新型コロナウイルスの影響で、多くの人や企業が、働き方を大きく変える必要に迫られています。コロナ禍における会社の対応への不満や、将来に対する不安から、「転職」という選択肢が頭に浮かんでいる方もいるのではないでしょうか。
そうした事情がなくとも、「終身雇用」はすでに崩壊しており、今や2人に1人が「人生で一度は転職する時代」です。新卒の学生ですら、60%近くがセカンドキャリアを意識して就活をしていると言われる今、一つの会社で定年まで働き続けようと考えている人はもはや少数派でしょう。
この現状を踏まえると、今すぐ転職するつもりがなかったとしても、いつでもその選択が取れるように、「転職の思考法」を身につけておくことは、すべてのビジネスパーソンにとって必要なことだと言えます。
転職活動というと、ほとんどの人は、「とりあえず転職エージェントに登録してみよう」と考えるのではないでしょうか。しかしそうした転職活動を「危険」だと警鐘を鳴らしているのが、今回ご紹介する『転職の思考法』です。
なぜいきなり転職エージェントに登録すべきではないのでしょうか。それは普通の転職エージェントに登録しても、「自分にピタッと合う会社」は絶対に教えてくれないからです。本書によると、ほとんどの転職エージェントは「成果報酬型」であり、転職が決まった時にエージェントが企業から報酬を受け取る権利は、「転職候補者が企業と最初に接触した時点」で決められるため、ビジネスモデル上、エージェント側は1秒でも早く「企業との面接」をするよう勧めるのが基本となり、短期的な視点でしか物事を見ていないと言います。
そのため、自分の中で転職に対する「思考の軸」が固まっていない状況で転職エージェントに登録してしまうと、エージェントの勧めやアドバイスが本当に自分にとって正しいのか判断できず、結果的に言いなりとなってミスマッチとなる転職をしてしまう可能性があるのです。
必要なのは、求人企業や年収といったうわべの「転職情報」ではなく、転職先をどのように選べばいいかの判断基準───つまり情報を見極める「転職の思考法」であり、それを教えてくれるのが本書というわけです。
この記事では、全てのビジネスパーソンが「転職」という選択肢を持つことの意義や「転職の思考法」とその身につけ方について、本書の要点を簡潔にまとめてご紹介します!
「転職」の選択肢を持つ意義
「転職の思考法」とは、簡単にいうと、自分のマーケットバリュー(=市場価値)を測り、それを伸ばせる会社や仕事に就くための考え方です。
マーケットバリューが高く、「いつでも転職できる」という確信があれば、理不尽な上司に「ノー」と言えるようになり、嫌な仕事をやらずに済む「自由」を得ることができます。
一方、マーケットではなく、会社の上司だけを見て仕事をしてしまうと、やりがいを見失っていても、今の会社に留まらざるを得ないという判断になりがちです。選択肢が狭まると、自由はどんどん制限されていくため、なかなか新しい行動に移せません。
仕事でダメな上司に付き合わないといけないのも、価値のない商品を嫌々営業しないといけないのも、予期せぬ異動に振り回されるのも、自分には「いつでも転職できる」と確信できるだけの「市場価値」がないからです。もしその確信があれば、そんな仕事はすぐに辞めるか、交渉材料にして会社を変えていけばいいのです。
もちろん高いマーケットバリューを持っていたからと言って、必ずしも「辞める」という決断をする必要はありませんが、転職という選択肢を持つことで、上司と対等な立場で接することができるようになり、仕事の自由度も高まっていくはずです。
では、どうすれば自分のマーケットバリューを高めることができるのでしょうか。身につけるべき思考法は、以下の4つのSTEPです。
- STEP1 自分の「マーケットバリュー」を測る
- STEP2 今の仕事の「寿命」を知る
- STEP3 強みが死ぬ前に、伸びる市場にピボットする
- STEP4 伸びる市場の中からベストな会社を選ぶ
STEP1 自分の「マーケットバリュー」を測る
まずやるべきなのは、自分のマーケットバリュー(市場価値)、つまり「世の中から見た自分の価値、自分の値段」を測ることです。
今の会社でどれだけ仕事ができたとしても、市場全体で価値の低い仕事しかできていなければ、マーケットバリューは低く、自分の希望通りに転職できる可能性は低くなります。
以下、マーケットバリューの測り方を解説します。
「マーケットバリュー」の3つの構成要素
マーケットバリューは次の3つで決まります。
- 技術資産
- 人的資産
- 業界の生産性
「技術資産」とは、「専門性」と「経験」のこと。これが高い人は「どんな会社からも必要とされる、高い技術力を持った人間」となります。専門性のある人間にこそ、「貴重な経験」が回ってくるため、本書では20代は専門性を身につけて、それを生かして30代は経験をとりにいくことが勧められています。
「人的資産」とは、平たく言えば人脈のこと。これに特化したタイプは、「どんな人間とも仲良くなれ、可愛がられる力を持った人間」なので、人脈だけで仕事を引っ張ってくることができます。人的資産は年をとるにつれ重要度が増していきます。
「業界の生産性」とは、「その業界にいる人間が、平均一人当たりどれほどの価値を産み出しているか」によって測られます。簡単にいうと「一人当たりの粗利」です。粗利はそのまま、給料の原資となるため、業界の生産性が高いほど給料が高くなります。
一見、転職するには「技術資産」が重要だと思われがちですが、じつは「業界の生産性」こそ、もっとも大きな影響を与えます。業界の生産性が低いと、給与の原資が少ないため、どれだけ頑張っても給与に反映されないということが起こるからです。
いくら「技術資産」や「人的資産」があっても、そもそもの産業を間違ったら、マーケットバリューは絶対に高くならないため、個人の資質や努力で覆すのは非常に困難となります。そのため、転職先を選ぶ際は、そもそも業界の生産性が高いかどうかを見るべきなのです。
働く業界はどう選ぶべき?
もちろん、高給だからという理由だけで興味のない業界で働こうと思う人は少ないでしょう。その場合は、「エスカレーターの向き」を見ること、つまりその業界が伸びているか、伸びていないかを見ることが勧められています。
伸びていく産業で働くというのは、上りのエスカレータに乗って、上を目指しているようなもの。とくに自分が何もしなくても、売り上げが1.5倍になったりします。一方、縮小している産業で働くと、何もしなければ売り上げが0.8倍になります。それを必死に防ぐために、下りのエスカレーターを速いスピードで逆向きに駆け上がらないといけないため、永遠に豊かになれません。
そのため「技術資産」も「人的資産」もない人が会社を選ぶ際は、実質次の二択となります。
- 生産性がすでに高い産業。
- エスカレーターが上を向いている産業。
絶対にNGな選択肢は、生産性が低くて、かつ、成長が見込めない産業で働くこと。これでは永久に豊かになれません。
エスカレーターが上がっているか、下っているかを確かめるのが次のステップです。
STEP2 今の仕事の「寿命」を知る
すべての仕事には明確に賞味期限があり、仕事のライフサイクルは以下の4つを繰り返しています。
- ①ニッチ
- ②スター
- ③ルーティンワーク
- ④消滅
縦軸に「イスの多さ」(雇用の数)を置き、横軸に「代替可能性の高さ」を引いた4象限を作ります。全ての仕事は、椅子の数が少なく、代替可能性が低い「ニッチ」からスタートし、イスの数が増えていくと「スター」になります。そこから代替可能性が高まると「ルーティンワーク」となり、イスの数が減っていくと「消滅」します。
つまり①から④に向けて古くなっていき、すべての仕事が③になっている人は、自分の技術資産は賞味期限が切れつつあるということです。
本書の主人公は、印刷機器メーカーの法人向けの新規開拓営業で、3名程度のチームマネージャーをしている設定です。彼の仕事のライフサイクルを分析すると、以下のようになります。
- 印刷機器(業界)③×法人向けの新規開拓営業③
- 印刷機器(業界)③×チームマネージャー③
すべての仕事がライフサイクルの③(ルーティンワーク)になっているため、主人公の技術資産は賞味期限が切れつつあるということになります。
このように自分の技術を一覧にし、ライフサイクルに当てはめていくと、自分という商品の賞味期限が見えてきます。こうしてエスカレーターの向きを把握するのです。自社だけでなく競合も含め、全体的に利益を落としているのは、マーケットが縮小している証となります。
伸びている業界で働くことは、それだけで価値があることであり、その経験は貴重な技術資産となります。一方、衰退している業界での経験は無効化してしまいます。もしあなたが今、賞味期限が切れつつある業界で働いているとしたら、伸びる市場に転職し、キャリアのピボットを考えるべきです。
STEP3 強みが死ぬ前に、伸びる市場にピボットする
ピボットとは、方向転換や路線を変えるという意味で、「Aという事業を立ち上げたものの、うまくいかなかったので、事業Bにピボットする」のように使います。キャリアの文脈で言うと、自分の強みに軸足を残しながら、もう片足を今後強くなる部分に少しずつ、ずらしていくという考え方です。
一つの会社の一つの職種で定年まで働き続けるというこれまでの働き方ではなく、次から次へとくる新しい波をとらえ、波が消えそうになる前に、次の波に移っていきます。本書では、今の仕事の寿命が尽きる前に、新しい仕事にピボットしていくことが、一生食べていくための最強の方法論であると説かれています。
伸びるマーケットを見つけるための方法論は2つあります。
- 複数のベンチャーが参入し、各社が伸びているサービスに注目する。
- 既存業界の非効率を突くロジックに着目する。
1つ目は、ベンチャーや投資の動向に注目するという方法。ベンチャーは資本や人数で大企業に勝てないため、世の中の流れを味方にして勝つのが定石です。本当の意味で伸びているマーケットには、いずれ大企業の競合となるようなベンチャーが複数います。「XX業界 ベンチャー」で検索したり、転職サイトで検索をかけたりして、出てきた企業をかたっぱしから調べてみましょう。設立年度が若い会社がたくさんあり、投資も集まっていれば、それは伸びているマーケットに人と金が群がっている証拠です。
もう1つは、既存業界の非効率を突く「ロジック」に着目する方法です。成長する会社は、創業のときから業界の非効率を突いた独自のロジックを持っています。そのロジックさえ正しければ、あとはそのタイミングがいつ来るかの問題で、遅かれ早かれ成長していきます。
これは100万人が参加しているゲームで一番を目指すのではなく、いずれ100万人が参加するゲームに一番乗りするということです。まだ誰も気づいていないが、よくよく聞くと筋が通っている話は「ライフサイクル」の序盤にある可能性が高く、そうした「まだ誰も目をつけていない優良株」を買うことで、後に大きな利益を手にすることができるのです。
一方で、すでに人気があるということは、イスの数が十分に多くなった状態であり、仕事の賞味期限は「終盤」に差し掛かっています。成熟したマーケットに後乗りしても、確実にコモディティになってしまいます。
特別な才能を持たないほとんどの人にとって、重要なのは「どの場所にいるか」、つまりポジショニングであり、才能は不平等だが、ポジショニングは誰にでも平等だと本書は説きます。
伸びる市場を見極めたあとは、その中から自分にとってベストな会社を見極めるステップです。
STEP4 伸びる市場の中からベストな会社を選ぶ
会社を選ぶ際に重要なのは、もちろん「マーケットバリュー」だけではありません。「働きやすさ」と「活躍の可能性」を含めた3つの要素のなかから、先に判断基準を決めておくことが大切です。
- マーケットバリュー
- 働きやすさ
- 活躍の可能性
これら3つのうち、マーケットバリューが低い人は「活躍の可能性」を見た方がいいと言います。その会社で自分が活躍できるかどうかを見極めるのです。そのためには、面接の場で次のことを聞くように勧められています。
面接の場で聞くべきこと
- どんな人物を求めていて、どんな活躍を期待しているのか?
- 今いちばん社内で活躍し、評価されている人はどんな人物か? なぜ活躍しているのか?
- 自分と同じように中途で入った人物で、今活躍している人はどんな部署を経て、どんな業務を担当しているのか?
この3つを聞いた上で、自分が社内で活躍できるイメージが持てたらOK。持てなければ、活躍できる可能性は低く、結果的に転職後に苦しむ可能性が高くなるので注意が必要です。
転職エージェントに面談後に聞くこと
また本書では、面接の後、転職エージェントに確認するべきこととして、以下のことが挙げられています。
- 「どこを評価されたか」「どこが評価されなかったか」
- 入社するうえでの懸念点や、心配されていることは?
人を大事にしている会社であれば、必ず納得できる答えを返してくれると言います。たとえば一次面接を通過した後に上記について質問したところ、次の面接へと急かすような姿勢が見られたら、その転職エージェントはあなたの人生全体を考えてではなく、「売り物」を急いで売りたいという考えで勧めている可能性があります。
「この求人がいいか悪いか」という話ではなく、「この求人があなたに合うかどうか」という視点で考えてくれる転職エージェントであれば、「どこが評価されなかったか?」という問いについても、きちんと答えてくれるはずです。
いい転職エージェントの見極め方・五箇条
最後に、いい転職エージェントの見分け方として、本書で挙げられている5つのポイントをご紹介します。
- どこがよかったか、入社するうえでの懸念点はどこかをフィードバックしてくれる(だからこそ、こちらから必ず「懸念点はどこですか?」と聞いてみること)
- 案件ベースでの「いい、悪い」ではなく、自分のキャリアにとってどういう価値があるのかという視点でアドバイスをくれる。
- 企業に、回答期限の延長や年収の交渉をしてくれる。
- 「他にいい求人案件は、ないですか?」という質問に粘り強く付き合ってくれる
- 社長や役員、人事責任者などとの強いパイプがあり、彼らとの面接を自由にセットできる
面接後に、これらのポイントを満たしているかどうか確認し、信頼できるエージェントかどうか見極めましょう。
まとめ
本書には、この他にも「いいベンチャーを見極める3つのポイント」や「転職先に向かない企業」「中途で入るべき会社と新卒で入るべき会社の違い」など、企業選びの際の考え方や判断軸が細かく示されています。
ストーリー形式なので、主人公を自分に当てはめて、物語を楽しみながら転職に必要な思考法を学ぶことができるでしょう。
本書で紹介されている「思考の軸」を持った上で転職をスタートすれば、あたなの仕事人生を好転させることができるはずです。ぜひ、手にとって読んでみて下さい。
よい転職エージェントや転職先企業を見極める目を持つことができたら、複数のエージェントに登録して選択肢を増やし、どの転職エージェント(の担当者)が自分のことを考えてくれるか、自分の目で見極めるステップです。
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