落合陽一『働き方5.0』クリエイティブ・クラスになる方法とは?

落合陽一『働き方5.0』クリエイティブ・クラスになる方法とは?




 今回は、落合陽一さんの『働き方5.0』を紹介します。

 「働き方5.0」とは、AIやロボットが幅広い分野で進化し、人間とともに働いていく時代のこと。それは、さまざまな問題が「コンピュータと人間の組み合わせ」によって解決される時代です。

 人間が機械の主人になるわけでも、機会が人間を支配するわけでもなく、コンピュータと人間が複雑に相互作用をしながら社会を形作っていく世界です。

 そうした時代には、機械では代替されにくく、付加価値の高い能力を持つ人材がますます強く求められるようになります。より具体的に言うと、「創造的な専門性を持つ知的労働者」(クリエイティブ・クラス)を目指すべきだというのが、落合さんの主張です。

 「クリエイティブ・クラス」とはどのようなもので、目指すためには必要なこととは何なのでしょうか。

※本書は、2016年4月に出版した『これからの世界をつくる仲間たちへ』をベースにして、あらためて新書化されたものです。



「クリエイティブ・クラス」とは?

 米国の社会学者リチャード・フロリダは、「ホワイトカラー」と「ブルーカラー」という2つの区別とは別に、「クリエイティブ・クラス」という新しい階層が存在すると考え、現在の資本主義社会ではホワイトカラーの上位に位置していると説いています。

 「クリエイティブ・クラス」とは、「創造的専門性を持った知的労働者」のこと。彼らには「知的な独占リソース」があるので、株式や石油などの物理的な資源を持っていなくても、資本主義社会で大きな成功を収めることができます。

 また、米国の経済学者であるレスター・C・サローは『知識資本主義』という著書の中で、これからの資本主義は「暗黙知」が重視される世界になると訴えています。

 「知識資本主義」の社会では知識が資本になりますが、それはどんな知識でもいいというわけではありません。誰もが共有できるマニュアルのような「形式知」は、勝つためのリソースにはなりません。

 誰も盗むことのできない知識、すなわち「暗黙知」を持つ者が、それを自らの資本として戦うことができるのです。

 フロリダとサローの考えを合わせると、これからは「専門的な暗黙知を持つクリエイティブ・クラスを目指すべきだ」ということになります。

「クリエイティブ・クラス」になるには?

 では、クリエイティブ・クラスとして生きていこうと思ったら、現代の若者たちはどんなことを学べばいいのでしょうか。

 結論からいうと、「勉強」だけではクリエイティブ・クラスにはなれません。勉強とは、基本的に他人から与えられた問題を解くことであり、それは誰かが見つけて解決した問題を追体験するようなものだからです。

 クリエイティブ・クラスの仕事は、他人から与えられた問題を解くのではなく、まず誰も気づかなかった問題がそこにあることを発見するところから始まります。

 新しい問題を発見して解決するのは、「勉強」ではなく「研究」です。勉強と研究の違いを知ることは、21世紀をクリエイティブ・クラスとして生きていく上できわめて重要なキーワードだと落合さんは説きます。

 理系であれ文系であれ、研究者は「誰もやっていないことを探し続けること」が仕事です。研究者になるまでには先人の書いた教科書を読まなければいけませんが、それはあくまでも「勉強」であり、「研究」ではありません。その教科書を書いた人こそ、本物の研究者といえるのです。

 端的に言えば、教科書を読んで勉強するのがホワイトカラーで、自分で教科書を書けるぐらいの専門性を持っているのがクリエイティブ・クラスというわけです。

 研究というのは、大学や研究所に限りません。大学の研究者にならなくとも、自分が何を研究し、どんな暗黙知を貯めていくのかを考えておくべきです。

 そして、暗黙知を得るために研究を重ねることは、何らかの「魔術師」になることを目指すことと同義です。

21世紀は「再魔術化」の時代

 産業革命をはじめとした近代に起きた変化のことを、ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは『職業としての学問』「脱魔術化」と呼びました。ここでの「魔術」とは、「どうしてそうなるのかわからないこと」、つまり民間信仰で信じられてきたような「まじない」のことを言います。

 例えば食糧の保存方法について、近代以前に、食糧の保存ができなかったわけではありません。火を使うようになった時点で、生のままだとすぐに腐ってしまう肉などが、焼いたり茹でたりすると長持ちすることを人類は知りました。

 しかし、なぜ火を通すと腐らなくなるのかはわからなかった。やってみたらそうなったから、「これは便利だ」と続けていただけです。当時の人々には、「炎には食べ物を浄化する神秘的な力があるのだ」としか考えられませんでした。

 つまり、火を使うことで、食べ物が腐らない「魔法」をかけることができたと捉えていたわけです。「なぜそうなるかわからないこと」を、昔はそうやって魔術のようなものだと考えるしかありませんでした。

 食べ物がなぜ腐るのか、その理由を解明したのは、「近代細菌学の開祖」と呼ばれるフランスのルイ・パスツールです。19世紀にパスツールが細菌を発見したことで、それが物を腐らせる原因であり、食べ物を煮たり焼いたりすると細菌が死ぬので腐らなるということを、人類は理解しました。

 そういった謎が次々と解明されることで、この世界は「なぜそうなるのか」がわかるようになっていきます。これが、マックス・ウェーバーの言う「脱魔術化」です。みんながなんとなく知っていた「理由はわからないけど結果が使えること」=「まじない」に、説明がつく時代が到来しました。

 こうした科学技術による「脱魔術化」は20世紀まで続きました。ところが、今になって状況が変わり、逆に「なぜそうなるのかわからないこと」が増えているのです。

 例えば交通系のICカードは、どの会社の路線にも乗車できるし、コンビニで買い物もでき、その便利さから多くの人が利用しています。しかしあのチップに何が入っているのか、ほとんどの人は説明できませんし、ICの中にどんなプログラムが書き込まれているのかを見ることもできません。そうしたブラックボックス化があちらこちらで起きています。

 チップの動作はそれをプログラムした人の意向でいかようにも変化します。21世紀の「魔術」を仕掛けているのは、コンピュータに入っている黒いチップと、ごく一部のクリエイティブな人たちです。だから「なぜそうなるのか」が本当にわからない。

 そういう謎めいたサービス、人工知能社会のブラックボックスを、多くの人が当たり前のように享受しているのが21世紀の世界です。

 言い換えると、コンピュータや高度で複雑な社会活動が世界を「再度魔術化」しているのが、21世紀なのです。

 消費者としては、それを単に「便利になった」と喜んで使っていればよく、なぜそうなっているのかを理解する必要はありません。「魔術」の中身を知らなくても、日常生活を快適に送ることに何ら支障はないからです。

 しかし、何らかの製品やサービスを提供する生産者側としては、それではいけないと落合さんは指摘します。

 現代の「魔術」は誰かが必ずその中身を知っており、魔術の裏側には必ず「魔術師」や「魔法使い」がいます。それこそが、暗黙知を持つクリエイティブ・クラスです。

 一つも魔術を知らないようでは、「コンピュータの下請け」のような人生しか待っていないかもしません。それはそれで幸福な生き方ですが、この本が目指しているのは「クリエイティブ・クラス」になることです。

 ロールモデルのないオリジナルな価値を持つ人間になろうとするなら、何らかの「魔術師」になるのがいちばんだと落合さんは説きます。
 

「魔術師」になる方法とは?

 何らかの「魔術師」になるためには、他人にはコピーのできない「暗黙知」を自分の中に貯めていくことが重要です。

 情報がシェアされる時代に自分の価値を高めるには、簡単にはシェアできない、そしてイメージすることのできない暗黙知を自分の中に深く彫り込んでいくしかありません。
 
 「暗黙知の彫り込み」とは、広い意味で「研究」のこと(課題を発見し解決すること)なので、先述の話とつながります。研究によって暗黙知を得ることが、魔術師(クリエイティブ・クラス)になる道です。

 これから自分を作り上げていく若い人たちは、まず自分が何を研究し、どんな暗黙知を貯めていくのかを考えましょう。「自分が何を研究すべきか」「何の専門家として生きていくのか」をわかっている人間は、それだけで有利なポジションに立つことができると落合さんは説きます。

 大切なのは、「その新しい価値によって今の世界にある価値を変えていく理由に、文脈がつくか」「それに対してどれくらい造詣が深いか」です。

 誰も知らない暗黙知を持っていたとしても、その意味や価値を合理的に説明できなければ、誰にも認めてもらえません。「誰も知らない」だけでは価値にならないのです。その暗黙知が、いまの時代に何の価値があるのかを説明するロジックまで用意する必要があります。

 オリジナリティの説明は、次の5つの質問に落とし込むことができます。

  • それによって誰が幸せになるのか。
  • なぜいま、その問題なのか。なぜ先人たちはそれができなかったのか。
  • 過去の何を受け継いでそのアイディアに到達したのか。
  • どこに行けばそれができるのか。
  • 実現のためのスキルはほかの人が到達しにくいものか。

 この5つにまともに答えられれば、そのテーマには価値があると言えます。

 これを説明できるということは、「文脈で語れる=有用性を言語化できている」ということであり、他人にも共有可能な価値になる可能性があるからです。

 これが本書で落合さんが一番伝えたい部分で、他は読み飛ばしていただいてもいいくらいだと言います。

 何をやるにしても、誰でも簡単に到達できるようなスキルで実現できるものでは、オリジナルな「魔法使い」にはなれません。逆に言えば、同じことを思いついても、高いスキルが必要な仕事は簡単には追いつかれません。

 まずは「自分が解決したいと思う小さな問題」を探すことから始めてみてください。それを解決するために「研究」を重ね、暗黙知を得ることが、クリエイティブ・クラスになるための方法です。

まとめ

 クリエイティブ・クラスになるような人たちは、常に自分の問題について考えていると落合さんは言います。一点を考え抜いて深めていくので、彼らの中には暗黙知がどんどん蓄積されていきます。

 重要なのは、「言語化する能力」「論理力」「思考体力」「世界70億人を相手にすること」「経済感覚」「世界は人間が回しているという意識」、そして「専門性」です。

 これらの武器を身につければ、「自分」という個人に価値が生まれるので、どこでも活躍の場を見つけることができると言います。

 何より「専門性」は重要です。小さなことでもいいから、「自分にしかできないこと」は、その人材を欲する十分な理由になります。

 専門性を高めていけば、「魔法を使う側」になることができはずです。

 本書は200ページ程度の新書ながら、働き方5.0の時代を生き抜くために必要な考え方がぎっしりと詰まっています。ぜひ読んでみてください。




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