アンコンシャス・バイアスって何?「無意識の思い込み」が人を傷つけているかも

アンコンシャス・バイアスって何?「無意識の思い込み」が人を傷つけているかも




 あなたは、誰かに対して、「意外な一面を見た」と思った経験はありませんか? そして何の悪気もなく、そのことを相手に伝えていませんか?

 「へぇ〜料理できるんだね! 意外〜」「え、運動好きなんですか? 意外ですね」のように…。

 注意が必要なのは、多くの場合、その人に「意外な一面」があるわけではないということです。あなたが、その人に対して「そういう人だ」と思い込んでいたから、意外だと思っただけなのです。つまり偏見ですね。

 こうした言動によって、実はあなたは意図せず誰かを不快にしたり、傷つけたりしているかもしれません。「え、わたしってそういう風に見られてたの?」「なんであなたの勝手な思い込みでそんなこと言われなきゃいけないの?」のように

 今回ご紹介する『あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです』では、こうした「無意識の思い込み」「無意識の偏見」を意味する言葉、「アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)」をテーマにしたものです。

 「男性だから」「女性だから」「理系だから」「文系だから」「関西出身だから」「ひとりっこだから」「AB型だから」といったステレオタイプな決めつけをしてしまう人には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

 本書では特に、チームのリーダーに対して、アンコンシャス・バイアスの存在を知り、対策することの重要性を説いています。

 なぜならチームのリーダーは、メンバーに大きな影響力をもっているため、リーダーが自分の思い込みで解釈・行動してしまうと、チーム全体に大きな悪影響を与えてしまうからです。

 2001年GEの経営から引退したジャック・ウェルチ氏は、メディアからの「あなたはなぜ20世紀最高の経営者と言われるようになったのですか?」という質問に対して、たった一言、「自己認知力の高さだ」と答えたそうです。

 リーダーの自己認知力は、組織の力を左右するものであり、リーダーが「自分にも思い込みがある」と気づけるかどうかは、組織の発展や成果を生み出す上で、とても重要なことなのです。



アンコンシャス・バイアスとは?

 「アンコンシャス・バイアス」という言葉は、冒頭の例のような「偏見」の意味だけでなく、もっと広い意味があります。

 たとえば、「これまで成功し続けてきたわたしの判断は、常に正しい」といった成功体験によるものや、「わたしは以前こんな失敗をした。だから今回もダメなはずだ」といった失敗経験によるものなど、過去にとらわれた言動もアンコンシャス・バイアスの一つです。

 また、「少しくらいの遅れなら問題ないだろう」「この程度のミスなら報告しなくても大丈夫だろう」といった、慢心した考えをもってしまうのも、アンコンシャス・バイアスだといいます。

 これは、脳が「あれこれ考えることを避け、意識しなくても状況に対する判断を自動処理するようにできている」ことが大きく影響しているそうです。脳がラクをしようとしていて、無意識のうちに勝手な判断をしてしまうのです。

 日常の行動は、ほとんどが無意識によるものの連続であり、そのほとんどは、自分のことを優先しています。そのため結果として、相手にとっては不快な行動をとってしまうことがあるのです。

 大切なのは、相手にイヤな思いをさせてしまっているのは、自分の日常のなかにある無意識の行動が要因であるかもしれない、と知ることです。



アンコンシャス・バイアスの正体とは?

 アンコンシャス・バイアスを完全になくすことはできません。無意識なのでそもそも気がつきにくいというのもありますし、アンコンシャス・バイアスの正体は、脳による「自己防衛心」によるものだからです。

 自己防衛心とは「できるだけ自分が安全と思われるところにいたい」という、人が本能的に持つ心理です。これ自体は、決してネガティブなものではありませんが、本能的なものなので、完全に避けることはできません。自分を守ろうとした結果、知らず知らずのうちに、相手を不快にしたり、傷つけたりしてしまうことがあるのです。

 たとえばリーダーが責任を追求されそうになった瞬間、「それはわたしのせいではない」といってしまったり、メンバーのやり方が気に入らないと思った瞬間「そんなのはダメだ」と真っ向から否定して相手のモチベーションを下げたり、成長の機会を奪ってしまったり…。これらはすべて自己防衛心によるものだそうです。

 こうした経験は、誰もが一度はしているのではないでしょうか。冷静になれば「なぜ、あんなことをいってしまったのだろう」と思えることでも、無意識の世界では衝撃的に「つい」やってしまうことがあるのです。

 「自己防衛心」はメンバーにも連鎖するため、リーダーが自己防衛心を強め、組織の成果が上がらないことをメンバーのせいにしてしまうと、メンバーも自分を守るためにやたらと言い訳をするようになります。

 本書では、こういうときほど、「この問題が起きたのは、わたしの伝え方が悪かったからだね」とか「普段から、君のことを気にかけていなかったからだね」と、リーダーの方から自己防衛の言動をやめることを勧めています。

3つのアンコンシャス・バイアス

 では、どうすればアンコンシャス・バイアスを避けることができるのでしょうか。それは、アンコンシャス・バイアスのパターンを知っておくことです。

 そうすれば「これってアンコンシャス・バイアス?」と気づきやすくなります。以下3つのパターンを知っておきましょう。

①集団同調性バイアス

 集団の行動に同調してしまうバイアスです。「赤信号、みんなで渡れば、こわくない」「他の会社だって同じことをやっている」「先輩もやっている」「この業界はそういうものだ」という思い込みによって、その行動に追随し、やがて変化に鈍感になってしまいます。

 つい先日もニュースになった渋谷ハロウィンの問題などは、まさにこのバイアスに陥っているといえるでしょう。「みんなゴミを捨ててるから」「みんなマナーを守ってないから」と自分の行動を正当化し、その良し悪しについて正しく認識できなくなってしまうのです。

 組織的に無意識の思い込みをしてしまうようになると、とても危険です。これを避けるためには、メンバーや周囲からの反対意見や違和感を見逃さず、きちんと受け止めることが重要だといいます。

②正常性バイアス

 すぐに対応しなければならないような緊急事態に直面しても、自分にとって都合の悪い情報は目をつぶり、直面しているものごとを過小評価し、「このままで大丈夫だ」「まだ平気だ」と思いこんでしまうバイアスです。

 リーダーがこの状態に陥ると、組織はみるみるうちに沈んでいくため非常に危険です。

③エキスパートエラー

 エキスパート(専門家)や権威ある人の言葉にとらわれて、盲信してしまうバイアスです。「あの人がいってるのだから、間違いない」と、真偽のほどを確かめることなくうのみにしてしまいます。

 これはリーダーのみならず、メンバーも注意が必要なバイアスでしょう。「リーダーが言っていることは全て正しい」と思い込んでしまうと、リーダーは裸の王様と化してしまいます。

 「自分もこうしたバイアスにとらわれているかもしれない」と自覚しておくだけで、その影響を受けにくくなるそうなので、ぜひ覚えておきましょう。

誰もが無意識にとらわれている

 アンコンシャス・バイアスの存在を知り、気をつけようと心がけても、「つい自分の考えを押しつけてしまった」「つい自分の正当性を主張してしまった」といったケースを完璧に防ぐことはできません。

 しかし周囲の反応や態度を見ていれば、今の言動が相手に良い影響を与えているのか、ネガティブな影響を与えているのかは、わかるようになると著者はいいます。大切なのは、それに気がつき、意識できる範囲で、ちょっとでも変わろうとすることです。

 話しているうちに、相手の表情や感情の変化に気づいたら、「これって、わたしのアンコンシャス・バイアス?」と考え、「そんな表情にさせてしまって申し訳ない」「わたしの思いこみや、よかれと思って伝えた言葉がキミを傷つけたような気がするので、今の気持ちを教えてほしい」と素直に聞いてみることが勧められています。

 「無意識の思いこみ」に気づき、言動を変えるのは難しいものです。まずは何回かに1回で構わないので、「いまのは、ひょっとしてわたしのアンコンシャス・バイアス?」と振り返るようにしてみてはいかがでしょうか。






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サトエリ
「自分と他者の感覚の違いを見えるようにする」が活動テーマ。

発達障害のブログを書いています。

ブログ:「私がメディアになる」




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