LINE・葉村氏が唱える「破壊」によるサバイバル時代を生き抜く3つの戦略

LINE・葉村氏が唱える「破壊」によるサバイバル時代を生き抜く3つの戦略




 「10年~20年後、今存在している49%の仕事がなくなる」…もはやビジネスパーソンであれば、知らない人はいない未来予測ではないでしょうか。

 このデータは、未来の職業の増減を調査・研究を行っているオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授と野村総合研究所が、日本を対象に共同で行った調査結果です。

 この研究では、具体的にどのような仕事が消滅するかについても示されているため、多くのビジネスパーソンが今後のキャリア戦略や仕事選びについて考え直すきっかけとなったことでしょう。

 今後、企業や個人が生き残るためにはどのような戦略が必要なのか、そのための指針を与えてくれるのが、今回紹介する『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』です。

 タイトルにある「破壊(disruption)」とは、イノベーションを起こして新たな産業を創造するために、既存の業界を破壊=ディスラプト(disrupt)するという意味で使われています。そしてディスラプションが起こる背景には、常に技術進化が存在しているといいます。

 著者は、LINEの執行役員である葉村真樹さん。GoogleやTwitterの日本法人、ソフトバンクなど名だたる企業で要職に就き、辣腕を振るわれた経験から、今後の生き残り戦略として、次の3つの原則を提唱しています。

  1. 人間中心に考える
  2. 存在価値を見定める
  3. 時空を制する

 これらの意味を簡潔にまとめると、以下のように説明できます。

 私たちが人間である以上、創造すべき価値は、「人間中心に考える」ことが前提となる。そして、その価値は、自分ならではの提供価値であり、かつ世の中から求められるものである必要がある。すなわち「存在価値」となるのである。そして、その価値の創造は、時間と空間の両方、すなわち「時空を制する」ことで初めて達成することができるのである。(p.323)

 それでは、3つの原則を詳しく解説していきます。

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①人間中心に考える

 今後、ビジネスにおける勝者と敗者を分けるのは、テクノロジーの進化に伴うディスラプションの波に乗れるかどうかであると葉村さんはいいます。

 テクノロジーとは「人間の機能および感覚の拡張」と考えたのは、メディア論の大家であるマーシャル・マクルーハン。

 例えば、人間が歩いて東京から名古屋まで移動しようとしたら途方もない時間がかかりますが、新幹線を利用すれば1時間40分で移動が可能となり、リニア新幹線が開通すれば、その半分の所要時間で済みます。これはテクノロジーの進化によって、人間の「脚」の機能を「拡張」したということができます。

 このように、テクノロジーの進化によって、人間の機能を拡張することで、これまで解決できなかった課題を解決してきた、という視点を持つことが重要だといいます。なぜならば、技術はあくまで手段であり、人間の課題を解決するという目的がなければ、世の中に広まることはないからです。

 「人間がテクノロジーによって、自らの機能や感覚を拡張することで、どのように課題を解決するのか」ーーそれを中心に考えることが重要で、それこそが「自分中心に考える」ということなのです。

②存在価値を見定める

 「存在価値」とは、文字通り「その企業がこの世に存在する価値」のことで、より具体的にいうと、「自社ならではの提供できる価値」と「顧客やユーザーが求めている価値」の両方を満たす価値のことです。

 アメリカでは「バリュー・プロポジション」と呼ばれ、ミッション・ステートメントに規定している企業が多くあります。

 今後のビジネスでは、自社の「存在価値」を見定めた上で、それを実践することが重要だとされています。

 なぜなら、破壊的イノベーションは、現在市場から求められている価値を低下させ、別の価値を向上させることを主眼とするからです。そのとき「自分ならではの価値」が何なのかを明確に示せていなければ、ディスラプションによって自らの地位を失う可能性が高くなります。

 日本でも「経営理念」や「社是・社訓」を掲げる企業は多いですが、自らのバリュー・プロポジション(存在価値)を規定するようなミッション・ステートメントを掲げている企業は非常に少ないです。

 日本企業とシリコンバレー企業との違いは、この「存在価値」を明確に定義できているかどうかに現れているのです。

 たとえばTwitterのミッションは、「言語や文化などの障壁をなくして、思いついたアイデアや見つめた情報を一瞬にして共有する力をすべての人に提供すること」です。普段Twitterを使っている方であれば、この言葉に共感できるのではないでしょうか。

 では、日本企業の場合はどうか。

 「世界の繁栄と人類の幸福のために貢献すること。そのために企業の成長と発展を果たすこと」

 これは日本の時価総額トップ20常連の誰もが知る大企業の経営理念です。どの企業のものかわかるでしょうか。

 正解は「キャノン」です。これでは「自社ならではの提供できる価値」が分からず、「存在価値」を伝えられていませんよね。

 著者は、「存在価値の有無が、今後の生存可能性を左右するものであるかどうかということを断じることはできない」としつつも、常に自らの存在価値を考えて事業を構築していくという姿勢と実践が重要であると唱えています。

 つまり、重要なのはミッション・ステートメントの存在ではなく、常に自らの「存在価値」を見定めた上で、それを実践することなのです。



③時空を制する

 「時空を制する」とは、「どれだけ他者の時間をコントロールすることができたか、そして地理的・空間的な制約を超えて、どれだけの広がりを持ってより多くの人をコントロール下に置くことができたか」を意味しています。

 「時間と空間」、つまり「時空」を制することが、ディスラプション時代において極めて重要な生存戦略となるのです。

 ここでは「時間」についてピックアップします。「時間を制する」とは、シンプルに言えば消費者の余暇時間やスキマ時間を制するということです。

 スマートフォンの登場によって、これまで何の価値も生み出せていなかったスキマ時間そのものの価値が高まっており、企業は分単位、秒単位でこの時間を奪い合うようになりました。

 次に時代の支配者となりつつあるのが「自動運転」です。

 完全な自動運転が確立するまで、まだ時間はかかりますが、これが実現すれば、これまで運転によって奪われていたムダな時間を、価値ある時間へと変えることができます。

 移動中は仕事や娯楽の時間となり、多くの人がスマホやインターネットを利用することでしょう。だからこそ、GoogleやAppleなどの異業種からも自動車産業へ参入し、技術革新を競い合っているのです。

 彼らにとって自動運転の市場は、自社がこれまで培ってきた競争優位性を発揮しながら「時間を制する」ことができる、喉から手が出るほど欲しい市場なのです。

まとめ

 本書では、技術革新によって激変するサバイバル時代において、企業や個人が生き抜くために必要な考え方の根幹について、丁寧に描かれていました。

 どんな企業が成長し、衰退するのか、その判断基準となる情報が詰まっています。

 未来に向けて自分はいま何をすべきなのか、読んでいるだけで新しいアイデアが次々と浮かんでくる一冊となっています。

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