『失敗の法則』〜日本人はなぜ同じ間違いを繰り返すのか?

『失敗の法則』〜日本人はなぜ同じ間違いを繰り返すのか?




 こんにちは、ひとはです。

 人は誰でも大なり小なり失敗をするものですし、失敗から何かをつかんでこそ成功が得られるともよく言われます。

 しかし自ら失敗せずとも、過去の事例から学ぶことで失敗を回避することができます。特に、大きな組織の責任ある立場の人にとっては、失敗が許されないケースの方が多いでしょうから、過去の失敗事例から原因を分析し、自分の経験値として昇華することは非常に意義のあることでしょう。

 本書では、企業の失敗事例や歴史的な事件を取り上げ、それらを引き起こした問題の本質を8つの法則にまとめています。そこには日本人が共通して持っている考え方や行動のパターンである「暗黙知」が深く関わっており、それが時代に合わなくなってきているのが原因ではないかという論を展開しています。

 たとえば東芝が原発事業で巨額損失を計上した真の原因や、霞ヶ関に今も残る不思議なルール、電通の若き女性社員が長時間労働により自殺した背景、民主党政権が短命で崩壊した理由など、数々の事例を通して日本人の「暗黙知」を解き明かし、失敗の原因の法則化を試みています。

 法則の内容以上に驚かされたのは、それらの事件の裏側について当事者しか知り得ないような細かいことまで調べていることです。その内容だけでも十分に一冊の本として出版できるのではないかと思います。

 ここでは、「現場が強いリーダーを許さない」「部分が全体を決める」という2つの失敗の法則についてご紹介しましょう。

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①現場が強いリーダーを許さない
〜東芝を暴走させたカリスマ社長〜

 東芝は2017年3月期決算で、1兆円近い巨額の損失を計上しました。その最大の原因は原発事業の損失です。

 アメリカの原発メーカーであるウエスチィングハウス社を買収し、世界的な原発メーカーとして事業の拡大を計画していた東芝。それを主導していたのが当時の西田厚聰(あつとし)社長でした。しかし東日本大震災による原発事故という不幸な出来事が起こり、子会社となっていたウエスチングハウス社が大きな赤字を計上したことで巨額の損失が発生。その穴埋めをするために行った不適切会計が東芝を窮地に陥れることになります。

 西田氏の事業戦略が失敗に終わったのは、原発事故という不幸な偶然が原因ではあったものの、それをきっかけに社内から吹き上がった数多くの内部告発を見ると、日本の大企業がいかにカリスマ経営者を受け入れていなかったかが伺えます。

 著者はこのことから、失敗の第1法則「現場が強いリーダーを許さない」を導いています。つまり西田氏のようなカリスマ経営者は、東芝のような日本の大企業では受け入れられづらく挫折しやすいということです。

 日本社会は昔から、大きな社会を小家族に分割して紛争処理をする仕組みがあり、それによって生産性が上がったとされています。そのため現代の大企業でもこの形が受け継がれ、中間集団の自律性が高く、タコツボ的な組織構造ができあがっています。

 そこに既存の構造を変えようとする「強いリーダー」が現れ、「トップが命令したら逆らえない」という状況になると、現場の状況は悪化する場合が多く、部下たちは内心で反発心を抱くようになります。

 こうしたことから、カリスマ的リーダーが、独立性が高い組織をまとめるワンマン型の経営は、創業社長を除いて、日本ではうまく行かないといわれています。特に大きな組織では、現場が優秀で、強い力をもっていることから、ワンマン社長が空回りし、組織がバラバラになってしまうことが多いのだそうです。

 東芝の西田社長の例からわかるのは、日本の大企業の社員はカリスマ性のある「強いリーダー」を心の底ではきらっているため、挫折しやすいということです。



②部分が全体を決める
〜霞ヶ関の不思議な世界〜

 著者は、独立行政法人・経済産業研究所に3年間勤務した経験があり、そのときに霞ヶ関は普通の民間企業とはまったく違うルールで動いていると感じたそうです。

 日本の法律は極端に相互依存的・補完的で、一本の法律を改正しようとすると何本も改正が必要となり、関連する全ての官庁が合意しないと改正できません。

 そのため他官庁と合意形成するための「合議(あいぎ)」という手続きがあります。これは公式の会議ではなく、法改正が必要となった官庁から関係する各省にメールで連絡して合意を得る根回しのようなものです。とはいえ全員一致が必要とされていますので、関係者には誰にでも拒否権があり、合意を得るのに時間がかかります。

 そこで行われた各省折衝を、正式に各省のトップが確認するのが「事務次官会議」です。ここまで上がった法案が否決されることはまずなく、そのまま「閣議」に上がります。(ただし各省の利害が対立する場合は、ここで妥協案をつくるか、ほとんどの場合先送りされます)

 要するに、法案は課長補佐が起案し、課長が関係各課と調整して稟議書を回し、政治家にもっていくというように、公式の職階では最下層の官僚からボトムアップで意思決定が行われ、事務次官まで上がったときは拒否できないという稟議の構造になっているのです。

 多くの利害関係者が相互に牽制しつつも、最終的な決定者のいないという構造は日本独特のシステムであり、江戸時代から変わらない仕組みだといいます。

 これを「部分が全体を決める」という第2の法則として、日本の企業や政治の失敗する大きな原因になっていると指摘しています。

失敗の原因を知ることが成長に繋がる

 失敗の第1法則と第2法則を、本書の事例を引用しながらご紹介しましたが、これらも含めて8つの法則をまとめてリストアップします。

  • 第1法則:現場が強いリーダーを許さない
  • 第2法則:部分が全体を決める
  • 第3法則:非効率を残業でカバーする
  • 第4法則:「空気」は法律を超える
  • 第5法則:企業戦略は出世競争で決まる
  • 第6法則:サンクコストを無視できない
  • 第7法則:小さくもうけて大きく損する
  • 第8法則:「軽いみこし」は危機に弱い

 いかがでしょうか。これを見て、日本の会社や組織が持つ特質を感じられる方は、組織の中でかなり苦労されているのではないでしょうか。

 それぞれが日本の組織の持つ問題の断面を示していると思います。それは日本人が共通しても持つ「暗黙知」によるものなのです。この「暗黙知」が続く限り、日本人は同じ失敗を繰り返してしまうのかもしれません。

 本書を読み終えて、著者の知識量の多さに圧倒されつつも、過去の失敗の原因を分析する論理的な考え方に敬意を払わずにおられませんでした。

しかし考えてみると私も日本人ですので、本書で取上げられている失敗をしてしまう特質を持っているのです。

 大きな会社の社長や政治家の失敗とは規模が違うかもれませんが、私の人生においても、日本人であるが故に失敗してしまうことがあるはずです。もしくは自分では気がつかないだけでに、すでに失敗していたことがあったのかもしれません。

 同じ間違いを繰り返さないためにも、過去の失敗事例から真の原因を学び、「暗黙知」という常識を疑う視座を持つことは、正しい判断を下すために必要な過程だといえます。

 本書は、人生において一度ならず二度三度と手にすることになる本です。

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