ジブリ映画が高視聴率の理由とは?
何度再放送されても視聴率が落ちないジブリ映画。Twitterが浸透してからは、リアルタイムで視聴することの楽しみも加わり、より話題になりやすくなっているように感じます。
ストーリー展開や結末はもちろん、何ならセリフまでも覚えてしまうほど何度も見ている作品なのに、なぜジブリ映画は何度も見たいと思えるのでしょうか?
その秘密について「情報量」という切り口から突き詰め、クリエイティブの本質やトップクリエイターの頭の中について解き明かしてくれているのが『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』です。
スタジオジブリで見習いプロデューサーを務めていたドワンゴ・川上氏が、現場のリアルな声をもとに「なぜジブリ映画は何度再放送されても視聴率が落ちないのか?」という秘密に迫ります。
ジブリ映画のみならず、ヒットコンテンツの裏に隠された秘密を見破るための新しい視点が得られるが良書なので、メディアやコンテンツ制作者にはぜひ読んでみてください。
アニメの「情報量」とは?
なぜジブリ映画は何回再放送しても視聴率が下がらないのか。その答えについて、鈴木敏夫プロデューサーは「ジブリの映画は情報量が多いから、一度見ただけじゃ理解できないので、なんども映画館に来てくれるし、何回、再放送しても視聴率が下がらないんですよ」と説明します。
「情報量」というのはIT業界でよく使われる専門用語ですが、アニメの現場でも「絵の細かさ」という意味で日常的に使われているそうです。
アニメの情報量とは「線の数」のこと。線の数が多いほど絵は細く複雑になっていき、塗らなければならない色の数も増えていくため、情報量が多いということになります。
しかし、そうすると情報量が一番多い絵は実写になってしまい、実写が最も飽きのこないコンテンツということになってしまいます。アニメより実写の方が絶対的に飽きない作品が多いかというと、そんなことはありません。またジブリ作品よりも線が多いアニメを作れば、飽きずに見られるヒット作になるのかといえば、そうとも言えなさそうです。
ここでポイントとなるのが、「情報量が多すぎると、複雑になりすぎてよく理解できなくなってしまう」という点です。
「アニメは子どもたちのもの」と宮崎駿監督が語っているように、アニメは現実をデフォルメ・単純化したものなので、実写に比べて情報量が少なく、子どもにも理解しやすくなっています。だからこそアニメは子ども向けの映像表現として発達しました。
もちろん大人でも「実写よりもアニメの方が理解しやすい」という人もいるでしょうが、見た目の絵があまりにちゃちだと、大抵の大人は見る気がしないはずです。
子どもが好むもののような情報量が少ない簡単なアニメは嫌だけど、実写ほど情報量が多いのも少し難しい。だからアニメにしては情報量が多いぐらいがちょうどいいと思う大人が実は多いんだという説明が成り立つかもしれません。
このことから、「日本で大人を含めてアニメを見るようになった背景には、ジブリ作品を代表として、まず、絵が大人の鑑賞に耐えうるような情報量になったということもありそう」だと川上さんは考察します。
情報量は多い方が飽きづらいけど、多すぎても複雑で理解しづらくなってしまう。とすると、「線の数」という意味での情報量の多さだけでは、ジブリ映画が飽きられない理由を説明することはできなさそうです。
川上さんはここで、アニメの情報量には「線の数」のような「客観的情報量」とは別の数え方、すなわち「主観的情報量」があるのではないかと仮説を立てます。
ジブリ映画の視聴率が下がらない本当の理由とは?
「主観的情報量」とは、人間の脳が認識している情報量のことを指します。アニメにおける主観的情報というのは、脳にとって理解しやすい、気持ちのいい情報であるということです。
一方の「客観的情報量」は、アニメの線の数やコンピュータの画素数など、客観的基準で測れる情報の量のことを指します。
先に説明した「多くなればなるほど実写に近づく」というのは、「客観的情報量」のことです。
スタジオジブリの作品は、客観的情報量だけでなく、主観的情報量が多いから何度見ても飽きられないのではないか、というのが川上さんの仮説です。
この点について、鈴木プロデューサーは「宮さんは見ていて気持ちいい絵を描く天才だ」といいます。
たとえば『風立ちぬ』に出てくる飛行機は、現実の飛行機の縮尺よりもかなり大きく描かれていますが、川上さんは、誇張としておおげさに描いているのではなく、宮崎監督の脳のなかでは飛行機はそれぐらい大きさに見えているのではないかと推察します。
そしてそれは「見ている観客にとってもむしろ自然で、違和感がない、そのほうが人間の脳にとって理解しやすい、そういう可能性がある」というのです。
実写で飛んでいる本物の飛行機を見るよりも、宮崎駿監督が描く飛行機のほうが鮮明な印象を観客に与えたりする。こういうことが起きるのは、宮崎監督が脳が認識するときのより純粋な飛行機そのままを描いているのに対して、実写だと他にもいろいろなものが写り込んでいて、そのようなノイズを削ぎ落とすと、実は貧弱な飛行機しか人間の脳には見えていないということでしょう。
宮崎作品が世界で認められ、何度再放送しても視聴率が落ちないのは、「正確に人間の脳と視覚構造が認識しやすい形で描いているから、つまり、描いているものが脳に気持ちいいからではないか」という結論に至ります。
実際、人間は写真のように世界が見えているわけではなく、視覚構造的にも、重要だと思ったものを中心にして眼の焦点を合わせるようになっています。好きなものや重要なものが大きく見えるのは当然で、人間の主観では、注目しているものがもともと大きく見えているのです。
コンテンツがリアルだからといって、脳が認識する「主観的情報量」が多いとは限らず、「客観的情報量」を最大限に増やした実写が最も飽きがこないコンテンツになるわけではありません。
『風立ちぬ』で堀越二郎役の声優を務めた庵野秀明監督は、「宮さんはおそらく自分が見たとおりをそのまま描いているだけだと思います。つまり脳が認識して、受け取った情報のまま、紙に写しているので、それが結果的に脳が理解しやすい形になるというのが宮崎駿の秘密だと思います」と語っています。
まとめ
「ジブリ映画」という具体例から読み解いたヒットコンテンツの秘密を、他のコンテンツ制作に生かすためにはどうすればよいのか。それを知るためには、ここでの議論を一度抽象化する必要があります。川上さんの議論の面白さは、正にこの「具体と抽象」の往復運動にあります。
どうすれば主観的情報量を増やすことができるのか? ジブリ作品から得られた考察をアニメ以外のコンテンツにも応用するにはどうすればいいのか? ヒットコンテンツの作り方とトップクリエイターの発想法について知りたい方は、ぜひ本書を読んで確認してみてください。
モデルプロフィール
・名前 :愛衣
・生年月日 :1991.12.24
・出身 :神奈川県
・職業 :OL
・Twitter :@meishimoo
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※現在は閉店されてしまったようです。