今やメディアで頻繁に目にするようになった「ライフハック」という言葉。これはジャーナリストのダニー・オブライエン氏が2004年に行った講演で生まれた言葉です。
「ライフハック」の「ハック」は、「ハッカー」や「ハッキング」という言葉とも関連しているので、悪い意味に受け取られることもあるようですが、もとはプログラマーが問題を鮮やかに解決する際に使われていたもの。
オブライエン氏は講演で、生産性の高いプログラマーは他のプログラマーに比べて何十倍も仕事が速いものの、彼らが何十倍も頭が良かったり、高い技能を持っていたりするわけではないと指摘します。むしろ、彼らは人に見せるのが恥ずかしいほど簡単なプログラムや習慣を繰り返し適用することで、日常に小さな近道を生み出し、いわば人生をハックしているのだ、と述べたのでした。
著者は「小さなことを繰り返すことで、大きな成果が得られる。これがライフハックの本質である」と説いています。
私は「ライフハック」という言葉に対して、あくまでもタスク管理のためのノウハウやツールのようなイメージを持っていました。しかし、そこから「大きな成果」を得られるということを知り、大きく見方が変わりました。
本書で一番興味を引かれたのは、「コミュニケーション&チーム」についてのライフハックです。
著者は、コミュニケーションをハックすることで、自分の力になってくれる味方を増やすことができ、チームの力を引き出しやすくなるといいます。
今回は、この「コミュニケーション」に関するライフハックについて紹介したいと思います。
他人の「NO」はこのように理解する
何かを頼んだ際に、相手から「いいえ」「それはできない」と拒絶された経験は誰もがあるでしょう。しかし著者は、それを「自分自身が拒絶された」と感じる必要はないといいます。
マーケティングに関する数々の著書を持つセス・ゴディン氏は、他人から拒絶されるときの理由として、以下のリストを挙げています。
- 私は忙しすぎて、今コミット(責任を持って関わることが)できない
- 私はまだあなたを十分に信頼しいていない
- この話は自分がやるべきこととは思えない
- この話を前に進めるのが怖い
- このことは、私に別の嫌なことを連想させてしまう
注目すべきは、「私はあなたのことが嫌いだから、この依頼は断る」という理由が含まれていないことです。
そういう気持ちで「いいえ」と言う人はめったにいない。だから、例えば急に冷たくしてきた人がいたとして、自分では理由がまったく思い当たらないような場合は、「何か伝わっていない情報があるな」と想定してコミュニケーションを取る、というハックが勧められています。
ちょうどこの項目を読んだとき、私の同僚に、ある人の頼み事を感情的に拒絶している人がいました。本書では、「嫌いという理由で断る人はめったにいない」ということですが、この同僚の場合はどうなんだろうと気になり、しばらく観察してみました。同僚の話を聞くと、その相手と一緒に仕事をするようになって一年が経ちますが、今まで何度も裏切られたことがあるようです。恐らく同僚は今、相手を十分に信頼していないのだと思います。
最初のうちは、少しのコミュニケーション不足で行き違いが起こっていただけかもしれませんが、その都度修復しなかった結果、お互いに信頼できなくなり、感情的に拒絶するようになってしまったのです。今の状態からお互いに信頼を取り戻すためには、どれぐらいの時間が必要になるのでしょう。
日々コミュニケーションをとりながら情報・認識の共有に努め、お互いの状況・立場を理解することの大切さを改めて痛感しました。
相対せずに横に並ぶとケンカにならない
とはいえ、いくら自分が相手を理解しようと努め、コミュニケーションをとろうとしても、相手によっては言い合いになってしまうこともあるでしょう。
このような場面で、相手の怒りを鎮め、敵対的な空気を和らげるためのハックとして、以下の4つが紹介されています。
- 表情を制御する。
- ゆっくりしゃべる。
- 体を相手に向けず、角度をつけるか、横に並ぶ。
- 可能なら第三者を呼ぶ。
「①表情を制御する」というのは、こちらが緊張したり、強張った顔をしていたりすると、相手も緊張を解けなくなるため、意識的に眉をあげ、目を大きくして意外そうな表情をすることで、敵対心を表さないようにする、というものです。
「②ゆっくりしゃべる」は、早口かつ大きな声でしゃべってしまうと、相手を威圧してしまうため、声のトーンを制御し、極度にゆっくりと話すことを心がけるというものです。
「③体を相手に向けず、角度をつけるか横に並ぶ」は、相対してしまうとそれだけで敵対的な姿勢となってしまうため、角度をつけるか、可能ならば「歩きながら話そうか」と横並びになって話すことで、この緊張した状態をほぐすというもの。横に並ぶと相談に乗っている姿勢になるので、口論を話し合いに変える効果もあるといいます。
「④可能なら第三者を呼ぶ」は、第三者を呼ぶことで、相対する敵対の関係が、三角形になって攻撃の方向性を散らすことができます。ただし、2対1で責めたり、責められたりする状況はむしろ避けないといけません。
ケンカというほどの状況でなくても、意見が行き違い、両者が納得しないまま険悪なムードになってしまうことは起こりうるでしょう。「第三者を呼ぶ」ことで、感情的な言い争いを避けるというハックは、仕事を進めていく上で有効な方法だと思います。
ライフハックは忘れてよい
今回はコミュニケーションのライフハックに注目してみました。
コミュニケーションに正解はありません。しかし「こういう考えを持っている人もいる」「相手はこういう状態かもしれない」という引き出しを持っていると、問題を解決しやすいことがわかりました。
本書では250個のライフハックが紹介されています。著者は、「すべてを実践する必要はなく、完璧にこなす必要もない。必要なときに必要なものを取り入れながら、意識せずとも実践できるところまできたら忘れてしまいましょう」と述べています。
私も本棚に置いて何かに迷ったときは手に取るようにしようと思います。