落合陽一「超AI時代」の働き方〜「ワークアズライフ」を見つけたものが生き残る

落合陽一「超AI時代」の働き方〜「ワークアズライフ」を見つけたものが生き残る




 研究者、大学教員、メディアアーティスト、実業家など数多くの肩書を持ち、各界で注目を集めている落合陽一さん。今回は、そんな彼の著書『超AI時代の生存戦略ーーシンギュラリティに備える34のリスト』を紹介します。

 タイトルにある「シンギュラリティ」という言葉をご存知でしょうか? 「シンギュラリティ」とは「技術的特異点」のことで、要するに人工知能が人間の知性を超えることによって、両者の能力が逆転することを指します。

 これは人工知能の権威であるレイ・カーツワイル博士によって提唱された概念で、少なくとも2045年までには到達すると言われています。

 落合さんは、21世紀になってからの15年間は「楽観的なシンギュラリティ」の期間であったと言います。この数十年間、私たちは世間をにぎわす技術発展のニュースに関して、「個々の技術的進歩に限定すれば」比較的、好意的だったといえるからです。

 たとえば、回転寿司チェーンの入り口にあるロボットが、来店顧客をスタッフに代わって受け付けし、空いた席に案内してくれたり、Amazonでワンクリックするだけでお急ぎ便が届いたり、iTunesでは手のひら上で音楽が購入できたりするようになったり。技術的な民主化によって、これまでできなかったことや持てなかったものが、専門的な修練や知的技術がなくても、誰でも簡単に手に入れられるようになったのです。

 しかし、ふと立ち止まって考えてみると、「次は自分の番なのではないか?」という不安が生まれてきます。つまりこれまで自分が「特権的に得てきた何か」も、「民主化」され、コモディティ化してしまうのではないか? という不安です。

 メディアの多くは人工知能(AI)の恐怖や不安を煽るばかりで、最終的には「人は人間にしかできない、クリエイティブなことをして過ごせばいい」という曖昧な言葉でまとめがちです。

 落合さんは、こうした論調は思考停止に過ぎず、クリエイティブや人間らしさというあやふやな言葉でごまかすことで、行動の指針をぼやかしているだけだと指摘します。

 この論調で語る人は、要するに「何をしたらいいかわからない」、ということであって、これは多くの企業担当者も同様の発言をしやすい。(P.25)

 本書では、こうした漠然とした論調について落合さんが一つ一つ丁寧に思考し、その思考過程を、超AI時代の「生き方」「働き方」「生活習慣」という3つの章に分けて、34のキーワードをもとに解説してくれています。

 シンギュラリティに備えて、「これからやるべきこと」を知りたい人にとっては最適な一冊といえるでしょう。 

 今回は、第1章に登場する、「ワーク “アズ” ライフ」の考え方についてご紹介します。



「ワークライフバランス」の崩壊

 「ワーク “アズ” ライフ」を考える前に、まず、「ワークライフバランス」の意味を確認しましょう。

 「ワークライフバランス」とは、簡単に言うと1日を「睡眠」「生活」「仕事」という3つの要素に分けて、きっちりと時間で区切るという考え方です。

 なぜきっちり分けるかというと、「仕事(=労働)」の時間を、ある種の「苦役(ストレス)」のようなイメージで捉えている前提があるからです。「苦役(ストレス)」→「辛い」→「だからライフと分けなければいけない」という考え方です。

 しかし現在は、インターネット化や通信インフラの整備によって、いつでもどこでも情報と繋がることができ、常に仕事とプライベートが混在している状況となっています。

 そのためワークとライフを切り分けて考える「ワークライフバランス」という言葉は、実生活と矛盾していると落合さんは指摘します。

 考えてみると確かにそうです。ワークとライフを時間で区切り、そのバランスがうまくいけば幸せであるというほど、私たちの生活は単純ではありません。

 そしてこれから先、特にシンギュラリティ以降は、現在「苦役」と考えられているような画一的な作業の多くは機械が行うようになり、人間はそれ以外の領域で価値を生み出さなければならなくなります。

 単純作業や肉体労働であれば、時間あたりの仕事量で生産価値を管理することが可能です。しかしそれらが機械に代替されるようになれば、残るのは頭脳労働の領域であり、これは単純に時間単位で生産性を区切って価値を測ることが困難です。

 たとえば頭脳労働の代表である作家などの職業は、労働とそれ以外を完全に時間で区切ることは難しいでしょう。



「ワーク “アズ” ライフ」とは?

 こうした時代においては、「働く時間」と「休む時間」という捉え方よりも、「ストレスのかかること、かからないこと」のバランスをコントロールすることの方が大切だと落合さんは言います。「ワークとライフ」の対比ではなく、「報酬とストレス」を基軸とした考え方にアップデートするべきだということです。

 この考え方においては、たとえば「ストレスのかかる私生活」の方が、「会社でストレスレスの長時間労働をする」よりも問題であったりします。

 つまりライフ全体を通して、いかにストレスレスに動ける環境を整えるかが重要で、その答えが「ライフとしてのワーク=(ワーク “アズ” ライフ)」を見つけることなのです。

 そのためには、「ブルーオーシャン戦略」や「趣味性」「遊び」など、本書に登場するキーワードをもとに、超AI時代の労働として新しい考え方を学び、現在のような「雇用され、労働し、対価をもらう」というスタイルから、「好きなことで価値を生み出す」というスタイルに転換することが求められます。

 落合さんは「差別化した人生価値を仕事と仕事以外の両方で生み出し続ける方法を見つけられたものが生き残る時代だ」と述べています。

シンギュラリティに備えて読むべき一冊

 今回は、第1章から「ワーク “アズ” ライフ」の考え方について紹介させていただきました。本書にはこれ以外にも、私たちがシンギュラリティ以降の未来を考えるために重要なキーワードが34も紹介されています。

 シンギュラリティ以降の世界と、そこに向けて今何をするべきかについて興味のある方は、ぜひ手に取ってみてください。






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