こんにちは、瀬田かおる(@setata03)です。
今回ご紹介する本は、『寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」』です。
本書は、創業1927年の老舗文具メーカー・キングジムの広報担当である一人の女性が、社長の鶴の一声でツイッター公式アカウント(@kingjim)を立ち上げ、人気アカウントに育て上げるまでの軌跡が当時のエピソードとともに記された一冊です。
2010年2月、ツイッター用語すら知らない完全初心者の状態から運営を始めた同社のアカウントは、約10年でフォロワー数36万人を達成! 2021年1月現在は40.8万人にまでその数を伸ばしています。
フォロワーを楽しませる投稿やリプライでの丁寧なコミュニケーションを続けるうちに、「キングジム姉さん」と呼ばれるようになり、一つの人格を得るまでの人気アカウントになっています。
本書は「フォロワーを増やすコツ」や「バズる方法」といったツイッター運営のハウツー本ではありませんが、「キングジム姉さん」の投稿内容やその背景にある考え方を知ることで、フォロワーとのコミュニケーションや信頼関係の築き方を学ぶことができます。
またSNS上のコミュニケーションではあるものの、生身の人と人とが信頼関係を築く上でも参考になると感じました。
この記事では、「キングジム姉さん」がたった一人のツイッター広報として、どのようにフォロワーとの信頼関係を築き、現在のような人気アカウントになったのかについてご紹介します。
ツイッター投稿の2つの軸
①役に立つ情報発信
まず「キングジム姉さん」は、ツイッターで何を発信すべきかを考え、2つの軸を打ち立てました。その一つが、「役に立つ情報発信」です。
キングジムの広報として自社製品の紹介をするだけではなく、訪れてくれたフォロワーの方たちに有益な情報を提供し、楽しんでもらうことを目指しました。
楽しんでもらえれば、会社や商品への好感や親近感が生まれ、ゆくゆくはキングジムの商品を買ってくれることにつながるかもしれません。
「この1ツイートで、この商品を100台売ろう」といったことを考えるのではなく、「投稿を楽しんでもらいながら、結果的にキングジムのことや、商品をふと思い出す瞬間が増えていったらいいな」という方針で、ツイートをすることにしたのです。
そのうちの一つが、今日のおやつを投稿する「おやつイート」です。
フォロワーさんに教えてもらった、求肥(ぎゅうひ)の和菓子。上品な白あんとゆずの香りに癒やされて最&高。おいしい情報ありがとうございました。 pic.twitter.com/J6Bzp7i5vj
— キングジム (@kingjim) December 24, 2019
きょうのおやつは、めでたい日なので鯛焼です。 pic.twitter.com/GWyLeL3EwO
— キングジム (@kingjim) December 10, 2013
「キングジムとおやつ? 何の関係があるの?」と思うかもしれませんが、フォロワーからは好意的な反応ばかりだったようです。
食べものは誰の生活にも必ずあるため、おやつを入り口にすると身近で感情移入しやすく、安心の源になります。フォロワーの「日常に寄り添う」ことで、「おやつイート」は役に立つ情報となり、多くの人から喜ばれたのです。
また「キングジム姉さん」は次のような「伝える工夫」もしました。
- 漢字をひらがなに直して親しみやすさを出す。
- 専門用語を使わない。
- 文面に遊びを残す。
- フォロワーが、いつ、どの情報を必要としてるのかを考えて投稿する。
商品の紹介をする場合でも、「いかにも企業」な堅苦しさが出ないように、なるべく普段使っている会話に近い言葉を選ぶようにしていたと言います。
フォロワーの気持ちに寄り添った細やかな気遣いや配慮が、信頼感や安心感を与え、たくさんのファンを得ることにつながったのでしょう。
②楽しめること
「キングジム姉さん」は、運営を任された当初、「息をするかのように毎日発信すること」を自分への決め事としました。
しかし広報担当とはいえ、ツイッターだけに時間を使えるわけではなく、他の仕事をしながら毎日投稿する必要がありました。
そうなれば、楽しみながらでないと続けることは難しい。そこで「楽しんでツイッターをする」ことを二つ目の軸としたのです。
幸い社長からは「何を投稿しても良いからね」というお言葉をいただいていたため、自分の失敗談や今日のおやつのように、ちょっとした息抜きに楽しんでもらえるような投稿をすることにしました。
もしこれが、キングジムの製品ばかりを投稿するようなツイッターだったら、フォロワーは企業の「商品を売りたい」という下心を敏感に察知し、信頼や安心を得ることはなかったでしょう。
目的はあくまで「会社を好きになってもらい、ファンになってもらう」こと。売上を伸ばすためにツイッターをやっているわけではないからこそ、
- 「つぶやいたほうがいいこと」
- 「つぶやいてもいいこと」
- 「つぶやく必要のないこと」
- 「つぶやかないほうがいいこと」
の判別は重要です。
自分が楽しむことはもちろん、フォロワーの気持ちを考えて、みんなにとって「必要なこと」と「楽しめること」の2つに絞り込んで発信してきたからこそ、信頼関係を築くことができたのです。
「自粛ムード」の時に知った「キングジム姉さん」の存在意義
東日本大震災の時には全国に自粛ムードが広がり、「キングジム姉さん」もいつもと同じように発信を続けてもいいのか迷ったそうです。
しかしフォロワーの方たちにアンケートを取ると、被災地に住む方からは「自粛されるほうがつらい」という声が上がりました。そこで宣伝やPRの投稿は控え、日常対話の投稿を続けることにしました。
その結果、キングジム姉さんのツイートを見るのが楽しみだったと喜んでもらえたのです。
顔が見えない相手だからこそ、相手の気持ちを想像し、「心を寄せ合う」ことがいかに大切かを教えてくれます。
ネットもリアルもコミュニケーションの基本は同じ
私もツイッター(@setata03)で発信していますが、10数名だったフォロワーさんがたったの2週間で2倍となり、今では1800人を超える方々とご縁をいただくことができています。
その秘訣は、毎日フォロワーの方たちに役に立つ情報を発信するなかで私のことを知ってもらいつつ、コメントをくれた人にはできるだけその日のうちに返信するなど、相手の気持ちを考えたコミュニケーションをとってきたことです。
大切なのは「相手のことを想う気持ち」であり、それはSNSでもリアルでも大切なことなんだと思います。
本書では他にも、広報としてツイッター運営をやるにあたっての社内の人間からの風当たりへの対処方法や、投稿記事に対してのクレームにどう対応したかについても書かれています。
人とのつながりに悩んでいる人や、やりたくない仕事を任されくじけそうになっている人は、元気をもらえる1冊なのでぜひ読んでみてください。