こんにちは、ひとはです。今回ご紹介するのは、『イキイキ働くための経営学』です。
「経営学」と聞くと、経営者や管理職のための学問で、雇われの身である会社員には関係のない話と考える方もいるかもしれません。
しかし本書は、働く主体である会社員が日々の仕事で抱いている悩みを解決するために、経営学や経営戦略を学ぶことが大切であると説いています。
その理由は、「人間は客観的に正しく物事を認識して判断することがあまり得意ではない」ということが関係します。
人はこれまでの経験によって作られた思い込みや偏見、先入観というメガネを通して物事を見てしまいます。そのため自分の直面している状況を正しく認識できず、問題の根本的解決にならないような行動をしてしまうのです。
この偏見を矯正し、できるだけ正しく仕事や会社を見るためのメガネとなるのが経営学であり、経営理論なのです。
今、会社で働く多くの方は、仕事が「楽しい」と感じられず、「自分らしく働けていない」ことに悩んでいます。「サザエさん症候群」という言葉があるように、日曜日の夕方になると、明日からまた会社に「行かなければならない」と思い、憂鬱な気持ちになってしまっている人が多くいます。
しかし、「何が憂鬱なのか」と聞かれても、特定の理由があるわけではないという方も多いのではないでしょうか。つまり漠然とした不安や疑問が、多くのビジネスパーソンを憂鬱な気持ちにさせているのです。
本書では、このような漠然とした不安や疑問のことを「モヤモヤ」と呼び、これを晴らすことが「イキイキ働く」ことにつながるとして、経営学の教えを説いています。
本書を読めば、イキイキと働くためには何を学び、何を身につけ、どんな行動をする必要があるのか、といった実績的な示唆を得ることができるでしょう。
なぜ「イキイキ」と働けないのか?
本書でいう「イキイキ働く」とは、職場やチームの中で自分の能力を活かして主体的に働くこと、つまり「自分らしく働く」ことを指しています。
多くの人がイキイキと働けていない原因は2つあります。一つは、やりたいことや適性との不一致によって「仕事が面白くない」と感じてしまうから。もう一つは、責任・権限(自由)・報酬のアンバランスによって「責任を負いたくない」と感じてしまうからです。
たとえば昇進して責任は増えたけど、自分で何も決められないし、給料もそんなに増えない、出世しても割に合わない、それなら今のままがいいと考えてしまう人は多いでしょう。
- 仕事の内容が自分のやりたいことと違う。
- 自分の適性に合わない。
- 責任の重さや業務量に比べて報酬が見合わない。
こうした状況に陥ると、仕事を楽しいと思えなくなってしまうのは当然のことのように思えます。
これを解決するための処方箋として説かれているのが、「自律的なキャリア形成」と「成果主義的報酬制度」です。
「自律的なキャリア形成」
「自律的なキャリアを形成」とは、所属する会社や組織に依存することなく、自分の好きなことや得意なことをもとにキャリアを設計し、実行するということです。それができれば、仕事が面白くないわけがありません。
自分でやりたいことや得意なことを見極め、会社に依存しない能力やスキルを磨く。そのためには、できるだけ若いうちから自分の夢やビジョンをはっきりと自覚し、その実現に向けてキャリアを築き上げていく意識が必要だといいます。
「成果主義的報酬制度」
そして、成果に応じて報酬がもらえる「成果主義的報酬制度」が十分に機能していれば、よりイキイキと働けるようになるでしょう。
昇進して責任が増えた分、報酬や権限もきちんと与えられれば、その立場に就くことを前向きに検討しやすくなります。
とはいえ、「成果主義的報酬制度」は企業側が決めるものですから、働く個人にとっては「自律的なキャリア形成」をいかに実現するかが、「イキイキ働く」ためのカギとなります。
では、「自律的なキャリア形成」とはどのように目指せばよいのでしょうか。
時代の変化に合わせて柔軟にスキルを磨け
まず、できるビジネスパーソンに必要なスキルには、以下の2種類があります。
- 「ポータブルスキル」…財務会計、英語、科学・技術に関する知識など、広範囲に通用する一般的な知識。
- 「企業特有のスキル」…その会社の中でしか通用しないノウハウや社内手続きのようなもの
「企業特有のスキル」は、身につけても役に立つのはその企業限定なので、スキルを身につければつけるほど、その企業への依存度を高めてしまうという特徴があります。
一方、「ポータブルスキル」を磨いておけば、企業に依存する必要がなくなります。そのため「自律したキャリア形成」を目指すためには、ポータブルスキルを身につけることの方が圧倒的に重要です。
しかしながら、ポータブルスキルだけでは仕事をうまく進めることができないというジレンマもあります。事業はたくさんの人々が共同作業を行う場としての企業で遂行されるため、現実においては、企業特有のスキルとポータブルスキル、どちらも身につけなければ、実質的に「できるビジネスパーソン」にはなれないのです。
また、技術やサービスの陳腐化のスピードはどんどん速まっており、せっかく時間をかけて身につけた専門知識(ポータブルスキル)も、社会や産業のレベルの変化によって不要なものとなってしまうリスクは常にあります。
そのため、「自律的なキャリア形成」を目指すには、一つの専門性に固執するのではなく、時代の変化によって新しいスキルや能力を柔軟に身につけていくことが重要なのです。
なぜ経営学が求められるのか?
イキイキと仕事をするために、なぜ経営学や経営戦略を知ることが大切なのかーー。
結論としては、人は思い込みや偏見、先入観というメガネを通して物事を見てしまうため、できるだけ正しく今の仕事や会社について把握するためのツールとして経営学が役に立つから、ということです。
「自分らしく働けていない」と感じている方は、自分自身や周囲の状況を見失っている状態です。その霧を晴らすにも、経営学を学び、自分の仕事や組織のメカニズム、会社の経営システムの基本構造や、組織のロジックを理解することが大切なのです。
ただし、注意が必要なのは、経営の理論やフレームワークは、経営上の解答を得るためではなく、あくまで「現実を把握するためのメガネ」として用いるべきだということです。そのうえで、抜本的な施策を考案することが大切だといいます。
経営学のメガネを通して世の中を見よう
本書は「イキイキ働くためには」というシンプルな問いに対して、経営学や組織論、リーダー論、心理学的研究などさまざまな視点から示唆を与えてくれる一冊です。
各分野の発展の歴史を辿りながら、幅広い知識を学ぶことができ、知的な旅をさせてもらいました。
もちろん「イキイキ働く」ための答えは一つではなく、人それぞれ置かれている状況によって異なるでしょう。だからこそ、経営学のメガネを通して今の組織や世の中を見つめることで、その変化の本質を捉え、柔軟に自分自身をアップデートしていくことが大切なのです。