山口周『武器になる哲学』ビジネスマンが哲学を学ぶべき4つの理由とは?

山口周『武器になる哲学』ビジネスマンが哲学を学ぶべき4つの理由とは?




 「ビジネスマンは教養を身につけろ」

 最近ウェブ記事やビジネス書で、こんな文言をよく目にするようになりました。そこで、教養の代表格である哲学の本を学んでみた結果、「何を言っているのかわからない…どう活用すればいいんだろう…」という思いをした方は、僕だけではないはずです。

 そこで今回は、世界最高峰のコンサルティングファームであるコーン・フェリー・ヘイグループでシニアパートナーを務める山口周さんが書いた『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』を読んでみました。本書では、実際のコンサルティング現場で著者が活用してきた50個の哲学・思想を紹介しています。

 山口さんは、ビジネスマンが哲学を学ぶ理由・活かし方として次の4つを挙げています。

  1. 状況を正確に洞察する
  2. 批判的思考のツボを学ぶ
  3. イノベーションの起点となるアジェンダ(=課題)を定める
  4. 二度と悲劇を起こさないため

 以下、これら4つの「理由」についてご紹介します。

①状況を正確に洞察する

 ビジネスパーソンが哲学を学ぶべき最大の理由は、「いま、目の前で何が起きているのか」を深く洞察するためのヒントを手に入れることができる点だといいます。

 たとえば哲学者ヘーゲルが提唱した「弁証法」は、「対立する考えをぶつけ合わせ、闘争させることで、アイデアを発展させる」という方法論です。

 ある主張=Aがあったとして、それに反対する、あるいは矛盾する主張=Bがあり、それが両者を否定することなく統合する新しい主張=Cに進化する。このように「相反する2つの命題を統合的に両立させるような新しいアイデアを追い求めていく」という知的態度は、現代を生きる私たちにとっても必要であると山口さんはいいます。

 なぜならイノベーターの多くは、一見両立しないような2つの命題を統合的に解消することで、イノベーションを成し遂げているとも言えるからです。

 ポイントとなるのは、弁証法においてモノゴトが発展するとき、それは直線的に発展するのではなく、「進化・発展」と「復古・復活」が同時に起きながら、螺旋的に発展するということ。この考え方を知っていると、たとえばいま世界で進行している教育革命について、より正確に洞察することができるようになるといいます。

 教育先進国のフィンランドでは、「年次別のカリキュラムをやめる」「教科別の授業をやめる」といった「新しい教育システム」の導入が進んでいます。しかしこれを「弁証法」の枠組みで理解すると、「まったく新しい教育システム」が出てきたのではなく、「古い教育システムが発展し、復活してきた」と理解することができます。

 なぜなら明治維新前の日本では、寺子屋という場所で、年齢もバラバラ、学ぶ教科もバラバラに教えるという、現代とは真逆の教育システムが導入されていたからです。寺子屋とフィンランドの教育を比較すると、最近の教育革命は、明治維新の教育にICTを導入することで起きた「古いシステムの発展的な回帰だ」と理解することができるのです。

 この教育システムの話を、「過去のシステムの発展的な回帰だ」として洞察できるかどうかは、弁証法というコンセプトを知っているかどうかによって大きく変わってきます。

 そして「いま、何が起きているのか、これから何が起きるのか」という問いは、ビジネスパーソンが向き合わなければならない問いの中でも最重要なものであり、その問いについて考察する際の、強力なツールやコンセプトの数々を与えてくれるのが哲学なのです。

②批判的思考のツボを学ぶ

 哲学の歴史というのは、「それまでに世の中で言われてきたことに対する批判的考察の歴史だと言うことができる」と山口さんは説きます。

 ある一つの問いに対して一人の哲学者が答えを出す。その答えが説得力を持つと思われれば、しばらくのあいだはその答えが世の中の「定番」として普及する。しかしそのうち現実が変化し、その回答では現実をうまく説明できていなかったり、現実にうまく対処できなかったりするようになり、新しい哲学者が批判とともに別の回答を提案するーー哲学の歴史は、このような「提案→批判→再提案」の流れの連続で出来上がっているわけです。

 この「批判思考」こそ、ビジネスパーソンにとって重要であるというのが山口さんの考えです。なぜなら、企業が生き延びるためには、「変化する現実に対して、現在の考え方や取り組みを批判的に見直して、自分たちの構えを変化させていく」ことが求められるからです。

 たとえば、デカルトが考えた命題「我思う、ゆえに我あり」は、「存在の確かなものはないが、すべての存在を疑う私の精神があることは疑えない」という意味であり、アウトプットだけを見れば至極当たり前のことを言っているように感じます。

 しかしデカルトが生きた時代は、宗教戦争の最中。プロテスタントとカトリックが「こっちの言い分こそが真理だ」と主張し、血で血を洗うような争いをしていたという時代背景があります。そうした時代において、当時の権威であったキリスト教やストア哲学に対して「確実なものなんてない」「この際だから、ぜんぶチャラにして、もう一度確実なところから始めてみようじゃないか」と喧嘩を売ったのがデカルトだったのです。

 山口さんは、「その時代において前提となっていた知的枠組みを一旦なくし、権威におもねることなく、厳密に確実性をチェックしながら思考を組み立てよう」とした、デカルトの知的態度や思考プロセスを賞賛しつつ、自分たちが、無意識に前提としている枠組みを一回チャラにして、自分のアタマで考えることの重要性を説いています。

③イノベーションの起点となるアジェンダ(=課題)を定める

 今日、多くの企業で経営課題とされる「イノベーション」が起きないのは、そもそも解きたい「課題=アジェンダ」がないからだと山口さんは指摘します。

 全てのイノベーションは、社会が抱えている「大きな課題」の解決によって実現されるものであり、「課題設置」のないところからイノベーションは生まれないからです。

 つまり「課題設定の能力」が何より重要で、その鍵となるのが哲学をはじめとした「教養」を身につけることだというわけです。

 その理由について、山口さんは以下のように述べています。

 なぜかというと、目の前の慣れ親しんだ現実から「課題」を汲み取るためには、「常識を相対化」することが不可欠だからです。(中略)つまり地理的な空間、あるいは歴史的な空間の広がりを持った人であればあるほど、目の前の状況を相対化して見ることができるようになる、ということです。(P.15)

 イノベーションというのは、常に「これまで当たり前だったことが当たり前でなくなる」という側面を含んでいます。これまで当たり前だったこと、つまり常識が疑われることで初めてイノベーションは生み出されます。

 一方で、全ての「当たり前」を疑っていたら日常生活は成り立ちません。重要なのは、「見送っていい常識」と「疑うべき常識」を見極める選球眼を持つということであり、これを与えてくれるのが、空間軸・時間軸での知識の広がり=教養だということです。

 自分の持っている知識と目の前の現実とを比べてみて、普遍性がより低い常識、つまり「いま、ここだけで通用している常識」を浮き上がらせる、そうすることで疑うべき常識を見極め、イノベーションの起点となる「課題設定力」が磨かれていくと山口さんは説きます。

④二度と悲劇を起こさないために

 過去の悲劇に対し、哲学者たちは同じ悲劇を繰り返さないために、どのように私たちの愚かさを克服するべきかを考え、原理・仕組みを解明することに挑戦してきました。

 過去の哲学者がどのような問いに向き合い、どのように考えたかを知ることは、私たち自身が、当時の人間と同じような愚かな過ちを再び繰り返すことのないよう、過去の教訓から学ばせてもらおうという側面があります。

 そして山口さんは、「一般的な実務に携わっているビジネスパーソンこそ、過去の哲学者が指摘したことについて耳を傾ける意味合いがある」と説きます。

 なぜなら、実際に世界を動かすのは教室の中にいる哲学者たちではなく、実務に携わって日々の生業に精を出している「普通の人々」だからです。

 そのような人々によってこそ、巨大な悪がなされているのだとすれば、過去の哲学者たちが書き残してきたテキストを、私たちのような「普通の人」が学ぶことには、大きな意味があるというのが山口さんの主張です。

 ユダヤ人哲学者のハンナ・アーレントは、ユダヤ人虐殺の裁判模様をまとめた本の中で、「悪とは、システムを無批判に受け入れることである」と述べています。そしてこの「システムを無批判に受け入れるという悪」は、我々の誰もが犯すことになってもおかしくない、と警鐘を鳴らしています。

 つまり、悪事というものは、それを実行する主体によって能動的に行われるものではなく、システムの中で意図することなく受動的になされるものであり、そこに「悪」の本質がある、と指摘しているわけです。

 誰もがただシステムに乗っかるだけで思考停止してしまう可能性があるからこそ、「システムを批判的に思考する」ことを止めてはいけない、と教えてくれます。

人生を生き抜くための哲学を学ぼう!

 本書を書くとき、著者の山口さんは、目次に時間軸を用いず、山口さんにとって使えるか、使えないかといった軸で編集されたそうです。

 そのため、本人がどのように哲学を利用しているかの具体例が豊富で、実際に利用するイメージがつきます。

 哲学をある程度理解している人もいない人も、それだけで一読の価値がある一冊となっています。

執筆者プロフィール

オノデラ
「美女読書 編集室」第1期メンバー
テックメディアでインターン中/22/
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