朝倉祐介『ファイナンス思考』企業の将来価値を重視する経営戦略とは?

朝倉祐介『ファイナンス思考』企業の将来価値を重視する経営戦略とは?



 こんにちは。山本淳太です。今回は、朝倉祐介さんの著書『ファイナンス思考』を紹介します。

 あなたはこれまで、将来のことよりも目先の利益を優先して行動した結果、失敗して後悔した経験はないでしょうか?

 たとえば食べ放題のとき、もとを取りたいがために無理をして苦しくなるまで食べた結果、翌日体調を崩してせっかくの休日を楽しめなくなってしまったり、病院に行って余計な費用がかかってしまったり…。

 このような「短期的思考」によって、将来の利益を失うような行動をとってしまう考え方を、本書では「PL脳」と呼んでいます。これは「損益計算書(Profit and Loss statement)」の「PL」に由来しています。

 PLの売上や利益に着目すれば、誰でも直感的に会社の業績を判断することができます。しかしPLの数字は一定期間の結果でしかないため、これにばかり注目してしまうと、「短期的思考」に陥りやすく、さまざまな弊害を生んでしまうのです。

 実は日本企業でも、目先の売上や利益を最大化しようとする短期的思考に陥り、この「PL脳」に蝕まれているケースが多いのだそうです。

 高度経済成長期のように、会社を取り巻く環境が変わらない状況では、短期的な業績を連続的に伸ばしていくことが勝ちパターンではありました。しかし急激なスピードで市場が変化する現代においては、このような短期的思考では立ち行かなくなっています。

 では、現代のような不確実な時代に、企業はどのような思考をするべきなのでしょうか。それが、本書の主題となっている「ファイナンス思考」です。

ファイナンス思考とは何か?

 ファイナンス思考とは、「会社の企業価値を最大化するために、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方」と定義されています。

 「長期的な」というのがポイントですね。要するに、目先の「PL数値」の向上を目指すのではなく、企業の「将来価値」を高めるための経営戦略を組み立てるのが「ファイナンス思考」ということです。

 ファイナンスや経営戦略の話と聞くと、「一般社員の自分には関係ない」と思う方もいるかもしれません。しかし決して関係ない話ではないのです。

 朝倉さんは、「ファイナンス思考」は会社のあらゆる活動に紐づいているため、財務部門の担当者だけでなく、すべてのビジネスパーソンが身につけておくべき考え方であると言います。また「ファイナンス思考」こそが日本企業が活力を取り戻し、大きく羽ばたくうえで必須である、とも述べています。

 それだけ重要性を強調される「ファイナンス思考」とは、具体的にどんな考え方なのでしょうか。

ファイナンス思考の特徴

 本書では、「評価軸」「時間軸」「経営アプローチ」という3つの観点から、PL脳の考え方と比較しつつ、ファイナンス思考の特徴を解説しています。

①評価軸

 ファイナンス思考では、会社の施策について「その施策が将来にわたって生み出すキャッシュフローの最大化に貢献するのか」という観点から評価します。

 つまり売上高や営業利益、純利益といったPL上の数値ではなく、会社の本質的な価値をあげる施策かとうかを評価の軸とするのです。企業価値を上げることができれば、必然的にPL上の業績数値もよりよくなっていきます。

 会計の知識や財務諸表の基礎知識は、会社の状況を客観的に把握するためにもちろん重要なものですが、「PLのみに頼っていては、正しい経営の意思決定はできない」と朝倉さんは指摘します。

②時間軸

 PLは「四半期」や「年度」といった区切られた一定期間における収益を示す財務諸表です。そのためPL脳で考えると、「定められた短い期間における業績数値の最大化」を目指すことになります。

 しかしこうした会計期間は、会社が永続的に事業を運営するという観点から見れば極めて短い時間感覚ですし、会計基準によってあらかじめ定められたものなので、自分で設定したものではありません。つまりPL脳の時間軸は「短期」であり、「他律的」なのです。

 一方、ファイナンス思考では、事業の内容に応じて最適な時間の長さを「自発的」に設定します。事業にはその事業特有の時間感覚があり、早いタイミングで資金を回収できる事業もあれば、収益化に至るまでの間、長期にわたって先行投資を必要とする事業もあるからです。

 目先の業績数値を最大化することばかりにとらわれてしまうと、未来に向けた大きな勝負をしかけることができず、結果として、会社の長期成長を鈍らせることになります。

 ファイナンス思考では、会社が永続的な事業運営をめざすことを前提として、「将来にわたるキャッシュフローの最大化」を目的としているため、その時間軸が「長期的」かつ「自発的」であり、また「未来志向」でもあるのです。

③経営アプローチ

 ファイナンス思考とPL脳では、経営に対するアプローチが異なります。

 PL脳では、あらかじめ定められた短い期間におけるPL数値の向上を目指すため、たとえば長期的な成長に向けた大型の投資は、直近のPLの数値を悪化させる場合があるとして、敬遠されかねません。

 しかしそれでは将来のキャッシュフロー創出の可能性を潰すことになり、会社の寿命を縮めることになります。

 また会社のPL数値をあげる方法は、事業の本質的な価値向上のみとは限らず、会計制度の仕組みを利用することでよく見せることもできてしまいます。たとえば見かけ上の利益を絞り出すために、研究開発費を削減したり、費用の計上を先延ばしにしたりといった方法です。これは事業の価値向上とは全く関係のない取り組みです。

 ファイナンス思考では、売り上げや利益といった目に見えるわかりやすい指標の最大化を目的とはしません。「企業価値の最大化」という抽象的な目的を、より具体性のある目標に噛み砕き、何を成し遂げるべきかを自ら定義していくのです。

 また「企業価値の最大化」という目的を達成するために、逆算して中間目標を定め、達成に必要な期間を自ら設定します。ファイナンス思考では、より主体的、積極的な態度が求められるのです。

ファイナンス思考を実践している会社

 最後に、ファイナンス思考を活かした経営の具体例として、アマゾンの戦略を紹介します。

アマゾン:赤字、無配続きでも積極投資を可能にしたIR

 アマゾンは顧客満足を実現するために、長期目線の経営を徹底している企業です。19995年に設立されたアマゾンは、長らくPL上の利益を出さず、巨額の先行投資を続けてきたことで知られています。

 にもかかわらず、同社が資本市場から高く評価され、2018年2月時点で約7,000億ドルもの高い時価総額を誇っている背景には、投資家をはじめとしたステークホルダーに対するコミュニケーション力が重要な機能を果たしています。

 創業者のジェフ・ベゾス氏が1997年に株主に宛てたレターでは、以下のような基本思想が宣言されています。

 本質的な成功の度合いは、長期的に我々が生み出す株主価値で測られるべきであると、我々は考える。株主価値の向上は、会社を拡大して、市場リーダーとしての立場を強化した結果として得られるものである。市場リーダーとしての立場が強くなるほど、我々の経済モデルはより強固になる。市場でのリーダーシップが売上、利益の増加、資本の循環速度の向上につながり、結果として投資に対するリターンも大きくなる。

 「顧客への価値提供と株主価値の向上は、長期的に見ると一致する」というのが、同社の根底にある考えなのです。これこそまさに、「ファイナンス思考」の定義そのものでしょう。

 自社株買いや配当といった株主への還元を抑え、市場リーダーになるために果敢に投資していること、そしてその戦略を投資家へきちんと説明して信任を獲得していることが、今のアマゾンの成功につながっているのですね。

 ファイナンス思考は、先行きの見えない未来を切り拓き、企業が持続的な成長を遂げるために、とても重要な考え方であるとわかりました。

執筆者プロフィール

ジュン
21歳学生です。
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