こんにちは。普段は、人工知能メディアでインターンをしているオノデラです。
取材や記事執筆をしている中で、研究者や開発者、海外のサービス例など、人工知能業界のさまざまな話を聞き、分野としての盛り上がりを感じてきました。
ただ、
- AIが発展した先に何が起きるのか?
- もしかして「AIに仕事を奪われた失業者があふれるディストピア」になるのか?
- それとも「人間の代わりに、AIが仕事をしてくれて、人間は自分のやりたいことをやるユートピア」になるのか?
などについては、仮説があるものの結論はまだ見えていません。
そうした中、NewsPicks Bookの新刊『AIとBIはいかに人間を変えるのか』を読んでみました。AIとは人工知能のこと、BIとはベーシック・インカムのことです。
著者の波頭亮さんは、日本における戦略コンサルティングの第一人者として活躍しながら、日本構想フォーラムの幹事もやられている方です。
本書は以下の3つの章で構成されています。
- Ⅰ章 AI……人工知能とは
- Ⅱ章 ベーシック・インカム(BI)の仕組みと効力
- Ⅲ章 AI+BIの社会で人間はどう生きるのか
この記事では、Ⅲ章を中心に紹介していきます!(ⅠとⅡで扱われている、AIやBIの基礎知識に関しては、以下の記事を参考にしてください)
●AIができること、得意なことについて
●BIの基礎知識について
なぜ、AIとBIが一緒に語られるのか
Ⅲ章では、AIとBIを組み合わせて導入することの必要性が語られています。
AIの技術が向上し続けると、現在人間が行なう知的労働のほとんどがAIによって代替される可能性があります。オックスフォード大学からは、これからなくなる仕事が発表され話題を呼びました。(参照:THE FUTURE OF EMPLOYMENT)
オックスフォードの論文で紹介されているような、「労働者が機械により代替された未来」が実現すると、2つの問題が起こると波頭さんは警告します。
①資本家による完全支配状態
仮に現状の労働者が機械によって代替された場合、経済は労働者を必要とせず、資本家だけが残ります。そうなると、経済学で言われている、労働や市場の「需要と供給の関係」が崩れ、資本家にとって有利な状況が生まれます。
結果、資本家は消費者(=労働者)に対して商品の価格や賃金を自由に決めることができるように…。まさに「AIを所有する資本家が社会を支配するディストピア」が完成するでしょう。
②消費の減退による経済崩壊
①の結果、世界の大多数を占める労働者が職を失うので、社会全体の消費は減少します。資本家はお金をもっていますが、資本家だけで消費できるサービスにも限界があるので、消費は衰退し、経済崩壊を迎えることになります…。
本書ではこれら2つの問題について、以下のような図で解説されています。
AI発展前
AI発展後
これら2つの問題を回避するために、AIの発展に合わせて、BI(ベーシック・インカム)を導入すべきというのが波頭さんの主張です。
人工知能の発展によって職を失う労働者も含め、すべての国民にお金を分配するBI。これを導入することで資本家の暴走を回避し、経済を維持することが可能になるといいます。
AIとBIは世界をどう変えるのか?
人間の様々な仕事を代替する汎用型AIが開発されるのは、30年から50年先とされています。それまでは、言語翻訳や囲碁AIのように一分野に特化したAIが開発されます。
では、AIが発展し、政府によってBI導入されると何が起きるのでしょうか。
①圧倒的生産性の実現
イギリスで産業革命が起きたとき、それまでの肉体労働は蒸気機関に取って代わられました。それと同じことが、人工知能の発展によって起こります。
ただし、波頭さんは「AIによる労働の代替は、産業革命以上のインパクト」をもつといいます。なぜなら、AIは肉体労働だけではなく、知的労働をも代替する可能性があるからです。
結果、物を生産するコストはゼロに近づいていき、生きていくための必需品は、誰もが不自由せずに済むだけの量がAIによって生み出されます。たとえば農作物を人間の代わりに栽培して、調理までしてくれるロボットが実現するでしょう。しかもロボットなので、休まずに作業をしてくれます。
そうして物を生産する効率が人類史上もっとも高い時代に突入します。
②民主主義の完成
民主主義が導入されて以降、性別や階級に関係なく選挙権が与えられ、政治的平等が実現されてきました。
しかし、機会の平等は実現していません。たとえば医者や弁護士になるためには、学費や受験費用といったお金が必要なため、誰もが目指せる職業ではありません。また、貧困家庭に生まれた子は、心理的にも余裕をなくし、見える未来が狭くなってしまうとも言われています。
BIを導入することで、これらの問題が解決し、機会の平等が実現されると波頭さんは主張します。これまでは、金銭的な理由から自分のやりたいことを諦めてしまった人もいたと思います。BIによってそれが打破され、誰でもやりたいことを目指せる社会が実現するのです。
③労働の人生から活動の人生へ
BIが導入されれば、最低限の生活に必要な資金は、政府から支給されるようになります。これにより、これまでやっていた「金銭的報酬を目的としていた労働」をする必要がなくなり、「自己実現や社会貢献を目的とした活動」にシフトしていきます。その結果、当たり前だった「働かざるもの食うべからず」の価値観が崩れ、「働かなくても食ってよし」の世界が実現していきます。
その変化の中で、人間は「学問、他者への貢献、芸術」の3つに取り組むようになると波頭さんは予想しています。
これまでは、マネタイズできないからやりたいことを諦めたり、お金が得られたとしても少なすぎるために辞めてしまった活動も、労働(=お金が目的の仕事)が必要なくなった未来では、積極的にやる人が増えるでしょう。たとえば一日中ゲームをやることは、今までは否定的に見られていたと思います。それが、その人が幸せで人に迷惑をかけなければいいじゃんとなるのです。むしろ、極めれば極めるほど、感心した人が集まってくるようになります。
本当にAIとBIは人を幸せにするのか
ここまで本書を読んできて、「本当にAIとBIは人を幸せにするのか?」という疑問が浮かびました。
「やりたいことがなく、与えられたことだけをやってきた人たちは、暇を持て余してしまい、生きることが苦行になるのではないか」と。
それに対し波頭さんは、やりたいことを見つけるためには「経験と修練を積むこと」が必要だといいます。
何をやるかを決めるための第一歩は、選択肢を持つための経験を広げることである。(p.250)
たとえば、「好きな食べもの」は自分が食べた体験があるから好きになるのであって、誰かに「おいしいよ」と言われるだけで好きになることはありませんよね。「何をやるか」を決めるためには、「まず自分で経験してみること」が重要なのです。
これを踏まえると、AIとBIが導入された世界の中で人が幸せになるためには、教育が今後ますます重要になりそうだと思いました。現状の国語、英語、数学といった固定的な教科だけでなく、選択肢を広げるためにさまざまな経験ができるようになるといいですね。
AIとBIの理解はこれからを生きる上で必須
本書を読んで、AIを扱う者と扱えない者との間に大きな格差が生まれてしまうこと、そして、それを防ぐ切り札としてBIの導入がもっとも有効だということが理解できました。(もちろん、BIだけがAI発展による大格差を防ぐ方法とは限りませんが)
AIは企業活動の原則である、「コストを抑えて利益を出す」との相性がいいです。そのため研究者、起業家によって技術が発展していき、圧倒的生産性の実現に向かっていくでしょう。
しかしBIの導入は、国民がBIの必要性を感じ、導入に向けて努力していくことが求められると思います。BI導入には、すでに整備された国の仕組みを変える必要がありますから…。
導入を決める際には、スイスで行われたように国民投票が行われるかもしれません。少しでも多くの人が、本書を読んで、BIの仕組みを理解するとともに、未来の道具(AI)との親和性を感じ取り、その上で投票ができるように準備をしておくことが重要だと思います。
本書には、BIの実験例や日本での導入課題などについても触れられています。さらに理解を深めたい人はぜひ手にとって読んでみてください!