人当たりはいいのに、なぜか仕事で成果が出ない人がいる一方で、普段はとても無口で無愛想なのに、結果的には成果を出し、評価される人がいます。
両者はいったい何が違うのでしょうか。この疑問に答えてくれるのが、今回紹介する本『少ない言葉+ていねい+正しそうでOK! 伝わるスイッチ』です。
著者の深沢真太郎さんは「ビジネス数学」の専門家であり、数字や論理を使いこなし、数学的に考え説明ができるビジネスパーソンを育成する活動をされています。研修や講演も非常に好評のようで、はじめて依頼されたクライアントからのリピート率は100%なんだとか。
そんな深沢さん、「伝え方には、スイッチがある」と言います。
相手に何かを伝えるとき、プライベートと仕事の場では、おそらく”何か”を変えていますよね。つまり無意識にスイッチを入れているわけです。いつもは「OFF」でいいですが、大事な勝負どころでは「ON」にする。この切り替えが臨機応変にできることが、仕事の成果に直結しているのです。
スイッチを「ON」にして伝えると、相手が持つ感想は「わかりやすい」と「なるほど」の2つ。言い換えると、「理解」と「納得」です。
そのために深沢さんが気をつけていることが以下の3つです。
- 「少ない言葉」
- 「ていねい」
- 「正しそう」
今回は、今すぐ伝わる実践的な伝え方テクニックを5つ紹介します。
- 人間に例える
- 世界共通の言語は「数字」である
- 「予想」ではなく「予測」を伝える
- 「消去法」が最強の根拠である
- 精神論を「数学的」に伝える
①人間にたとえる
聞き手はほとんどの場合、人間ですよね。ですから、人間には「人間」でたとえるのが一番伝わるようです。企業の部署を人間にたとえると次のようになります。
営業部=顔(文字通りその企業の顔)
マーケティン部=脳(ビジネスの仕組みを考える)
経理部=指(お金の授受、そろばん、電卓)
人事部=心臓(ここから各部署へ資源が送り込まれる)
このように人間の一部にたとえると、聞き手は自分の身体を連想して、それぞれの部門の役割や大切さをイメージすることができます。
たとえば「人事部の仕事は、とても大事な存在です」というよりも、「企業の人事部。人間にたとえると、心臓のようなものです」と言われた方が、より重要度をイメージしやすいですよね。結果として、「わかりやすい」や「なるほど」をプレゼントすることができます。
今後、「相手に伝わりやすいたとえがないかな」と思ったら、ぜひ「人間」でたとえてみてください。伝わり方が変わりますよ。
②世界共通の言語は「数字」である
数字は世界共通の言語です。「10人」は世界中どこへ行っても「10人」であり、そこに差はありません。
たとえば「ちょっとだけ」と言うと、育ってきた環境や年齢などによって感じ方はバラバラでしょうが、「10分間」といえば、全ての人が同じ認識を持つことができます。
数字というのは、英語よりも世界中で使われる、もっとも具体的でわかりやすい言葉なのです。
最強の言葉は、数字です。
重要なメッセージは、数字で伝える。
数字に置き換えることによって、より相手にわかりやすくなる表現を2つ紹介します。
1つ目は「簡潔に」という言葉。「簡潔にまとめてください」のように使いますが、それが「どれくらい」の程度なのか、相手には伝わりづらいですよね。
しかし「1分で」「140文字で」と伝えたらどうでしょう。お互いに不快な思いをせず、具体的に伝わるはずです。
2つ目は「明確」という言葉。これも頻繁に使われる言葉ですが、「どれくらいの明確さを求めているのか」、伝わりにくい表現でもあります。
深沢さんは、「明確」とは「1行で表現できるくらいの状態になっているもの」と定義しています。このように数字を使って表すと、より相手に伝わりやすくなりますよね。
明確にさせたいときほど、「明確」という曖昧な言葉は使わずに、「1行で」「140字で」など、数字を使うことを心がけましょう。
③「予想」ではなく「予測」を伝える
同じ意味で使われることが多い「予想」と「予測」ですが、この2つの表現、具体的に何が違うのでしょうか?
「予想」とは文字通り、想うこと。「予測」とは文字通り、測ることです。
ビジネスの場において、相手に「なるほど」と感じてもらうためには、「正しそう」と相手に思わせることが重要です。
つまりより正しそうな「予測」の方を使うべきなのです。
「予想」 = 人が想っただけの結果 = 正しそうではない
「予測」 = 数値で測った結果 = 正しそう
ビジネスでは数字で説明することが大事だとよく言われます。その本質的な理由は、数字を使って伝えることで「そうなりそう」な内容、正しそうな内容になるからです。
本書では、予測した結果を表すテンプレートも紹介してくれています。
「予測値は◯です。これは、Aの傾向から算出したものです。つまり個人の主観ではなく、数値を計測したことによる予測です。
未来を語るには、「結論」→「根拠」→「納得感」の順に味付けしていきましょう。
最後に個人の主観ではない趣旨のフレーズを残せば、相手に伝わるやすくなります。
④「消去法」が最強の根拠である
「消去法」とは、「いくつかの選択肢からひとつを選ぶとき、選ばない理由のあるものを消去していくことで、最終的に残った選択肢を選ぶ」という思考プロセスです。
あまりよい印象を持たない人もいるでしょう。しかし私たちは普段、意外にもこの「消去法」を使って生活しています。食事のメニューを決めるときだって、昨日食べたものからいくつか検討して、消去した結果選んでいませんか?
消去法という表現から、なんとなく積極的でない選び方、まるで売れ残りのように誤解する人がいるかもしれませんが、決してそうではないのです。
「論理的に考えた結果、それしかない」という理由は、ビジネスでは最強の根拠です。なぜなら、それしかないのですから。
常に選択を求められるビジネスの世界において、これ以上わかりやすく、納得感ある根拠はないでしょう。
⑤精神論を「数学的」に伝える
「精神論」というと、最近では何か古臭くて暑苦しいような気がしてしまいます。この記事でも「数字」を使って理論的に伝えることが大切だと伝えてきました。
しかし熱い精神論も、ときには重要なファクターとなります。
精神論に数学的思考を加えれば、より相手に伝えやすくなるということです。
たとえば「コツコツ積み重ねが大事です」という言葉。これだけでは「なるほど」がプレゼントできず、納得感もあまり得られないでしょう。
この文に少し数字を付け加えてみてはどうでしょうか。「コツコツ積み重ねが大事です。たとえば8%増が5回続けば、50%増ですから」。こう書くと、「コツコツ積み重ねることで、気づけば大きな成果になる」ということを、簡単な数字が教えてくれます。
より詳細に相手に伝えられることができ、納得感も与えられるでしょう。
単なる精神論だけでは、実は勝負所では伝わりづらいようです。
相手のスイッチをONにしたければ、「数学的思考」を少し味付けに使ってみましょう。それだけで、深みのある熱い精神論を届けられるようになりますよ。
まとめ
本書『伝わるスイッチ』で紹介している数々の言い回しやテクニックは、その場をしのぐだけのものではありません。
どんな時代になろうと決して変わることのない、勝負どころで必要なコミュニケーションの本質に触れるものです。
ぜひ本書を読んで、書かれていることを実践してみてください。