事に当たり、その後も全国各地で次々と新店舗がオープン。たくさんのお客様が押し寄せるようになるのです。
破天荒と基本的なこと
田中さんは、ただガムシャラに「倒れる時は前向きに!」とシンガポールへの出店も決め、まだまだ資金繰りが綱渡りの状態であったにもかかわらず「火事を消すなら爆弾を!」と台湾への出店も決定します。
そして、2018年7月末で、アイウェアブランド「OWNDAYS」は10か国250店舗で展開されるまでになりました。
田中さんがさまざまな挑戦をする時、周りからは「破天荒」だと言われますが、本書を読むと、現場の店舗運営やそこで働くスタッフにも細かく注意を払っていたことが伺えます。
オンディーズの買収を考えていた際には、会社の資金繰りは火の車だけど、生き生きと誇りを持って働いているスタッフがいること、また店内の掃除が行き届いていることなどに目を向けています。
また「全品半額」を提案した時には、「お客様が殺到するような状況に自分たちを追い込めば、全員が仕事の効率を追求せざるを得なくなる」と語っています。
チャンスを掴むためには、破天荒なことも必要でしょうが、基本的なことを大切にしていたからこそ、オンデーズの再生は成功したのだと思います。
「企業再生」と聞いて「難しそう」と感じるかもしれませんが、是非、若い方に読んで欲しい一冊です。