『裏・読書』元No.1ホスト・手塚マキの読書の楽しみ方

『裏・読書』元No.1ホスト・手塚マキの読書の楽しみ方




 歌舞伎町に書店がある、と聞いて驚いたのは2019年初めくらい。すでに移転が決まり、閉店してしまった後でした。

 思い出してみると、その書店「歌舞伎町ブックセンター」は以前通りかかったことがあり、その時はおしゃれなカフェだなぁと感じていただけで、店内に本があることすら気づいていませんでした。

 でも、とあるニュースで紹介されていたこの書店の特徴が面白い。店内に置いてあるのは全て恋愛の本で、「ドロドロした愛」「初恋」「官能的な愛」に分類されています。さらに店員がホスト。

 通りかかったあの店内がこんな面白い場所だったなんて、と更に驚き、あの時入らなかったことを後悔していました。

 今回紹介する『裏・読書』の著者は、歌舞伎町ブックセンターのオーナーでもある手塚マキさん。歌舞伎町でNo.1ホストを経験後、「Smappa!Group」会長としてホストクラブやBar、美容室などを経営されています。

 歌舞伎町に書店をオープンさせた著者の読書の楽しみ方に興味を持ち、この本を手に取りました。

 夏目漱石の『こころ』や川端康成の『眠れる美女』、太宰治の『走れメロス』といった名作文学から、東野圭吾『容疑者Xの献身』、又吉直樹『火花』といった最近のベストセラー小説まで、幅広いジャンルの名著13作が取り上げられており、著書の人生や経験に重ね合わせた独自の読み方が紹介されています。

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読書ノート



ホストのバイブル『ノルウェイの森』

 村上春樹さんの代表作『ノルウェイの森』は、部下のホスト達に「読んで研究しろ」と手渡している本だそうです。その理由は主人公・ワタナベの“受け身のスタンス”が、一流ホストに求められる姿勢そのものであるから。

 相手を否定も肯定もせず、答えも求めない。「ふーん」「へぇ」「やれやれ」といった相づちや、回りくどい言葉を多用し、特に何も言っていないのに会話を成立させてしまうワタナベの姿に、一流ホストの接客を重ねています。

 ホストとお客様との会話も、この”受け身”が大事なのだそうです。ホストクラブでの主役はお客様であり、ホストの力量はいつだって、「何を話すか?」ではなく「何を話していただくか?」で測られます。「へー」「そうなんだ!」といった一見「受け流し」にさえ感じられる言葉も、スムーズな会話をする上ではとても重要なのだそうです。

 『ノルウェイの森』をホストの視点で読むと、主人公・ワタナベの魅力をまた違った風に感じられるはずです。

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主役は周囲の人々『五体不満足』

 介護事業も行う著者は、乙武洋匡さんのベストセラー『五体不満足』についても独自の読み方をしています。

 乙武さんと10年来の親友で「乙(おと)さん」と呼ぶ著者は、この本の主役は、乙さんではなく、彼の周りにいた人たちだといいます。

 子どもの頃、野球・サッカー・ドッジボールなどをするときに、乙武さんも参加できるような「特別ルール」(オトちゃんルール)を作った人たち、そうした新ルールを喜んで受け入れた人たちこそが、この本の主役だというのです。

 乙武さんは、ある人が障がい者かどうかを決めるのは、「環境」なのだと言っています。つまり、いま置かれている環境において、生活に困難が生じるから「障がい者」と呼ばれるのであって、全く別の世界では障がい者でも何でもないかもしれない。この世界に絶対的な「障がい」なんてなく、所詮すべての「障がい」と呼ばれている状態は、相対的なものでしかない、ということです。

 たとえば極度の近眼である著者は、「もしメガネやコンタクトもない時代に生まれていたら、間違いなく障がい者だった」として、健全者・障がい者と認識させる社会をなくし、誰もが生きやすい「一般社会」を作っていかなければならない、と述べています。

 誰もが生きやすい「一般社会」を作っていくためには、障がい者自身の努力だけではなく、周りの人が「障がい」を取り除くためにサポートしていくことが大切です。その意味で、実は努力をしていたのは、乙さんの周りにいた人たちだったと説いています。乙武さんの周りにいた人たちはみんな、工夫をこらし、すごく柔軟にルールを変えながら、彼と生きているのです。

 障がい者への偏見や差別が少なくない時代に、生まれつき両腕・両足がなかった乙武さんの半生をつづったものなのに、後ろ向きなエピソードは一切出てこない『五体不満足』。本書を読んで、多くの人は「手や足がなくても乙武さんはこんなに頑張ってるんだから自分も頑張ろう」といった感想を持つかもしれません。

 しかし著者は、乙武さんから見習えることは、手足があるかどうかは関係なく、「目の前に広がる社会の中で楽しく生きていく方法を手繰り寄せる逞しさ」にあると説いています。

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読者の数だけ楽しみ方がある

 『裏・読書』で紹介されているのは13作。その中で私が読んだことがある本は4作でした。

 「一冊の本の楽しみ方は、読者の数だけ広がっているはず」と書かれている通り、私が読んだ感想と全く違っていましたし、自分と異なる受け取り方・読み方を知ることは面白かったです。

 読んだことがない本でも、あらすじが詳しく書かれてあるので、困ることなく楽しめました。(ネタバレもあるので、気になる本があれば先に読んでおいた方がいいかも)

 みなさんも本書を読んで、自分流の読書を楽しんでみませんか?

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