こんにちは、maitoです。
今、東京からの人口流出が起こっていることをご存知でしょうか。2020年8月27日、東京をはじめとした一都三県から他の道府県への人口転出が転入を上回ったことが報道され、いわゆる人口流出が顕在化しています。これは集計に外国人を加えた2013年7月以来初めてのこと。
原因は、新型コロナウィルス感染拡大による、東京都とその周辺への感染拡大と見られており、都内周辺の一極集中化離れが、今後進んでいく可能性があります。
他にも、地方移住に関心を持つ若者が増加しているという報道もあり、暮らす場所・働く場所に対する考え方は、今後大きく変わっていくと予想されます。
(※内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」2020年6月21日公表)
私たちはこれまで以上に、住む場所や働く場所について見つめ直す必要があるのかもしれません。
今回ご紹介する『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』には、そのための参考になる取り組みが多数紹介されています。
「リビング・シフト」とは、住み方の変化のこと。インターネットの進化によって、自宅やカフェで仕事ができるようになったことで、ワークスタイルはもちろん、どうやって住む場所を選ぶか、どうやって暮らすかという価値観も大きく変わってきています。そのパラダイムの変化を、本書では「リビング・シフト」と呼んでいます。
著者は柳澤大輔さん。1998年に設立した面白法人カヤックは、本社が鎌倉にあり、面白く働くことをモットーに、オリジナリティのある制度やサービス、コンテンツを発信しています。
たとえば「旅する支社」という制度。これはオフィスを固定せずにみんなでいろんな場所に行って仕事をするという取り組みです。1年のうちの大半は鎌倉に根を張って農耕民族のように働き、一年のうち10%くらいは、狩猟民族のように様々な場所へ移動して働いているそうです。
多くの人が週5日会社に通って、その近くに家を構えて、一生住むというスタンダードが変わろうとしている今、カヤックのユニークな取り組みと、その背景にある柳澤さんの考え方に触れることは、これからの働き方・暮らし方を考える上でとても参考になるはずです。
リビング・シフトが変える「働き方」
冒頭で紹介した「旅する支社」では、イタリアのフィレンツェに2ヶ月間支社を置いたこともあり、仕事帰りや休みの日にはたくさんのアートに触れていたそうです。また開発合宿で伊豆に行ったときは、仕事終わりにみんなで地元の温泉に行ったこともあるようです。
話だけ聞くと、とても自由で楽しそうな働き方に感じますが、職場を移動するというのは、それだけで一定のコストがかかります。期間限定で利用できる物件を探して契約することに始まり、荷造りや移動の手間、慣れない場所で生活したり、仕事したりするので、勝手がわからず、時間を無駄にすることだってあります。
これだけのコストをかけて、職場を移動させるメリットはあるのでしょうか。この疑問について、柳澤さんは「生産性」という概念の変化という点から答えを述べています。
これまでの工業化社会では、たとえば1時間に何本ボルトを占めたかといった時間あたりの作業効率が重視されてきました。一定時間でより多くのボルトを締めるのなら、一ヶ所にとどまって作業に集中した方が生産性が高くなります。
しかし、そうした作業がロボットやAIに取って代わられるようになると、人間は、機械では代替できないアイデアやイノベーションで勝負しなければなりません。
そうすると、これまでの工業化社会における生産性とは、まったく別の考え方に切り替える必要性が出てきます。
「旅する支社」は、移動のコストはかかるものの、知らない場所に行って、いつもと違う景色を眺めること、異なる生活様式に触れることは、長期的に見れば、アイデアやクリエイティビティの創出につながるはずだと柳澤さんは考えているのです。
「どれだけ遊んでいるように見えても、爆発的なヒットにつながる優れたアイデアひとつさえ生み出せば、生産性が高いことになる」──こうした考えで、カヤックでは「絶えず動き続けること」が重視されています。
これからの時代は、一つの場所に根を下ろして働きつづける効率性よりも、様々な場所へ移動し、知らないものを見て刺激を受け、クリエイティビティを発揮できる働き方が必要になっていくのかもしれません。
とはいっても、一般的な会社員の方からすると、「自由に働く場所を変えるなんてできるはずない」と思うかもしれません。
ここで参考になるのが、大手IT企業に勤めながら「クリエイティブ疎開」と称して、リモートワークを率先して実践している山本裕介さんという人物です。
クリエイティブ疎開とは?
山本さんは、「テクノロジーがこれだけ発達しているのに、なぜ東京で仕事をしたり、勉強をしたりする必要があるのか?」という疑問から、会社勤めをしながら「クリエイティブ疎開」と名づけたリモートワークを始めたそうです。
これまでリモートワークした地域は、北海道・知床、和歌山・紀伊半島など、15ヶ所に上ります。
山本さんによると、リモートワークを成功させるためには「期待値」の設定が大事だそうで、以下の3つのパターンを挙げています。
- 合宿型業務集中リモートワーク(出力量:12)
- 普段と同じ稼働量リモートワーク(出力量:10)
- 業務抑えめリモートワーク(出力量:3〜4)
「合宿型業務集中リモートワーク」とは、オフサイトで朝から晩まで仕事をすることで、仕事の出力量を高めることを目的にしています。エンジニアを集めて開発するなどは、これに当たります。
「業務抑えめリモートワーク」はワーケーションに近く、リモートワークをする場合、この「合宿型業務集中リモートワーク」か「業務抑えめリモートワーク」のどちらかが有意義なものになりやすいと山本さんは言います。
「普段と同じ稼働量リモートワーク」は、交通費をかけて出かけて、朝から晩まで仕事するだけなので、結局パソコンの画面しか見ておらず、東京で仕事をする場合と変わらなくなってしまいます。
リモートワークをするのなら、出かけた先の地域ならではの出会いや気づきが得られる仕事をするべきでしょう。
このように仕事の目的に合わせて出力量の期待値を設定しておくと、より生産性の高いリモートワークが可能になるというわけです。
またチームで働いている場合は、自分が設定した期待値に応じて、自分の予定を同僚と共有したり、迅速にメールの返信ができない時間を伝えておいたりといった対処も重要です。
新型コロナの影響により、リモートワークやテレワークの推進、東京からのオフィス移転など、企業側も環境の変化に対応するべく、新しい働き方を模索し始めています。
そんな時代だからこそ、仕事内容に応じて、積極的に働く時間や場所を変えることを検討してみてはいかがでしょうか。
カヤックがフルリモートをしない理由
「好きな場所で働く」ことを推奨しているカヤックですが、意外なことにフルリモートワークを推奨しているわけではないようです。
それは、「なぜ組織に所属してその仲間と働くのか?」ということにもこだわっているから。
柳澤さんは組織に所属する意味を、「この人と一緒に働きたい」と思う人と仕事するためだと言います。
「同じ仕事をしていても、仲間とともに働き、喜びや苦しさを共有できる楽しい場所であるほうがいい」「その方が楽しいし、成長が早い。なんなら、そのために仕事していると言ってもいいくらい」だと柳澤さんは言います。
簡単にフリーランスになれる時代、わざわざ組織に所属して働くのは、そういう価値があるからです。
そのためカヤックでは、むしろ会社にくることが楽しくなることを目指しているそうです。会社に来たほうが成長が早く、楽しいと思える場をつくることで、自然と人が集まることを目指しているのです。
- 鎌倉に本社を置き、
- 鎌倉に住むことを推奨し、
- ブレインストーミングによる会議手法を推奨し、
- クリエイター中心の組織にして、わからないことがあったときに、隣の席の先輩クリエイターに聞くことができ、
- 個人個人の作業スペースを孤立させず、できるだけオープンにして、周囲の人たちの背中を見て、技術や企画を身につけられる環境を重視している
のは、すべて「会社に来たほうが成長できて楽しい」と思える場をつくるためなのです。
今年は「入社してからずっとオンライン」「同期とリアルで会ったことがない」という新入社員の方も多いかもしれません。フルリモートだと同じ会社の人と会う機会が少ないため、所属意識が薄れることが懸念されます。
どこでも働ける時代だからこそ、「なぜこの会社で働くのか?」を真剣に考える必要があるのかもしれません。
おわりに
本書の最後には、柳澤さんと、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『ニュータイプの時代』など数々のヒット本を出されている山口周さんとの対談が掲載されています。
その中で、山口さんは「住むところを決めることって、自分の人生の戦略なんです」と述べ、主体的な居場所づくりを推奨しています。
みなさんは、もし「場所の制約」(お金・時間・手間暇など)がなかったら、どこで暮らしたいですか?
本書をきっかけに、ぜひ考えてみてください。