マーケティングとは何か。マーケティングはいかなる変遷を遂げ、どのように進化をしたのか。日本企業はマーケティングをどこまで、活用できているのか。
今回ご紹介する『コトラー マーケティングの未来と日本』は、「近代マーケティング」の父と言われる著者コトラーが日本人に向けて書いた一冊です。
「マーケティング1.0」から最新理論「マーケティング4.0」までの変遷や資本主義の未来、日本の価値を最大化する戦略まで語りつくされています。
この記事では、本書の大きなテーマであるマーケティングの定義の移り変わりと、マーケティングと資本主義の関係性について紹介します。
マーケティングとは?
「マーケティング」と聞くと、多くの人がテレビのCM、雑誌や新聞の広告などの「宣伝」をイメージするのではないでしょうか。しかしコトラーは、マーケティングをもっと幅広く考えています。
なぜならマーケティングの定義とは、時代の変化とともに変化していくものだからです。現在の世界は、マーケティング1.0、マーケティング2.0、マーケティング3.0を経て、マーケティング4.0へと向かっているといいます。
それまでの変遷について簡単にご紹介します。
マーケティング1.0
マーケティング1.0とは「製品中心」に行われるマーケティングのことです。テクノロジーから生まれる「製品」を、潜在的な購買者に売るための戦略をいいます。
たとえば自動車を作り、販売をしようとするときに、最初に行うマーケティングのことです。自動車という製品を作り、それを買いたいと思う消費者に売れるようにする。そのためには、可能な限り生産コストを安くすることや、より多くの購買者に手に取ってもらうことが戦術的な指針でした。
宣伝に宣伝を重ねたら、あとは誰かが購入してくれるのを祈るだけのマーケティングです。
マーケティング2.0
マーケティング2.0は「顧客志向」のマーケティングです。これは経済の強い影響を受けて生まれた考え方です。
1970年代からオイルショックの影響で、国家の成長が急激に鈍化しました。不況でありながら物価が上がり続け、スタグフレーションの結果、需要が足りなくなりました。
そうした状況下で、新しい製品を生み出しても、その製品が消費者に簡単に届くということがなくなりました。なぜなら製品が消費者にとって「コモディティ」(普及が進み、差別化が困難になった製品)になっていたからです。
製品は消費者の中で、特別なポジションを獲得できていませんでした。そこで、需要を刺激するため、製品を差別化をする戦略を目指すようになります。
- 市場の細分化
- ターゲットの選定
- 差別化イメージを植え付ける
活動が起点となりました。
たとえば生命保険会社であれば、
- 高齢者、高所得者層、高リスク層などの顧客層を分け
- ある保険会社は、他社に断られていた高リスク層に特化させて
- 専門家を進めることで商品が会社が独自になっていく
という流れをたどります。
マーケティング3.0
マーケティング3.0とは「価値主導」のマーケティングです。テクノロジーの発展によって、顧客はさらなる情報を手にするようになりました。
マーケティング3.0において、人々はただの消費者ではなく、この世界をより望ましいものにしたいという強い意志を持ち、混乱に満ちた世の中への解決策を提示できる企業を探しています。
そららの企業が提供するサービスに対して、精神的な充足まで求めています。
たとえば保険会社では、自らの顧客が長生きすることを手伝う方法を考え始めました。健康に良いものをどう食べるか、事故を防ぐ方法は何かなど、長寿につながる情報を顧客に提供することになった結果、顧客はその保険会社に価値を感じるようになります。
企業と顧客が継続的に取引をすれば、顧客が企業にもたらす価値は増大していきます。
マーケティング4.0
最新のマーケティング4.0とは、デジタル革命時代のマーケティングアプローチです。
テクノロジーの進化はマーケティング2.0、マーケティング3.0をもたらしました。そこから「オンラインとオフラインが出会った」ことがマーケティング4.0です。
たとえば、ある消費者が新車を買いたいと3つのブランドで迷った場合、フェイスブックの友達で実際にその車に乗ったことがある人に、評価を聞くことができます。さらに、専門家の評価を知りたければ、会社サイトなどにアクセスし、客観的な評価も得られます。
そうした状況のなかでは、いかなる企業も、価格相当の品質を提供することが必要となります。
デジタル革命によって、企業側・消費者側がSNSなどでミクロな情報を取得できるようになったため、その顧客の情報をモニタリングしたり、リアルタイムで自動的にコミュニケーションをとったりする方向性にシフトすることになりました。
マーケティングと資本主義
本書はマーケティングの本でありながら、資本主義との関係についても深く語られています。
なぜ資本主義について語られているのか。それは、市場に強く影響を及ぼすものこそがマーケティングであり、マーケテイングは資本主義社会の根底になる概念だからです。
本書では資本主義の次のような問題点を指摘し、説明しています。
- 貧富の格差
- 環境及び天然資源の搾取
- GDPの成長(数値)だけの重視
- 長期的な計画より、短期的な利益計画を誘発する
- 景気循環を生み出し、経済を不安定にする
資本主義に問題があるからといって、資本主義を否定する本ではありません。
その中で、資本主義の問題点を改善する「コンシャス・キャピタリズム」という運動について言及しています。
「コンシャス・キャピタリズム」とは、
- 企業は利益追求だけではなく、崇高な目的を持たなければならない。
- 企業はステークホルダーの視点を有すべきであり、シェアホルダーのことだけを考えてはいけない。
- 企業には意識の高いリーダーシップがなければならない。
- 企業には意識の高い企業文化が不可欠である。
そしてアメリカと日本で、このコンシャス・キャピタリズムにどのような違いがあるか、日本はどのように成長していけばよいのか指摘されています。
まとめ
日本が成長していくために、著者はマーケテイングこそが復活のカギと主張しています。
顧客と密接につながり、顧客の秘めた願望や不満を察知する。そこから、まだ満たされていないニーズや機会を生み出すことが必要です。
マーケテイング1.0のように、良い製品を作れば、売れる時代ではなくなりました。
顧客の関心を惹きつけなければなりません。
社会の変化に合わせて変遷するマーケテイング、マーケテイングが日本社会に与える影響、マーケテイングという視点を通して、日本社会について学べる1冊です。