一生に何度も経験することではないからこそ、「転職」のノウハウというのはなかなか溜まりにくいものです。
転職したいと思ったら、ネットや本の情報を参考にしたり、経験者に話を聞いたりして、情報収集に明け暮れるというのが実状でしょう。
今の会社に勤めながら転職先を探している人にとっては、ただでさえ日々の仕事で忙しいのに、無駄な情報収集や非効率な転職活動をしている余裕はありません。
では、誰の話やアドバイスを聞くことがもっとも参考になるのでしょうか。
志望企業が具体的に決まっていれば、その企業への転職に成功した人や、人事担当者のアドバイスを聞くのが効果的でしょう。しかしそうでない場合、最も頼りになるのは転職エージェントや転職サービスに関わるプロフェッショナルたちです。
なぜなら彼らは、数多くの企業の人事担当者とのコネクションがあり、転職市場のリアルな声を聞いていると同時に、実際に面接現場にも同行しているため、最も経験豊富で、現場の実状を総合的に把握しているからです。
その意味でオススメしたいのが、元「リクナビNEXT」編集長である黒田真行さんの著書『転職に向いている人 転職してはいけない人』です。
1週間に100万人を超えるユーザーが利用する転職メディアの編集長を務め、年間で何万人もの転職成功を生み出す転職エージェントのマーケティングに携わってきた人の言葉だけあって、本書のアドバイスは非常に具体的で実践的です。
黒田さん曰く、書類選考は高い評価でクリアしたにもかかわらず、面接応募者にとって思いがけない理由で不採用になるケースがよくあると言います。
しかしこうしたケースを事前に知り、意識して対策しておけば、そのリスクを大きく下げることができます。
7〜8月は転職が成功しやすいシーズンと言われるため、転職を検討している人は、まさに今が動き出すべきタイミング。ぜひ本書の内容を転職活動に生かして欲しいと思います。
ここでは、本書で語られている「面接NGポイント」についてまとめます。
1.「能力・実績を全面アピール」
面接で、相手企業に高く評価してもらうためには、「いかに自分の能力や実績をアピールするか」が重要だと考えがちです。
しかし、企業によって採用基準は異なる以上、能力や実績の高さがそのまま採用理由になるとは限りません。むしろ自己アピールが裏目となり、本人としては意図せぬ理由で不採用とされるパターンもあると言います。
リクルートエグゼクティブエージェントで、数々のエグゼクティブの転職支援をしてきたコンサルタントの森本千賀子さんは、面接時のリスクについて次のように語っています。
「面接の自己PRで、過去の経験・実績を語ることに集中するあまり、『なぜこの会社に入りたいのか』『この会社で何がしたいのか』『この会社で働くことで、自分はどうなりたいのか』という目的意識が抜け落ちている人が意外と多いのです。
企業側としては、もちろんこれまでの経験を生かしてほしいものの、成長意欲があり『伸びしろ』を感じさせる人を求めています。実際、選考現場で『即戦力となる経験を持つ人』と『経験は浅いが向上心が高い人』とが比較され、後者が選ばれることもよくあります。『過去の実績』という経験値だけでなく『今後のビジョン』を語れるようにしておくことが大切です。
「こんな経験を積みました」「こんなスキルを身に付けました」というアピールに終始してしまうと、自社ではどんな活躍をしてくれるのかについて具体的にイメージできません。
また「優れた能力と実績」をアピールしすぎると、企業側にかえって不安を抱かせることもあると言います。
「うちの会社では物足りなくて、すぐに辞めてしまうのでは」「上司よりも優秀だと、マネジメントがしづらいのではないか」「他の社員とのギャップがありすぎて浮くのではないか」といった懸念を抱かれる可能性があるからです。
まぁハイスペックな人材からすれば、こんな理由で落とされるならその方がいいと言えるかもしれませんが、どうしてもその企業に入りたのであれば、相手企業に合わせた自己PRが必要です。
そのためには、自分の能力をなんでもかんでもアピールしようとするのではなく、相手企業の「ニーズ」を意識してつかむことが重要です。
森本さんは、「企業サイトに記されているメッセージや今後のビジョンなどから、今回の採用背景、自分に期待される役割などを想像し、それらが自分のキャリアのどの部分と重なるのかを見極めてください。その部分にフォーカスして語るようにするとよいでしょう」と勧めています。
要は、自分が何を話したいかではなく、相手企業にとって魅力的に映る自分の能力や実績は何か、という視点でアピールすることが重要だということですね。
2.不用意な「提言」
自分の能力の高さや意欲をアピールしようとして、相手企業の経営方針に対し「こうするのがいいのではないでしょうか」「こうするべきだと思います」など、積極的に提言しようとするケースです。
うまくハマれば好意的に評価されるかもしれませんが、「うちの考え方とはズレている」と思われると、不採用にされるリスクが高まります。
企業の実情や社内の空気感を正しく理解していない以上、不用意な提言をするのは控えたほうがよいでしょう。
ただし、企業から意見を求められたり、あなたならどうするかと水を向けられたりした場合は、「もしかしたら過去に検討されたことかもしれませんが」などと前置きをつけながら堂々と自分の意見を語る必要があります。
これは非常に有益なアドバイスではないでしょうか。この前置きのがあるかどうかで印象は大きく変わります。聞く側も受け入れやすくなるでしょう。
他にも「生意気に感じられたら恐縮ですが」とか「内情を知らない分、的外れと思われるかもしれませんが」といった前置きもアリだと思います。
3.入社時の肩書にこだわりすぎる
「管理職の肩書を持って入社したい」のように、「入社時の」肩書にこだわるあまり、不採用とされるケースもあるようです。
企業側としては、たとえ近い将来に管理職としての活躍を期待していたとしても、「まずはフラットな立場で入社し、職場や既存社員になじんだ上で、周囲が認めるかたちで昇格させたい」と考えるもの。
前職で管理職に就いていた人からすれば、家族や同僚、友人に対する体裁を気にして、転職先でも同じ立場を保証して欲しいと考えるかもしれません。しかし肩書にこだわりすぎると、「肩書がないと仕事ができないのか」と不信感を抱かれ、破断になる可能性が高まります。
「希望の肩書が得られなければ入社するつもりはない」と確固たる基準にしているならいいですが、そうでない場合は、相手企業の考え方に理解を示す姿勢をもった方がよいでしょう。
4.面接でしゃべりすぎる
「最初に自己紹介をお願いします」と言われて、20分以上、延々と話し続けてしまう人は危険です。
「そんなことするはずない」と思うかもしれませんが、面接で緊張していると話が支離滅裂になり、それを取り戻そうと焦って次から次へと話し続けてしまうというのは、誰にもあり得ることだと思います。
特に経験豊富なミドル世代以上の人は、自分をPRしようとあらゆる経験をすべて話したいという心理が働き、延々と話し続けてしまうことがあると言います。
1つの質問への回答は、長くても3分以内。冒頭の自己紹介は、名前と簡単な経歴紹介で十分なので、できれば1分程度で済ませるよう助言しています。
自己紹介やPR、職務経歴紹介など、聞かれそうな質問には、1〜3分で答えられるよう準備しておきましょう。
重要なのは、あくまで「聞かれた質問にだけ答える」ということです。
アピールするために、あれもこれも話したくかもしれませんが、質問の要点をとらえ、できるかぎり簡潔に回答するよう心がけることが重要だと言います。
相手がもっと深く聞きたいと思ったら、必ず深掘りした質問がされるので、そのときに深く話せばいいのです。そのほうが、会話のキャッチボールが生まれ、面接官の印象にも残りやすくなるでしょう。
聞いてないことにまで勝手に話を派生させて一方的に話し続けられると、「この人は、話が長い、くどい…コミュニケーションが苦手な人」と判断されてしまいます。
5.「きれいに練られた優等生回答」
これは新卒採用の面接で特によく見られるパターンです。私自身、まんまとこの手の「優等生回答」を準備して面接に臨み、面接官に全く響いていないと痛感しながら、話し続けてしまった思い出があります。
「優等生回答」の例として、本書では下記のような回答をあげています。
「私はこれまで、営業の仕事を通じて、お客様に喜ばれる醍醐味を感じてきました。御社の製品もよくつかわせていただいています。海外展開も進められていることに成長性の大きさを感じ、ぜひ御社の一員として、自分自身の可能性を追求し、キャリアアップを実現していきたいと考えております」
一見シンプルにまとまっていて、わかりやすい内容に思えますが、次のような問題点が潜んでいると著者は指摘します。
1、抽象度が高い表現
「お客様に喜ばれる醍醐味」「可能性を追求し」「キャリアアップを実現」などの箇所は、抽象度が高すぎて、具体的にどんなことを指しているのかイメージできません。つまり何も言っていないことに等しい。
丁寧にきれいにまとめようとするほど、このような「美しい抽象表現の罠」にはまってしまうと言います。
2、自分軸 × テイク・オンリー
「海外展開も進められていることに成長性の大きさを感じ」から「キャリアアップを実現していきたい」の箇所は、会社の表層的な強みをもとに、その強みから享受できる自分のメリットを強調しているに過ぎません。
本人からすれば、うまく企業の強みを賞賛しながら自分の希望を伝えているつもりでしょうが、熟練の採用担当者には、「自社の強みは表層的にしか捉えてないし、そこから享受できる自分のメリットにしか目が行っていない」と即座に見抜かれてしまうでしょう。
要は「自分が入社することで企業側にはどんなメリットがあるのか」という視点がすっぽり抜け落ちてしまっているのです。
3、一般的、汎用的な内容
上記の文例は、すべて企業のホームページを見れば、誰でも言えてしまうような内容です。もっと言うと、海外展開さえしている企業であれば、どこの会社でも語れる内容です。
あなたにしか語れない志望動機、他の人との差別化できるメッセージになっていなければ、採用担当者の心には残りません。
では具体的にどのような回答をすればいいのか。詳細は本書をお読みいただきたいのですが、ポイントは、数字や固有名詞、実際に成功・失敗した体験談など「事実・エピソードに基づくリアリティ」があること、そして「相手企業に応じて『しっかり伝えるポイント』を変える」ということです。
まとめ
本書は元「リクナビNEXT」編集長の著書ですが、リクルートの転職サービスを礼賛する内容ではまったくありません。
転職市場全体を総合的に見ながら、具体的なエピソードや現場の声とともに、「そもそも転職すべきかどうか」という点から考えさせてくれる良書です。
転職を成功させるために押さえておくべきポイントも具体的に書かれているので、転職を検討している人はぜひ読んでみてください。
ちなみに「リクナビNEXT」は、無料登録すると「グッドポント診断」という自分の強みを知るための本格的な診断サービスを受けることができます。ぜひ試してみてください。
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